「じゃあ、行ってくるね」
「クゥーン」


そう言って僕の頭を軽く撫でてから、ご主人様は家を出て行った。

きっといつもの様に、会社と言う所に行ったのだろう。



僕はこの家に来て、何年になるのだろうか?
もうかなりの老犬となり、この頃は体を動かすのも億劫となってきた。



そろそろお迎えが来たようだ。
さっきまではご主人様にたくさん振っていたシッポが急に動かなくなり、呼吸をするのも苦しくなってきた。


体がパタンと倒れる。


僕は…、
………幸せだった。


さよなら、ご主人様ーーー



あなたに拾ってもらえて、幸せを知る事が出来た僕はーーー

本当に幸せ者だった。




出来る事なら、あなたの胸で眠りたかった。

でも、それは叶いそうにない。


先程、アナタに頭を撫でて貰った温もりを思い出す。




「……ワン」

脳裏に浮かぶご主人様が、徐々に暗闇の中に溶け込んでいったーーー


瞳を閉じた時、涙が一雫零れ落ちるーーー




幸せを、ありがとう