「おおかみさん、たすけてください」

 チカが近寄って胸元の石に触れる。光が溢れ、暫くすると近くの草むらが揺れた。驚いてそちらを振り向くと―――

「呼んだか、小娘」
「ほう、血族を助けた娘か」

 二匹の狼が姿を現した。背に乗せてくれた狼たちとは見た目が同じなのか違うのかハヤトにはよくわからなかったが、挨拶をすませると事情を説明した。

「上に行きたい? それは構わんが、乗せては行けんぞ」
「なんで?」
「ほぼ垂直だからな。しっかりしがみ付いていたとしても、振り落としてしまうのが関の山だ」

 狼は崖を見上げながら、困ったように耳と尻尾を垂れた。

「じゃあこのツタを持って、上で待っててもらえないかな。ツタさえあれば、なんとか登れる」
「ほう、なるほどな。了解した」

 狼はツタを咥えて素早い動きで崖の上に登っていく。ギリギリ届く位置までくると、一声吠えた。

 ハヤトはチカの腰に蔦を括りつけると、自分は蔦を頼りに登って行く。小さな足場があればなんとか登って行ける。

 狼がいる場所まで来ると、今度は狼と協力して蔦を引っ張り、チカを引き寄せた。それを何度か繰り返すと、岩壁にぽっかりと穴が開いていた。

「ここが」
「青の洞窟だ。ドラゴンの地に我らが入ることは許されてはおらん」
「ここまでどうもありがとう」
「なに。お前らが助けた命に比べれば、安いものだ。ではな」

 狼はぶっきらぼうに崖を下って行く。それに『ありがとう』と大きな声でチカが手を振る。