足りない、もっと。



「いまどこにいるの?」

『上』

「……上?」



意味がわからないけど、とりあえず顔を上に向けた。



「あ、澪」


すぐに3階の教室の窓からこちらを見ている澪を見つけることができた。

わたしの声に、電話の向こうでくすっと笑う。


窓枠に肘をついてスマホを耳に当てている澪は首を傾げた。

だから手を振り返す。



『紗和』

「なあに?」

『一緒に帰ろ』



どきん、と大きく心臓が動いた。

ずるいよ。

澪は本当にずるい。


わたし目がいいから、澪の微笑みもバッチリ見えてるよ。

優しい声で誘われたらもう答えはひとつ。



「帰る!いますぐそっち行くね!!」

『ふ、なんで。おれが行くから、そこにいて』



笑われてしまった。

でも、いいよ。
澪と一緒に帰れるから。

やわらかい笑顔が見れたから。



「うん!待ってる!」

『ふ。じゃね』



わたしの返事を聞いて、またやわらかく笑う澪。

かわいく『じゃね』と言われたあとに通話は切れた。