「あ、怜ちゃん!!」
名前を呼ばれて驚いているのは私ではなく、七絃の方だった。
「え、怜。知り合いなの?」
「知らない。行こ」
そう言って足早に去ろうとしたけど、今度は逃がしてくれない。
「おい、逃げなくてもいいだろ」
私は先輩に腕を掴まれていた。
「離してください。言ったはずです。私には関わらないでほしいと」
「その理由を聞かせろ」
「言えません」
上げることのない顔を先輩はよく思っていないだろう。こんな状態で先輩の顔なんて見れない。それにツキ女の学生から凄い目で見られている中で顔を上げることなんてできない。
「圭哉、場所変えるぞ」
「OK!」
「ちょっと、何なんですか!?いきなり怜を連れていこうとしないでください!」
私が怖がっていると思ってか七絃が先輩に話しかける。
「水無の友達か?」
「そうですけど何か?」
「俺はコイツと同じバイト先なんだ。俺は昨日コイツが忘れてた物を渡しに来ただけだ」
「え、バイト?で、でも、渡し物を渡すだけでこんな強引なことをしていい理由にはなりません!」
「ねぇーまだー?」
七絃と先輩が言い合っている中、呑気な声で圭哉くんが先輩を呼ぶ。
私が落し物をしているのは本当。
今日の朝、探したそれは見つからなかったから落としたのだと確信した。
でも、まさか先輩達が拾っていたとは思わなかった。渡し物を口実に昨日のことを知るつもりで、態々ここまで来てる。彼等がココに来ることがどれだけ危険かってことを知っていながら。
私は覚悟を決めた。



