結局、宏樹さんは、家まで送ってくれただけじゃなくて、ベッドに倒れ込むようにわたしが眠るまでそばにいてくれたらしい。


【今日は色々とありがとう、無理させてごめんね】
【鍵はポスト口から入れておいたよ】
【それと、コンソメスープ作ったから起きたら食べてね】
【お大事に】
スマホを見れば丁寧にメッセージが届いていて、たしかに、キッチンからいい匂いがする。

【こちらこそありがとうございました。
急に倒れてごめんなさい】
【妹さんは大丈夫でしたか?】
それだけ返信して、宏樹さんが作ってくれたコンソメスープを温める。


「もう少しだけ待ってて」

そう囁いてくれたのは、夢なのか、現実だったのかは、もうわからないけど。







出会いの順番、
どうして神様は間違えてしまったのかな?




『ひろきはわたしのなの』
れいなちゃんの言葉が頭から離れない。

『………』
何も言わずに唇を噛み締めた宏樹さんはあの時何を思っていた?




わたしだって、すきだもん…
すきだからこそ、身を引くべき…?

このまま想いを封じ込めれば、
れいなちゃんも、宏樹さんも、
みんな幸せになる?


『ちょっと優しくされたくらいで好きだって勘違いしてんじゃないわよ』
テレビから流れてきた今流行りの恋愛ドラマのセリフが、心に深く突き刺さる。


フラフラ立ち上がり、カーテンを開けると空には大きな月が出ていた。

あれから、年下彼氏くんの仲介のおかげで、なんとかちぇりとは仲直りできた。
ちぇりから話を聞けば、3人でランチをしたあの日、講義のためにわたしが先に抜けた後、れいなちゃんが「かほちゃんがわたしの彼氏と浮気していた」という話をしていたようで、言いくるめられて無視する羽目になった、なんて教えてくれた。

ちぇりの彼氏くん浮気事件は、ちぇりとの1年記念のためにアクセサリーを受け取りに、駅前のジュエリーショップに行った所、偶然れいなちゃんがいて、その場面をこれまた偶然ちぇりが見かけただけだと言う。



あれからさらに2週間が過ぎ、連絡が取れなくなった。

【妹さんは大丈夫でしたか?】
最後に送ったそのメッセージは既読だけがついていて、それからは音沙汰なし。

お花屋さんでのバイト中、店の外を通る姿は何度か見かけていて、元気そうなのは知っている。


「この1ヶ月、楽しかったなぁ…」
そろそろ潮時かも、なんて呟いたわたしの声は、誰にも伝わることなくその場で消えた。



【宏樹さん、明日会えますか?】
そう送ればすぐに既読がついて
【会えるよ】
その一言だけが返ってきた。
【明日、10時、××駅前で待ってます】
【了解】


淡々とした会話に、今にも溢れ出しそうな涙を堪えてれいなちゃんとのトークを開く。


【れいなちゃん、ごめんね】
【許してくれなくていいから、聞いてほしいことがあるの】
【明日11時に、大学の最寄り駅の花壇の前で待ってます】
一方的に送りつけて、スマホの電源を落とした。