「もう、やだよぉー。会社、辞めたいよぉー」

毎日毎日、上司に怒られてる私って人間としてダメ人間なのかもしれない。

屋上で1人、私は泣きながら昼のビル群を見下ろしていた。


「大丈夫ですか?」
「へ?」

後ろを振り返ると、顔の整った男性が立っていた。


「…大丈夫…です」
「良かったら話し、聞くよ?」
ニコリと微笑む男性があまりにも温かくて…、優しくてーーー

ポロポロ泣きながら、ついその男性に私の思いをぶち撒けてしまった。

彼はイヤな顔一つせず、温かい眼差しで私を見つめる。


そんな優しい彼に、私は恋をしたーーー


それから会社のある日は毎日、帰る前に屋上へと足を運ぶのが日課となった。

ボンヤリ夜空を見上げているといつの間にか彼がやって来て私のそばに寄り添い、そして私の話しに優しく耳を傾けてくれる。


幸せだった。

多分、彼も私の事、好きなのだろうと言う自信もあった。


だから私はある日、思い切って言ったんだ!


「好きです。付き合って下さい」
「…ゴメン」
「え?」

私の事、好きではなかった?
勘違いだったの?


「俺も昔、会社で色々あって…、それでここから飛び降りたんだ」
「へっ⁉︎」

彼の顔をマジマジと見た。
整った彼の顔は、今まで気づかなかったけどあまりにも青白かった。

もしかして、幽霊?


「本当にゴメン」
「…じゃあ私も、ここから飛び降りれば…」
そしたらあなたと一緒に、いられるよね?


「ダメだ!」
「え?」
「それだけは絶対にダメだ」
「なん…で?」
「そんな事しても、後悔するだけだ。それより…、俺の分まで生きて欲しい」

彼はそっと私に近づき、唇にキスをした。
感触はなかったけど、微かに何かが触れたような、冷たいものが通り過ぎた気がした。


「幸せにな」

ポツリとそう言った彼は、私の前からからスーッと空気に溶け込むように消えていく。


「イヤ、消えないで!私も一緒にいくから!!」


それから彼は、私の前に2度と現れる事はなかったーーー