穂波がきつい目でかりんをギッと睨む。


「かりん、昨日、森 数馬くんと一緒にいたでしょ?」


かりんが少したじろぎながら「………うん」と返事をする。



「私、数馬くんにバレンタインチョコを渡そうと思ってずっと数馬くんの後を追いかけていたの……。──そしたら……、」



「そしたら、………どうしたの穂波?答えてごらん?」と恵が穂波の顔を見た。



「二人がキスをしてたの……、………」と穂波が涙をポロポロと流して号泣をし始めた。



息を呑み「えっ?!」と驚いた表情の恵が慌てて自分の口を両手で覆う。



「本当なの?かりん?本当のことをこの恵ちゃんに言いな。この私がドカンと大きい器で聞いてあげるからさぁ」



「ちがうって、キスはしてないから!本当にちがうんだってば!」


昨日のあの時のことを思い出した。


また、全身が熱くなって、顔が赤くなる。



──あれは、私を助けるために。



だから、数馬くんが成し得る凄技なんだって。


お互いの唇の距離。


キスまで僅か1ミリの隙間をあけてくれた数馬くん。


はたから見ればキスしてるも同然に見えるかもしれない。


でも、私本当にしてないからね。


ハンカチをぎゅっと固く握りしめて穂波が「キスって、好き同士がするものじゃないの……?」と泣きじゃくりながら言った。



「そうよ、キスって好き同士がするものよ。で、かりん、どうなの?」


仲裁的な立場の恵がかりんを問いただす。