「ねータオル持ってる?」
「あんなに濡れるなんて聞いてない…」
「それな………」
イルカショーといえば、やっぱり目玉は
ダイナミックなパフォーマンス。
終演後、前の方に座っていた子達はイルカたちが届けた水飛沫でびしょ濡れになっていた。
「かほちゃん、大丈夫?」
「あ、はい、無事です!」
前から7列目にいた私たちはちょうど濡れなかった。んだけど、
遡ること15分前
「まもなく今回のショーの目玉イベントが始まりまーす!
前の方にお座りのお客さま、カッパ等のご準備はよろしいでしょうか?」
元気の良い飼育員さんの声で期待からざわざわする会場を、割るかのように響いた泣き声。
ちょうど目の前の家族のまだ4歳くらいの女の子が、顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。
「いやだぁぁぁ」
「みっちゃんが前がいいって言ったんでしょ?我慢なさい」
「やぁ、もん…」
「じゃあ抜ける?」
「………みるもん…」
みっちゃんと呼ばれた女の子の隣に座るお母さんらしき方はまだ小さな赤ちゃんを抱いていたし、反対の隣に座るお父さんらしき方も同じく、小さな赤ちゃんを抱いていた。
双子かな?お揃いのコーディネートで。
そしてその2人のお姉ちゃんらしいみっちゃんにカッパを着せたいらしいご両親は困ったように顔を見合わせ、眉を下げていた。
「みっちゃん、?お姉ちゃんのところに来る?」
後ろからそう声をかければ、ご両親は振り返って、目を輝かせて笑いかけてくれた。
「みっちゃ、おねえちゃとこ!いく!」
その言葉を聞いて目の前に座るみっちゃんを抱っこした瞬間、
ビシャッ
「っっつめたぁ、、」
「かほちゃんっ!」
「おねちゃっ!」
見事に顔面直撃、
だけどみっちゃんは守れたみたい…
大熱狂の中、ショーのラストスパートがはじまった。
イルカたちが飛び跳ねては水飛沫を届ける。
1回目ほど大きくはないので5列目以降には飛んできていないみたい。
気がつけばショーは終わっていて、
前にいたご家族が振り返ってお礼を告げる。
「おねちゃ、ありがと!」
「うちの子がお世話になりました」
「いえいえ、タオル本当にありがとうございました」
みっちゃんのご両親が手渡してくださったタオルをお返しして、冒頭に戻る。
「子供、好きなの?」
「はい!かわいいし癒されるじゃないですか〜」
「なんか扱い慣れてたよね?」
「んー、、なんでだろ…
あ、高校まで介護施設と児童施設でボランティアやってたおかげだと思います!」
そんな話をしながらレストランに向かった。



