「……ず、坊主」

 ゆさゆさと揺すぶられて、ハヤトは目を覚ます。眠い目を擦りながらベッドから身を起こすと、厳しい表情をした宿の主人がいた。

「外の様子がおかしい。ヒトが集まって来てやがる。裏口からこっそり逃がしてやるから、嬢ちゃんと逃げろ」

 ヒトがなんのために集まってきているのかわからないが、用心に越したことはないと主人はいう。妹を起こしながら、すぐにでも動けるよう準備する。

 まだ眠いと目を擦りながら軟体動物のようになっている妹の手を引き、卵を入れたリュックはハヤトが背負う。驚いたことに重さも走りにくさもない。これならば妹にも背負えたはずだ、と納得する。

 下に降りる前に、広場側の窓のカーテンの隙間から少し外を見る。ランプを手に持ったヒトの黒い影がいくつもそこにあった。ひやり、としたものが背中を伝う。

「気を付けろよ」
「ご迷惑をおかけしました」

 ぺこりとお辞儀するハヤトの背をぽんぽんと叩いた主人は、なんともいえない笑顔を向ける。

「お前らを守ることは、命を守ること。新たな命を迎えることは、素晴らしいことだ。気にするな」
「ありがとう」
「おう、達者でな」

 裏口をあけて周囲を確認した主人は、ハヤトに村の裏門へ続く道を教えてくれた。門の外は歩きにくい下草の生えた森になっているので、ヒトは殆ど使わないのだという。

 なるべく影になっている部分を小走りに移動していく。半分寝ているのに走ってくれるチカは状況がわかっていないのか、まだうつらうつらしている。