「おやおや。姫野さま、いらっしゃいませ。」

「渡さん、何事もないかしら?」

「えぇ。変な輩はおりませんでしたよ。」

二人で会話をしているところを横目でみていると、お客さんはこちらに顔を向けた。

反射で私も顔をあげると、息をのんでしまった。

"美しい"

その言葉では表しきれないほどの美貌の女性がいた。

「あら、お客さんね。」

優しい微笑みを私に向けてくれた。
おじいさん改め、渡さんは私を見たあと、女の人に話しかけた。

「そこのお嬢さん、鬼龍を探しているとのことで、姫野さんに託してもよろしいでしょうか。」

その言葉に反応し、美しい女性から殺気を感じた。

「鬼龍に何か用?」

冷たく恐ろしいほどの殺気。

頭の先から爪先まで、凍てつくような恐ろしさが身体に襲いかかる。
私は言葉を出すのにやっとだった。

「妹を…詩月を捜しています。」

その言葉に女の人は殺気を消し、明るい表情になった。

「詩月ちゃん?…のお姉ちゃん!?やだわ、怖かったでしょ?最近この辺物騒でね。ごめんなさいね?」

焦る様子の私を見て、落ち着かせるように言葉を続けた姫野さん。

「急ぎのようね。大丈夫、送り届けてあげる。」

外に車があるから、乗って乗って。
と腕を引かれながら外に向かう。

あわてて後ろを振り返り、お会計と声をかけようとしたら、

「今日はサービスです。またいらしてください。」

そう言う渡さんの優しさに触れ、心が少しあたたかくなった。

人の優しさってこんなにあたたかいものなんだな。