「手を離してください」
私の声に七絃と先輩が反応した。
「もう、逃げませんし抵抗しません。ついて行きますから、七絃だけは帰してください」
その言葉に七絃が怒る。
「何言ってんの?こんな状況で友達置いて帰れるわけないでしょ!私もついて行きますから!」
友達思いの七絃だけど、ここは踏み込んではいけないの。
七絃は帰って、私は大丈夫だから。
その言葉が口からでない。七絃がいることで自分が安心すると思ってしまっているから、七絃がいなくなった時に自分じゃ何も言えなくなるのが怖いから。
少しでも傍にいて欲しいと願ってしまっているから。
何も言えない。
本当に情けない。
先輩は渋々と言ったような声色で、着いてこいと私の手を離して歩いていく。
「大丈夫?」
心配そうに私に声をかける。
「大丈夫」と返すものの七絃にごめんねと心の中で謝った。
私達は先輩の後について行き、圭哉くんのいるところまで向かう。そこには車が用意されていた。
「遅いよー」
昨日のことが嘘みたいに、普通通りに話している圭哉くん。
「さっ、乗って」
私達は遠慮がちに乗ると車が発進した。
車内はお葬式のようにどんよりと暗い空気。



