辺りを見回せば、ところどころヒトがいる。もちろんそれ以外の、犬だったりうさぎだったりの人型の種族もいる。小人族も、トカゲのような見た目の生き物もいる。

 ヒトはドラゴンを目の仇にしているというが、他の種族はどうなのだろう。狼はここの猫人たちは協力的だといってくれたから、安心していられるけれど他は?

 ここに来た初日に出逢った大人たちの姿を思い出し、ぶるっと身を震わせた。他に、あんなふうに追いかけてくる生き物がいないといい。

「おふたりさん珍しいね、子供だけなのかな」
「おにいちゃんといっしょなの!」
「ははは、妹と一緒です」

 兄妹だけで旅をする、というのはここでは稀有なことなのだろうか。この広場だけでも同じような言葉を何度もかけられた。

 暮らしていた場所は、子供だけで遊びに行くことなんてたくさんあった。そりゃあこんなに真っ暗な時間には行かなかったし、昼間でも不審者はいたけれど。あんな恐怖は、感じたことがない。

「……」
「おにいちゃんどうかしたの?」
「なんでもないよ」

 朗らかに笑っていた妹が不安そうに覗き込んでくる。お兄ちゃんなんだからしっかりしなきゃ。妹を護らなくちゃ。

 目を閉じて大きく息をする。震える膝を叱りつけ、しっかりと前を見た。

「え」

 そこには虹色の何かをもった妹の姿があった。

「おにいちゃんげんきなかったから」

 あそこのおみせのひとにもらったんだよ、と笑う。そちらに顔を向ければ、クリーム色の毛並みをした猫族がウィンクして手を振っている。それにチカも応えていた。

「とってもあまくておいしいの。わたあめみたいだよ」

 口に含めばすこしスーッとする優しい甘味。しゅわしゅわと音を立てて、口の中から消えてしまう不思議な食べもの。その感覚が面白くて夢中になってそれを食べていると、それと一緒に胸の中にあった不安もしゅわしゅわと溶けていった。