「今年も周りのやつらに配っているチョコと一緒か……」

 幼なじみの結衣(ゆい)は、毎年クラスの男たちに配るチョコと同じものを俺にもくれる。まぁ、貰えるだけ良いのかもしれないけれど。

 俺と結衣は小さい頃からずっと一緒にいる。
 でも結衣にもしも彼氏が出来たら、もう一緒にいる事は出来ないのかな?

 俺は結衣の “ 特別 ” になりたかった。

 けれど、その気持ちを伝えて振られるのが、離れるのが怖かった。

 何年も前から、ずっと。

***

 何も進展がないまま一年がすぎる。

 高校二年のバレンタインの日。
 学校の教室。

 結衣とは同じクラスだから、バレンタインの日は、特に彼女の言動が気になる。

 チョコを誰かに渡す様子はまだない。

 でも、なんだろ、いつも持ってきていない、少し大きめの紙袋を持ってきている。

 いつもの小さなギリチョコじゃなくて、あの中には、誰かに渡す本命チョコが入っているのかもな……。

「はぁ……」

 直接聞いたわけではないのに、勝手に想像して、心が痛くなってきた。

 放課後、教室から出ようとすると、彼女に呼び止められた。他の人たちが帰っていき、ふたりきりになる。

「あのね、駿(しゅん)……」

 紙袋を持つ彼女の手が震え、顔がこわばっている。いつもと違う様子だったから心配になった。

「どうした?」
 
「どうぞ、今年は特別な、駿にだけあげるよ」

 そう言いながら、一日中気になっていた紙袋をくれた。

 なんと!
 俺にだけ? 

 もしかしたら……。
 俺は直ぐに袋を開けた。

 マジか! 

 中には俺の大好きなチョコレートケーキが入っていた。直径十五センチくらいの丸型の。しかも彼女の手書きらしき文字で
“ Happy Valentine ” と書いてあった。

 手作りか!
 心が踊った。
 
「美味そ! じゃあ今日から結衣も、俺の特別だな!」

 テンションがあがった俺は、彼女を力強く抱きしめた。

「ちょっと、痛いかも」
「わっ! ごめん!」

 あわてて結衣から離れた。

 ふたりの間にはいつもとちょっと違う空気が流れている。

「帰ろうか?」

 俺がそう言うと、彼女は静かに頷いた。