わたしは中学の時みーたんに誘われて陸上部に入り、短距離を専門にしていた。

タイムはお世辞にも速いとは言えなかったけれど
いつもフォームはいいぞ!と元々陸上選手だったという顧問の先生から褒められていた。

50mは6〜7秒台、100mは14秒台、
どうしても越えられない壁があった。

優秀ではないわりに、
顧問には気に入られていて、
人気者のみーたんと仲良さげに話す姿は

周りの女の子たちの嫉妬を買うには十分すぎた。


『花音ちゃんはいいよね〜
結城先輩といつでもお話できるなんて羨ましい!』

最初は好意的に話しかけてくれた同級生でも、
次第にみーたんの連絡先を強要したり、
個人情報を書き出そうとしたりしてきた。

怖くなって全てを断っていると
みーたん目的で仲良くなろうとした同級生は次第に離れていった。

そしたら、いつの間にか1人になっていた。


『木原さん、結城先輩と幼馴染だからっていつも調子乗ってるよね』

『結城先輩が嫌がってること気づけないんでしょ』

『私は他人とは違います〜なんて思ってるんでしょ』

などとわざとわたしに聞こえるように噂話をされて、
いつしか空気のような扱いになった。



『幼馴染だかなんだか知らないけど
結城くんのこと独り占めしようなんて
調子乗んなよ!』

と2つ上の先輩やみーたんの同級生さんに呼び出されては、そんな言葉たちを投げつけられた。


外傷はほとんど付けられなかった。
頭がいいな、と思う。

目に見えない傷は、わたしがSOSを出さなければ誰にも見えない。

でもどんなにSOSを出しても、
1人だから誰も気付いてくれない。

もちろん先生も、気付いてくれない。

わたしは陸上が嫌いになった。