振り払われた小人は団結して騒ぎ立てた。
スキダ、スキナンダ、スキダ、スキダ、スキナンダ……スキナンダ、スキダ、スキダ、スキナンダ……
よほど腹が立ったらしい。寄せ集まって抗議している。
「そんなにぶつぶつ影からうるさいなら、当人に言いなさいよホォ。あんたら、卑怯だわ、こそこそこそこそ!
どうせ家主に会うことになるし、ついでに
此方が言ってきてあげようか?」
小人たちは聞く耳を持たない。
「うるさいから死になさい!」
叱りながら叫びつつ、とにかく書類を束ねて脇に抱えて……
居たところで、ふと不思議なものが目に止まった。
「なにこれ、薬……」
手のひらサイズの透明な薬ケースに入った錠剤だった。俯いて垂れてくる長髪を振り払い、観察する。普通のカプセルだ。なにかはわからない。
「何か病気持ち? そんな話は戸籍屋は言ってなかったけどホォ」
──向精神薬だろうか?
確か、ニュースで連日やっていた限りでは強制恋愛条例が出来てから、精神的な疾患で病院にかかる人が急増していた。
またそれだけではなく、脳の問題で特殊な発作を起こす人が現れ始めていることもわかっている。
恋愛性ショック……とかいったはずだ。
ポケットから端末を出してさりげなく記事を探す。
扁桃体付近に過剰な負荷が急激にかかるらしくオキシトシンやアセチルコリンがどうのとか、近年になって発見された感情の伝達エラーが重複してしまう難病とされている。 判断と感情が安定して機能せず、体が暴れたり呼吸困難になったり、発狂するらしいが、今まではうつ病の一種とされていたとかが書かれている。
「まぁ──マニフェスト、ですからね」
端末を閉じ、とにかく早いとこ玄関に向かおうとしたコリゴリは、紙を抱えられるだけ抱え、食べ掛けの春巻きなどがのったままのテーブルの横を抜け、ドアを目指して進む。
──途中で、目の前に、影を見た。
「──────え?」
目の前に。
進行方向にスキダの本体が回り込んで居たのだ。
「ギャアアアアアアアアアア!!!」
『────スキダ』
「私は、好きじゃ、ないいいいい!!!」
「イウナ────────!」
「え?」
「イウナ──」
ぞわ、と全身に鳥肌が立つ。
スキダは、鳴き声に過ぎないわけではなく、しっかりと意思を持ち話し掛けてきていたのだ。
「イウナ────スキダ────イウナ」
「も、しかして────告白を、恐れているの?」
「イウナアアアアアアアア────!!」
ゴォォォ、と低く唸る風のような息と共に、スキダは吠えた。
コリゴリを外に行かせたくないらしい。
「───イウナアアアアアアアア!」
腕を振るい、コリゴリの顔を殴り付ける。強い衝撃とともにコリゴリの体は飛んでテーブルにぶつかった。
痛みで声が出せない。口から血の味がする。意識が少し朦朧としていた。
──なにが、起こったの。
スキダの体は真っ赤になったり真っ青になったりを繰り返しながら、体から湯気を出していた。かなり怒っている。
「ウアアア! ウアアア!」
──好きなら……言えば、いいじゃない! 言えないような相手? あなたが好きなのは……恥ずかしい相手、なの?
スキダの足が伸び、朦朧としているコリゴリの頭を蹴りあげる。テーブルの足に頭をぶつけ、目の前が一瞬真っ白になった。
じわー、と冷たいような衝撃が頭のなかで広がって皮膚に染みていく。
「か、らだ、痺れて……だめだ……ああ」
足元にバラバラと紙が散らばった。
紙には、ほとんどが同じような言葉が添えられていた。
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる



