【短編】また会える日まで、君の幸せを願う



5分も前のことはすでに忘れてしまったのか、ちぇりは自分の彼氏の話を始めた。

「…ってことがあってさ〜、、
さすがにひどいと思わない?」

付き合ってもうすぐ1年になるちぇりは、年下彼氏の愚痴を言っている。
彼氏さんは、同じ大学の1年生くん。

わたしも何度か会ったことがある。
ちぇりのことが大好きですオーラがすごかったイメージ。

出身高校が同じで、高校時代から仲が良く、一緒に生徒会活動をしていたこともあって、去年はちぇりが家庭教師をしていたらしい。

事情はよくわからなかったけど、その彼がどうやら最近浮気してるのだとか。

話をまとめると、もうすぐ1年記念日なのになんのお誘いもなくて、挙げ句の果てには週末に女の子とアクセサリーショップから出てくるところを見かけた、らしい。


うーん、、恋愛って難しい。
恋愛赤ちゃんのわたしには、かける言葉ひとつすら思いつかず、「ひどいね〜」とうなずいた。

誤魔化すようにお冷やを一口飲むと、
わたしがコップを置くと同時にれいなちゃんが何かを思い出したように話し出した。


「そーいえばわたしも昨日、彼氏に浮気されてたんだよね〜」
うけるっしょ、なんて笑いながら言うれいなちゃんの目はひとつも笑っていなくて、目があった瞬間、背筋がゾクっとした。

「なんかよくわかんないんだけど、女の子と手繋いで水族館行ったみたいなんだよね」
だから水族館、あんまり今話題に出されたくないなぁ、そう付け足してれいなちゃんはチラッと私の方を向いた。


料理が届けば先ほどとは一転、なんだか暗い雰囲気の中で食事を進める。
最初に食べ終わったのはちぇりで、リップ直してくる!とお手洗いに向かった。

私たちのいる場所だけがしん、と静まる空気の中でその沈黙を破ったのはれいなちゃんだった。

「かほちゃん、ごめんね?」
「へ?」
「ほら、かほちゃん関係ないのにイライラしちゃってた…」
「あぁ、なんだそんなことか、、気にしなくていいのに。
わたしの方こそ、恋愛初心者だから何も言えなくてごめんね?」

仲直り!と右手が差し出された。そっと握るとれいなちゃんはニコニコ笑って優しく握り返してくれた。

「あ〜!かほとれい、なんで手繋いでんの!」
「2人だけの秘密です〜!ね、かほちゃんっ!」
「う、うんっ!」

お手洗いから戻ってきたちぇりが割と大きめの声でそう言うと、ようやく明るさが戻ってきた。

思いがけない謝罪に、「へ?」なんて変な声を出してしまったけど、無事に仲直りできてよかった。