足りない、もっと。



「あ、でも両手ふさがってる」

「じゃあどう……」

「春瀬くんはどこ行きたいー?」

「ここ、すごく有名みたいだよ」



どうぞ、と三宅くんの口に運ぼうとしたら、ふいにそんな声が聞こえてきた。

思わず言葉を止めて、声の聞こえたほうを見る。


数メートル先の店の前に澪がいた。

周りには女子数人。



「ちょっと、春瀬くんはうちらと同じ班なんだけど」

「そうだよ。ちゃんと自分の班に戻って」



女子ふたりは不服そうにしている。

あの子たちが澪と同じ班の女子なんだ。



……いいなぁ。


うらやましくて、胸がきゅっとなる。

でも、同じ班になれても、澪はあんなふうにほかの女子に声をかけられちゃうんだ。


澪の人気を目の当たりにして、息が苦しい。


朝はわたしと電話してて、わたしだけの澪だと思ったのに……。



「星野さん?」

「あ、ごめんね。はい、どう……」

「……紗和?」