都内の大学3年生で、サッカーが好きなこと。

ダンスサークルに入っていて、愉快な仲間たちがいること。

まだ中学生の妹さんがいて、毎日共働きの両親の帰りが遅いためお弁当や食事を用意していること。

サキさんとは幼馴染で、家が隣同士なこと。

それから、お花はあまり好きではないことも教えてくれた。
好きではない、というのは嫌いというわけではなくて、好きでもなければ嫌いでもないという意味で、なんて慌てて修正して。


話せば話すほど、彼のことを知りたくなる。


「よかったら今度の日曜、水族館に行かない?」
そうそう!と何かを思い出したようにカバンから取り出したのは、2枚の水族館のチケットだった。



「あ、クラゲの…」
それは私が1ヶ月前から密かに絶対に行こうと思っていた水族館の1日券。


「いっ、行きたいです!!」
「ふはっ、かぁいいね、やっぱり」
思わず前のめりで答える私の頭を二度ぽんぽんとされ、右手の小指を差し出された。

「ほら、デートの約束!指切りげんまん!」
そう無邪気に笑った彼は小さく手を揺らす。


………思考が一時停止しました。
ちょっと待って、展開が急すぎない?!
んえぇ、おしゃれなイケメンに出会って?
おしゃれなイケメンにかわいいってお世辞を言われて?
おしゃれなイケメンと、、で、デート…?

………私、何かしたっけ?
今日が命日?
毎日がエブリデイ?
もしかしてどこかに隠しカメラがあってドッキリ番組?!


「じゃあ今度の日曜日、駅前に9時集合で!」
いいよね?と小首を傾げて、上目遣いで尋ねる彼に、胸が高鳴った気がした。


「そろそろお開きにしよっか」
バイト終わり、カフェに来てから1時間。
スマホの時刻は18時を告げた。
すっかり日が落ちて外には仕事終わりのサラリーマンが行き交う。

「あ、そうだ、これ。君にあげるよ」
そう言って差し出されたのは、お花屋さんで彼が購入した赤い1輪のバラ。



「君に似合うなぁって思って買ったから」


彼に抱くこの想いが恋だと気づいたのは、
2人で水族館に出かけた日のことだった。