【短編】また会える日まで、君の幸せを願う



8時45分、待ち合わせの駅に着く。
少しドキドキしながら改札を出れば、
もう来ている彼の姿。


今日も、かっこいい。

よしっ、ぺちっと頬をひとつ叩いて彼の元へ足を進める。
「お、おまた「おにーさんっ、ひとり?」

私の声を遮り、1人の女性が彼に声をかけた。

逆ナンか… そうだよね、かっこいいもんね。

「っなんだよ、玲菜(レイナ)かよ」
「えへっ、ひろきが見えたから来ちゃった」

わざとらしくボディータッチをしたその彼女はどうやら知っている子らしくて、彼も頬を緩ませた。
「1人?」
「いや、友達ときてるよ〜」


側から見れば、2人はお似合いカップル。
会話に花を咲かせているところを見ると
胸がキュッと締め付けられた。


なにこの感情………


「てかさ、うちらとあそぼーよ!久々に会えたんだし!」
「あ、俺今からデートだから」

そう言って女の子の腕を振り解いた彼は
駅の入り口、つまり私の方に向かって歩いてきた。



「っと、あ、あのっ、」

彼が私に気づかずに目の前を通り過ぎたところで、咄嗟に呼び止める。

「わわっ、かほちゃん?!」
私の声に驚いた様子で勢いよくこちらに振り向き、私を認識するや否や目を見開いてから、すぐにニコッと微笑んだ。

「ごめんね?待った?」
「いえ、、」
明らかに彼の方が早くついていたはずなのに、それでも今来たところだと言って笑ってくれた。


「、、、ぁいい」
「へ?」
行こっか、そう言って歩き出した彼の少し後ろについて歩く。前からボソッと聞こえる声が聞き取れなくて、聞き返すと、彼は振り向いて

「今日もかぁいいね」
そういたずらに笑った。


全身の熱が、ほっぺたに集まって、暑い。

「そうやってすぐ真っ赤になるところも…」

かわいいね、耳元で囁かれて思わず立ち止まる。

「ほら行くよ?」
顔を覗き込まれながら、当たり前のように差し出された右手を、遠慮がちに握って今度は隣を歩く。

水族館までの10分間、彼がたくさん話しかけてくれたけれど、私はもうそれどころではなかった。