4,サイドアップ
今日こそは、私から高橋君に近づくんだ。
いつまでも見ていたってなんにも進歩しない。
ここ数週間本当に何も無かったのはそれを証明している。
それに、これが恋って分かっちゃたなら尚更…。
教室に入る。
高橋君を探す。
「あれ、いない…。」
その代わりに佐藤君が一人でいるのが見える。
どういうこと?
どうしても気になって思わず声をかける。
「佐藤君、あのさ…。」
「おはよ、羽柴さんどうしたの?」
「高橋君は?」
「あー奏太?今日休みだよ?」
「え、なんで?」
「具合悪いみたい。熱あるらしいよー。」
「熱?!そ、そうなんだ…。」
「あー放課後奏太ん家行っちゃう?」
「え?!」
「あはは。ごめんごめん、冗談だよ笑」
「え、?あ、うん!」
「羽柴さんが心配してたーって言っとくわ!」
「ありがとう…お大事に。」
会話を終え、私は席につく。
それにしても、なんで家に行くなんて冗談を言ったんだろう。
冗談じゃなかったら良かったのに…。高橋君の家、行けたらどれだけ幸せか。
少女漫画だとこういうとき看病しに行くんだろうな。
看病回、とかなんとか言っちゃって。
熱が高いせいで朦朧としてる男の子は、女の子にいつもは言えない気持ちを伝えちゃったりなんかしちゃって!女の子は更に意識しちゃったりしちゃって!
いや、私にはそんな…。ありえない話だ。
頭の中の妄想を素早くかき消す。
朝の会が始まり、また、いつも通りの日常が始まる。
「あ。そうだ!今日席替えしまーす。先生が勝手に席決めといたから。一時間目までに席移動しとけよー。」
私の担任はなんでこうも都合よく、しかも独断で色々決めてしまうのだろう。
もっと生徒に選択の自由を与えてほしいものだ。
新しい座席表を見に行く。
好きな人がいると自分の名前よりもその人の名前を先に探してしまうのは私だけだろうか。
へぇー高橋君前の方なんだ。
えっと、私は。
「お、羽柴さん隣じゃん!」
「え…」
またもや、自分が探すよりも先に他人に答えを言われてしまった。ネタバレされた気分だ。
「佐藤君…。」
「なんでそんな顔してるの~?しばらくよろしくね。お隣さん。」
窓際の一番後ろの席、の隣が私の席になった。
つまり佐藤君は窓際の一番後ろの席だ。
「この席なんかテンションあがるね!」
「うん笑」
この人もすごく良く話しかけてくれる。よくわからない人となるより高橋君の友達というだけで、なんだか少し安心してしまう。
授業開始1分前の席の佐藤君が机の中を漁っている。
焦っているようだ。
「うわ、教科書忘れたー!!借りてこよ!!」
そんな無茶な…。既に授業開始30秒前になっていた。
佐藤君が立ち上がり足早に歩き始めたのも虚しく、授業開始のチャイムが鳴る。
佐藤君が苦い顔をしてこちらに戻ってきたので私は勇気を出した。
「良かったら、私の見る?」
「え、いいの?助かる!まじごめん!!」
そうして一時間目が始まった。
しばらくしてから、佐藤君が小声で話しかけてきた。
「ねえ、羽柴さん。これ。」
彼が手渡してきたメモ書きに目をやる。
高橋奏太の住所
の下に、本当に個人情報が書いてあるのだ。
「えっ…!」
思わず、体が跳ね上がった。
へへ、と佐藤君は屈託のない笑みを私に向ける。
何考えてるんだこの人。
その後、何か言ってくるかと思ったが何も言ってこなかった。
それが怖くて仕方なかった。本当に何も言ってこなかったのだ。
昼休みになって、仕方ないから私から話を振ることにした。
「ね、佐藤君これどういうこと?」
「あー。奏太の家、知らないかな。って思って。」
「知らないけど…。そういうことじゃなくて!」
「えっと?もしかして僕の勘違いだった??」
「本当に佐藤君が何考えてるか分かんないよ…。」
「いや、羽柴さん。奏太のこと気にかけてたから、看病でも行きたいのかなあと思って。でも、無理に連れてくのもあれだからせめて選択権を与えてあげようと思ったわけだよ!」
「選択権?」
「住所知ってるから看病にも行けるだろし。行かないこともできるし。自由じゃん?」
佐藤君は、私をアシストしようとしてくれてるってこと??
