「あらあらぁ、こんにちはぁ?」

 それほど高くない策が木々の間を縫うように作られたそこには、『猫人の村』という表示が杭で刺さっていた。

 入り口付近で出会った女性は、妙に間延びしたのんびりした口調で話しかけてくる。

「ねこさんだー!」
「あらまぁまぁ。ようこそ、小さな旅人さん」

 チカが耳と尻尾に気づいて嬉しそうに近づけば、女性は尻尾を揺らしながら目線を妹に合わせてくれる。どうやら歓迎はされているようだ。

「大きな荷物ね、ここまでくるの大変だったでしょう?」
「あの、どこか休めるところってありますか」
「『煮魚亭』っていう食堂の二階が、宿屋になってるわ」

 女性は頷くと、宿屋を指差す。ふたりはそれに礼をいって、村の中へ入った。

 両脇に建物や畑のある道を進むと、ぐるりと建物が囲った広場に出る。教えられた場所に煮魚亭の看板を見つけて、ハヤトはほっと胸を撫で下ろす。

「やぁやぁ、いらっしゃい旅人さん」
「ゆっくりしていってね」

 広場を行き交う猫耳、猫尻尾たちは大きな荷物を持つチカに歓迎を示してくれる。ここまでくればパッと見卵にはみえないか、とほっと息を吐いた。優しい村人たちに出逢えて、チカはほくほくとしている。

「子どもだけの旅人なんて珍しいな」
「あおのどうくつ、っていうところにとどけものをしにいくの!」
「青の洞窟? あぁ、なるほど」

 そういって宿屋の主人は身を寄せてくる。

「ドラゴンに何か頼まれたのか。人里を避けてるってことだな?」
「はい、実は……」

 そういってハヤトは首にかけた石を見せながら事情を説明する。

「ほう、珍しいものを持っているじゃないか。オゥケィ、お代は要らないからゆっくりしていきな」

 そういって主人が案内してくれた部屋にはふかふかのベッドが置いてあり、ふたりには十分な広さがあった。やっと暖かいベッドで眠れる、と思ったとたんに睡魔が襲ってきて、そのまま意識を失った。