椅子こん!

 女を連れて闇の中を歩きながら手元の懐中電灯で手のひらの物を確認する。
手に入れたスキダは、手にしっくりと馴染まないが、そのしっかり握っていなくてはならない感じが逆にマニアの心をくすぐる。
 倉庫を抜け出しながらキムの手、をそっと片手で掲げ、スキダに向けた。
すると、キムの手に変化が現れる。液体のようなものがじわりと染みていく。
「ん……? お、おお?」

 腕全体を包むように広がってきたかと思うときにはキムの手の汚れが剥がれ落ち、綺麗になっていた。
酸とか毒かと少し身構えてしまったが、ただ綺麗になっただけらしい。
「ほう。かわったスキダだ。
これは使うだけで洗ってくれるのか……」

 スキダが変異した物が攻撃や防御に使われることは最近知られているけれど、まさか、洗ってくれるとは。

「しかし、びしょびしょじゃないか……何を考えているんだ。この女のスキダは、あれは、どういう形をしてるんだ!? どんな感情があれば、あんな……いや、もらったものになにか言うのも無粋か」

嘆きながらも濡れた腕をそのままに、ドアを開け外に向かう……ところで、はっとする。
腕からなにやら疾風が巻き起こったかと思うといつのまにか乾いていた。
これには、にやけてしまう。

「フッ。これからも、使うからな……」
 使うだけで洗って乾燥機つきのスキダなどおそらくこの女のものだけ。

「みーんなに、自慢するンゴー!」

 隣にいる彼女は、虚ろな目で使われるスキダを眺めていた。
横をついてきてはいるが、なんだか、スキダが動いたときに余計に体力を消耗したような気がする。
 その場に座り込み眠ってしまいたい……そんなとき、男が叫んだ、自慢するンゴー!で意識をかろうじて取り戻す。
 これから、何処に向かうのだろう。
「……………………」

 帰りたい。けれどあの街には恋愛至上主義者しかいない。どこに? それに、 どうして?
っていうかンゴーって、何?

「そうだ、折角なので家族五人に、回して使うンゴー!」

デュフフ、と男はにやける。

「あぁ、名前を決めないと。
このスキダは特別だから、二号と名付けるンゴ! あのときの女と同じ、珍しい水色ンゴ!」

「あの!」

「なんだ」

男が冷静な口調になる。

「嫁ビジネスって……どこでやるんですか?」

「城のそばにある結婚式場の地下と、ホステスの居る店を購入しているン、だ。今日はもう遅い、ひとまずは小屋に投げ込む」

 夜中の道は寒くて、少し冷えてきた。男が身震いしたが、彼女の方は感覚が麻痺したまま、ただ頷いた。とにかく、今日は眠りたい。