これって、そういうことだよね。
え?てか私が高橋君好きなのもお見通しってこと?!
どんどん頭が混乱していく。
「まあ、行きたかったら行ってみなよ!」
「ありがとう?」
もうなんだか訳が分からないので、お礼を言った。
お見舞い…。
そんな仲良くない相手が来るのってどうなんだろう。
気遣わせちゃう、よね。逆に疲れさせちゃうかも。
行かないほうがいいよね。
それに、何より。
勇気が出ないんだ。
だって、上手く話せないだろうから。変なところ見せたくない。
「え、行きなよ!!」
「そんな無理だよ…。」
掃除の時間に佐藤君の奇行の一部始終を千夏に話したのだ。
「佐藤が気利かせてくれてんでしょ??なんなら乗っかちゃえばいいのに。」
「行っちゃおうかな。えーでもな…。」
「んーとりあえず行ってみなよ。やっぱ無理かもってなったら引き返せばいいし。」
放課後、普段とは逆方向の電車に乗り馴染みのない駅に降りる。
なんだかドキドキしてきた。
ってか、会いた一心でここまで来ちゃったよ!
改札を過ぎて、階段を降りる。
知らない景色。
高橋君は毎日この景色を見てるんだ。
なんだかそれだけでキュンとしちゃう。
だいぶ重症だな、私。
駅から徒歩5分という当てにならない情報をもとに彼の家を目指す。
目指していた…。
待って。やっぱきもくないかな??
だってそんな仲良くないじゃん。
私が一方的に好きなだけじゃん。
片想いじゃん…。
「やめよう。」
私は、意気地なしだ。
踵を返す。
高橋君に会えたなら、
教室で普通に会えたなら。
今度は逃げないから。
だから、今日だけは仕方ないよね。
今日こそは、私から高橋君に近づくんだ。
いつまでも見ていたってなんにも進歩しない。
ここ数週間本当に何も無かったのはそれを証明している。
それに、これが恋って分かっちゃたなら尚更…。
教室に入る。
高橋君を探す。
「あれ、いない…。」
その代わりに佐藤君が一人でいるのが見える。
どういうこと?
どうしても気になって思わず声をかける。
「佐藤君、あのさ…。」
「おはよ、羽柴さんどうしたの?」
「高橋君は?」
「あー奏太?今日休みだよ?」
「え、なんで?」
「具合悪いみたい。熱あるらしいよー。」
「熱?!そ、そうなんだ…。」
「あー放課後奏太ん家行っちゃう?」
「え?!」
「あはは。ごめんごめん、冗談だよ笑」
「え、?あ、うん!」
「羽柴さんが心配してたーって言っとくわ!」
「ありがとう…お大事に。」
会話を終え、私は席につく。
それにしても、なんで家に行くなんて冗談を言ったんだろう。
冗談じゃなかったら良かったのに…。高橋君の家、行けたらどれだけ幸せか。
少女漫画だとこういうとき看病しに行くんだろうな。
看病回、とかなんとか言っちゃって。
熱が高いせいで朦朧としてる男の子は、女の子にいつもは言えない気持ちを伝えちゃったりなんかしちゃって!女の子は更に意識しちゃったりしちゃって!
