本当に普通で良い日だった。
日差しが柔らかくて
空は晴れ晴れとしている
ほんの少し花の香りがする風。
そして、私の隣にいる愛しい人。
私が「悠久」と呼ぶと、擽ったいような少し低い声で「何?」と微笑んでくれる。
「呼んでみただけだよ。」と笑い返すと
「霖。」と私の好きな声で呼ばれる。
「どうしたの?」
「呼んでみただけだよ。」
そんな会話が愛おしくて、なんだか恥ずかしくて笑ってしまう。

でも、
私達の細やかな幸せがこんなに簡単に壊れてしまうだなんて。
後悔したって、なにもかもが手遅れなんだ。

気がついたときには全身に強い衝撃と激痛が走っていた。
車の急ブレーキの音。
誰かわからない女の人の悲鳴。
男の人の怒声。
どうして?どうして体が痛いの?
どうして動かないの?声も出ないの?
悠久、悠久は?大丈夫なの?

私は辛うじて動かせる目線だけで悠久を探した。
でも探した私が馬鹿だった。
見なければ良かったのに。
そしたら、そしたら…

彼は見るも無残な姿になっていた。
悠久…悠久…あぁ、、どうして、、?
神様、、どうして、、?
どうして、愛しい時間も愛しい人も
全部簡単に壊してしまうの、、?
ねぇ、、

そこで私は深い深い沼の中に引きずり込まれるように目を閉じた。

そこからぼんやりとした記憶の欠片が見えた。
私は病院に運ばれた。
お母さんもお父さんも凄く泣いていた。
娘を助けてくださいと、お医者様に縋りついていた。
お医者様…。私はまだ生きてるから、悠久、悠久を助けて、、。
悠久痛いと思うの。凄く、凄く。
だって悠久は私を庇ってくれた。もし、悠久が私を庇ってくれなかったら悠久も私も車の下敷きになって引き摺られていた。
悠久は私を守ったの。だから、早く。悠久を…

それから多分数日経ったんだろう。
悠久のお父さん、お母さんがお見舞いに来た。
お母さんが私に語りかけてくれた。
「霖ちゃん。悠久ね、死んじゃったのよ。手術が終わって、1時間後に目を覚ましたわ。最後の最後まで霖ちゃんを心配してたの。霖は?霖は大丈夫だった?って。私ね、悠久が生きてなきゃお母さんもお父さんも霖ちゃんも許さないわよって怒ったのよ?……でもね……。」
喉の奥から絞り出すような声だった。涙ぐんで言葉が詰まっていた。
「死んじゃったの…………!」
堰き止めていたものが全て溢れだしたおばさんが膝から崩れ落ちた。
あぁ、泣かないで。おばさん…。本当に、本当にごめんなさい。私のせいね。
悠久のお父さんは震える声で
こう言ってくれた。
「私達はね、霖ちゃんの事は本当の娘のように思っているんだよ。悠久が死んで、霖ちゃんまで居なくなったら、私達も霖ちゃんのご両親もどうやって生きれば良いのか分からなくなってしまうよ…。」
おじさん、ごめんなさい。悠久を喪ったのは私のせいなのに。それでも私を娘と思ってくれるおじさんは優しいね。おじさん、お願いだから………。そんなに辛そうな顔をしないで……。



それから暫くしたら目が覚めた。
もちろんリアルじゃない。
意識の中で、だ。
真っ暗で暖かい。
抱きしめられてるみたいな温もり。
あぁ、、、。悠久、、、。