「諸君。
スキダはただのクリスタルだが……ときどき、不思議な現象を引き起こすらしい。
これが、このたびの強制恋愛条例でより顕著になってきた。
──つい昨日の観察班の報告によれば、
スライムが凶暴化して対象のもとに乗り込んだとのことだ。
数十、から数百のクラスターを連れて!!!」
公民館内に設けられた、恋愛総合化学会の定例会会場で男がボードを叩きながら声を張り上げる。その力で彼の頭の上の疑似髪もふわっと舞い、すぐに定位置に着地する。
「まぁっ!!!? あぁ~……」
藤色のスーツを着込んだ会長が、両手で顔を覆いながらしなっと崩れるように事務椅子に倒れる。
「会長!! 倒れるのは早いですよ」
「だが、このスライムは数時間後には死体となって発見されているのです!」
会場がざわめく。
スライムが凶暴化させたスキダが、対象を殺さずに、殺されているというのだ。
彼らはこれに驚かないわけにはいかなかった。
「その相手というのは……」
「スライムがスキダを向けたのは、あの『悪魔』。
悪魔には冷酷な感情しかありません。
スキダを躊躇いなく殺しました」
おおっ、と会場が沸き立つ。
「これは恋愛総合化学会内部での秘密にしましょう。万が一、市民にこのことが知られたらマニフェストが台無しです」
会長は頭痛を抑えながら苦々しく呟いた。
「……クラスターを引き連れたというのは、つまり共感を内外に広げられるということですよね。場合によっては我々が後押しした政治にも関わってきます」
禿げた男が汗を拭きながら答える。
「今のところは……異常者の体質、個体の差によって過剰に能力が引き出されると思われます。昨日の発動者もスライムでしたし……コリゴリが調査に向かったはずですけど。異常者を調べあげておけば、対処可能かと」
会長は、近くにいたひょろ長い男に指をさす。
「ヒューマン以外の種族のデータ、それから、異常な恋愛対象保持者のリストを手配するように」



