【短編】空に翔ける恋



「花音っ!」
わたしを見つけるや否や名前を呼び、
まっすぐわたしだけを見て
一歩一歩こちらへ足を進めるみーたん。


「だいじょーぶ。信じて」
とわたしにだけ届くくらいの小声でささやいた沙知は握っていた手を離す。



ギュッ

突然、視界が真っ暗になって
誰かのあたたかさが伝わってきた。


そして
「花音、一緒に走ろう」
と頭上からみーたんの声がする。


何が何だかわけがわからず固まっていると
その暖かさは消え、
目の前にみーたんの顔が現れた。

「今度こそ、俺が守るから、支えるから、
だから一緒に走ろう、花音」

わたしをじっと見つめるみーたんの目に吸い込まれそうになる。

周囲の女の子たちの声が、現実に引き戻してくれる。

「わたしには、、やっぱりできない……」
やっとの思いでそう口にする。



「じゃあなんでいつも1人で走ってんだよ…」
力のない声でみーたんが問う。

「花音、お前走るの好きなんだろ。
俺花音と走るのすげー好きなんだよ」
今度は早口でそう言う。


「走るのは好きだけど、
陸上部に入るくらいなら私はもう走らない。
そうずっと決めてたから」
今にも溢れ出しそうな涙が溢れないよう
上を向いてそう宣言する。

「私はっ、、やっと治ったの!!
周りの目を気にせずに生きられるようになったの!!
だからもう放って置いてよ…」

それだけ告げ、教室から逃げ出す。



痛い、痛い、痛い。

心が、痛い。

周りの視線が、痛い。


居ても立っても居られずに、教室を駆け出した。


やってきたのは4階の使用されていない特別教室。

はぁっ、はぁっ、はぁっ…

息を整えその場に座り込む。


胸が、痛い。



初めてみーたんを拒絶した___

初めて、みーたんを拒絶、し、た、、


ようやく呼吸が落ち着いたのに、
今起きたことを思い出し再び胸が苦しくなってきた。



はぁっ、はあっ、はあっ、、ひっく、うゔ…


セーラー服のポケットからハンカチを出し、口に当てる。


呼吸はこんなにも苦しいのに、
頭は冷静で自分でも怖い。