足りない、もっと。



紗和を見るだけで、心が落ち着く。

近くに行きたい。
話したい。


おれがこんなこと思うのは紗和だけ。



「星野さん?」


紗和に近づこうと思ったら、紗和の前に知らない男がいることに気づく。

え、紗和だよな?

おれが紗和を見間違えるはずがない。


でも、紗和がおれ以外の男と近くにいて顔を合わせるなんてある?



「……紗和?」


あまり大きな声を出すのは苦手だけど、確認しないと無理。

気がつけば、名前を呼んでいた。


その声に反応してこちらを向いたのはやっぱり紗和。


やっと紗和に会えてうれしい。

おれを引き止める声は雑音として流され、すぐに紗和の前へ行く。


笑顔でおれを見る紗和はかわいい。

けど、さっきまで知らない男を見てたのはおもしろくない。


しかもなに?


紗和が持ってるやつを、知らない男にあげようとしてない?