「今年も周りのやつらに配っているチョコと一緒か……」

 その言葉を幼なじみの駿(しゅん)から聞いたのは、去年、高校一年生の時のバレンタインの日。学校の帰り道で。

 周りの人たちと同じチョコを彼に渡した時、彼はうつむきながらそう呟いていた。

 その時の言葉や仕草を見て、彼の気持ちが私にあるのかな?って少し期待した。


***

 何も進展がないまま一年がすぎ、高校二年のバレンタインの日が来る。

 今年は駿にだけ渡す事に。

 小さい頃から、小さなギリチョコを買って渡していたけれど、今年は手作りのチョコレートケーキを作ってみた。初めて作ってみたけれど、上手くできた、かな?

 彼、実はケーキが大好き。
 多分、駿の周りにいる女の子達の中では、幼なじみの私だけが知っている。

 ちなみに彼とは同じクラス。
 放課後、教室から出ようとする彼を呼び止めた。他の人たちが帰っていき、ふたりきりになった。チョコレートケーキが入っている紙袋を持つ。

「あのね、駿……」

「どうした?」

 渡すだけなのに、すごくドキドキする。
 いつもは簡単に目を合わせたり出来るのに、今はそれすら難しい。でも“ 駿にだけ”ってきちんと伝えたいから、頑張って目を合わせた。

「どうぞ、今年は特別な、駿にだけあげるよ」

 そう言って私は紙袋を渡した。

 ちょっと言葉が変になっちゃったかな?    
 きちんと伝わったかな?

 彼は直ぐにその袋を開ける。

「美味そ! じゃあ今日から結衣も俺の特別だな!」

 彼はとても嬉しそうに、全力で私を抱きしめてきた。

 すごくドキドキする――。

 そして私は、駿が好きだなって、ギュッとされたら、あらためて思う。

 でもね、力強くて、ちょっと痛いかも。