足りない、もっと。



さすがにむっとして、紗和から瑛介へと発せられるであろう言葉を遮る。

そのまま瑛介に向けた手を握った。


紗和の笑顔も言葉も、おれにだけ向けられて欲しい。


ずっとおれが紗和のそばにいた。

これからもそばにいたい。


そのために、仕方なく我慢もしてきた。


でも、その我慢に意味はあったのか?

いや、我慢をしてきたから、いまも紗和と一緒にいられるんだよな……。



「澪、怒んなよ」

「…………」

「でも紗和ちゃんって……」

「星野さん、だから」



おれを引っ張る瑛介をにらむ。

それに対してニヤニヤするからむかつく。


おれが無視するから、わざと呼んだんだと思う。


でも、見逃してなんておけない。

ほかの男は紗和の名前も呼ばなくていい。


おれだけでいい。

全部、おれだけがいいのに……。