侍女のメイがシリルの顔を指さす。まったく、人を指さすなど行儀が悪い。

 確かに、シリルの頬には、目の下から口元にかけて大きな傷がある。


「熊じゃなくて、シリルは狼のような方よ。それにあの傷は、私を助ける時についてしまったものだもの」

「そうだとしてもですよ、もっと他に若くてかっこいい方いますよ? ルチア様とシリル様は20歳も年の差がありますし。いくらルチア様がファザコンですからって、何もそんな渋いところへ行かなくても」

「ファザコンではないって言ってるでしょ。お父様のような方が好きというのは、それくらいの年の方が好きという意味で、誰もお父様と結婚したいなんて言ってません。私はあの日からずっと……」


 私はそう言って、ぷーっと頬を膨らます。

 侍女のメイは乳母の娘であり、ずっと一緒に育った一番仲のいい姉妹のようなものでで、王女という立場であっても、本音で話せる数少ない存在だ。


「それ聞いたら、国王様は号泣してしまうと思いますよ」

「もう、大げさね。お姉さまたちがみんなお嫁に行ってしまってから、確かに涙もろくなられたけど、そんなことでは泣かないわよ」

「第一王女様も第二王女様も、みんな他国へ嫁いでしまいましたからね。この城にはもうルチア様と王太子様しかいませんものね」