足りない、もっと。



ふと上を向いて、わたしに気づくと首を傾げる。

両手をポケットに入れているときはだいたい澪は首を傾げる。


手を出して振るのがめんどくさいって言うのは中学生くらいのときに聞いた。


だからその仕草は手を振るのと同じなんだ。



わたしは手をひらひらとさせて澪に返す。



それを見てからまた前を向いて、けだるげに歩き出した。



このままでいいかなって思ってしまうのは、澪もわたしに気づいてくれるから。


わたしが見ていることに気づいてくれる。

幼なじみだから、気にかけてくれる。


澪は女の子に興味ないから。
彼女はいらないって言ってたから。


だから、幼なじみのわたしなら澪は見てくれる。



「……好きなのになぁ」



なんてつぶやいたところで澪には届かない。

この想いは今日も、わたしの中で止まってる。


それから授業を受けるけど、一度澪のことを考えちゃうと、頭の中は澪のことで埋め尽くされてしまう。


授業の内容なんて入ってこない。