「おれも、紗和が心配」

「わたし?」

「うん。誘拐されないでね」



足を止めて、わたしの顔を覗き込む澪に思わず笑ってしまった。

さっきまであくびしてたのに、真剣な顔で澪にそんな心配されるなんて。



「されないよ。むしろ澪のほうが誘拐されないか心配だよ」

「紗和のほうが危ない。かわいいから」

「っ、」



サラッと『かわいい』なんて言ってくれるから、心臓が飛び出るかと思った。

澪はいつだって不意打ちだ。


澪にとっては挨拶みたいな感じなんだろうけど、わたしはいちいちドキッとしちゃう。



「な、なにがあるかわからないし、はめ外さないように楽しもうね!」



とにかくなにか言わなきゃと思って、親や先生が言ってたことを口にしていた。

わたしの焦りなんて澪には伝わってないんだろうけど。



「朝は起こしに来てくれる?」

「さすがに無理だよ。男子と女子で階も違うし」

「……行きたくない」

「え、」

「紗和が起こしに来てくれないなら、修学旅行なんか行きたくない」