いや、私にはそんな…。ありえない話だ。
頭の中の妄想を素早くかき消す。
朝の会が始まり、また、いつも通りの日常が始まる。
「あ。そうだ!今日席替えしまーす。先生が勝手に席決めといたから。一時間目までに席移動しとけよー。」
私の担任はなんでこうも都合よく、しかも独断で色々決めてしまうのだろう。
もっと生徒に選択の自由を与えてほしいものだ。
新しい座席表を見に行く。
好きな人がいると自分の名前よりもその人の名前を先に探してしまうのは私だけだろうか。
へぇー高橋君前の方なんだ。
えっと、私は。
「お、羽柴さん隣じゃん!」
「え…」
またもや、自分が探すよりも先に他人に答えを言われてしまった。ネタバレされた気分だ。
「佐藤君…。」
「なんでそんな顔してるの~?しばらくよろしくね。お隣さん。」
窓際の一番後ろの席、の隣が私の席になった。
つまり佐藤君は窓際の一番後ろの席だ。
「この席なんかテンションあがるね!」
「うん笑」
この人もすごく良く話しかけてくれる。よくわからない人となるより高橋君の友達というだけで、なんだか少し安心してしまう。
授業開始1分前の席の佐藤君が机の中を漁っている。
焦っているようだ。
「うわ、教科書忘れたー!!借りてこよ!!」
そんな無茶な…。既に授業開始30秒前になっていた。
佐藤君が立ち上がり足早に歩き始めたのも虚しく、授業開始のチャイムが鳴る。
佐藤君が苦い顔をしてこちらに戻ってきたので私は勇気を出した。
「良かったら、私の見る?」
「え、いいの?助かる!まじごめん!!」
そうして一時間目が始まった。
しばらくしてから、佐藤君が小声で話しかけてきた。
「ねえ、羽柴さん。これ。」
彼が手渡してきたメモ書きに目をやる。
高橋奏太の住所
の下に、本当に個人情報が書いてあるのだ。
「えっ…!」
思わず、体が跳ね上がった。
へへ、と佐藤君は屈託のない笑みを私に向ける。
何考えてるんだこの人。
その後、何か言ってくるかと思ったが何も言ってこなかった。
それが怖くて仕方なかった。本当に何も言ってこなかったのだ。
昼休みになって、仕方ないから私から話を振ることにした。
「ね、佐藤君これどういうこと?」
「あー。奏太の家、知らないかな。って思って。」
「知らないけど…。そういうことじゃなくて!」
「えっと?もしかして僕の勘違いだった??」
「本当に佐藤君が何考えてるか分かんないよ…。」
「いや、羽柴さん。奏太のこと気にかけてたから、看病でも行きたいのかなあと思って。でも、無理に連れてくのもあれだからせめて選択権を与えてあげようと思ったわけだよ!」
「選択権?」
「住所知ってるから看病にも行けるだろし。行かないこともできるし。自由じゃん?」
佐藤君は、私をアシストしようとしてくれてるってこと??
これって、そういうことだよね。
え?てか私が高橋君好きなのもお見通しってこと?!
どんどん頭が混乱していく。
「まあ、行きたかったら行ってみなよ!」
「ありがとう?」
もうなんだか訳が分からないので、お礼を言った。
お見舞い…。
そんな仲良くない相手が来るのってどうなんだろう。
気遣わせちゃう、よね。逆に疲れさせちゃうかも。
行かないほうがいいよね。
それに、何より。
勇気が出ないんだ。
だって、上手く話せないだろうから。変なところ見せたくない。
「え、行きなよ!!」
「そんな無理だよ…。」
掃除の時間に佐藤君の奇行の一部始終を千夏に話したのだ。
「佐藤が気利かせてくれてんでしょ??なんなら乗っかちゃえばいいのに。」
「行っちゃおうかな。えーでもな…。」
「んーとりあえず行ってみなよ。やっぱ無理かもってなったら引き返せばいいし。」
放課後、普段とは逆方向の電車に乗り馴染みのない駅に降りる。
なんだかドキドキしてきた。
ってか、会いた一心でここまで来ちゃったよ!
改札を過ぎて、階段を降りる。
知らない景色。
高橋君は毎日この景色を見てるんだ。
なんだかそれだけでキュンとしちゃう。
だいぶ重症だな、私。
駅から徒歩5分という当てにならない情報をもとに彼の家を目指す。
目指していた…。
待って。やっぱきもくないかな??
だってそんな仲良くないじゃん。
私が一方的に好きなだけじゃん。
片想いじゃん…。
「やめよう。」
私は、意気地なしだ。
踵を返す。
高橋君に会えたなら、
教室で普通に会えたなら。
今度は逃げないから。
だから、今日だけは仕方ないよね。