11.恋愛強制マニフェスト
恋愛は強制されるものなら、どうして習わなかったんだろう?
「はいっ、今日の夕飯は春巻きです」
テーブル中央には大皿に詰まれた春巻き、そしてスープ。
「おぉー」
女の子が手を叩く。
ちなみに監察さんはお風呂に入っていた。
「あと、こっちが水餃子で、しゅうまいね」
椅子さんは私の隣に座って……くれたら良かったけれど、乾かす為にベランダ際だ。今日は良い天気だし、あとで一緒に星を見よう。きっときれいに見えるはず。
三人ぶんの箸を揃えると、監察さんより先に食べることにした。女の子は美味しそうに食べるし、私もなんだか嬉しい。
──けれど、ふと彼女の箸が水餃子に向いたまま止まった。
「ママ……」
女の子は少し切なそうに呟く。
「ハクナが狙っているのはうちだけだと思ってた」
私も恋人届けが受理されなかったことを思っていた。確かに、あの様子では何年も経ってしまう。だけど……
……私は悪魔だ。
ただでさえ笑い者なのに、この前のスライムのことで更に恐れられてしまったかもしれない。
──悪魔が届けを受理なんて本当にされるんだろうか?
尚更良い理由を見つけたかもしれない。
考えてから一旦思考を止め女の子に提案する。
(どうなるかはわからないけれど、私は悪魔だよ。
悪魔って、呼ばれて、みんなの中にから最初から居ないんだ……
私はしがらみなんてないんだ。
)
「ママを…………探しに行こ?
ハクナも、きっとなんとかなるよ!
私は悪魔だもん。誰も怖くないよ!」
胸を張って言うと、女の子は少しだけ安心したように笑う。
ちょうどそのとき、びーっ、と音がして隣の部屋の電話機から紙が吐き出される。
席を立ち回り込むと足元に紙が散乱していた。
目についたのはプリンを食べる女の子と、いびつに歪んだ悪魔の絵が貼り付けられた、コラージュ写真。
────かわいいですね?
小さくメモが書かれ、連続で来たあとで、また「愛してる」「別れないからな」
「やりなおそう」「愛してる」「愛してる」
紙が連続で吐き出される。
それから、エラー音がした。
「カミヲ、イレテ、クダサイ、カミヲ、イレテ、クダサイ、カミヲ、イレテクダサイ」
「うわっ! もう紙が……」
女の子は私の方まで向かって来て少し不安そうだった。
「悪魔だからね、仕方ないよ」
私はそう言って返すのが精一杯だ。
うん、まずは監察さんにお願いしてみよう。
それから────それから────
そのとき、外で大きな音がした。
床や壁がわずかに揺れる。
「え?」
ベランダの椅子さんを抱えて窓を開けると
サングラスをかけたやや顎の突き出た長髪の男が立っていた。
「────やぁやぁ! 失礼! 我が名はコリゴリ! 此処に、アサヒは来ていないかハァ?」
「アサヒって、誰ですか?」
「監察屋だよ────といっても、不祥事を起こして先日クビになってるんだけどホォ」
もしかして────そう思いかけたとき、
監察さんがコリゴリの背後からやってきた。
「俺なら此処だ」
「おーんや、アサヒィ!!? 」
「俺に用事か? それともその家になにか用事か?」
「同・じ・こ・と・よホォ! あれで!」
見上げると、彼の背後のビルの屋上にはヘリコプターが止まっている。
「証・拠・隠・滅」
その言葉を合図にヘリコプターはいきなり浮き上がり、こちらに向かって飛び始めた。
私があわてて外に出たときだった。家の背後からも何か悲鳴が上がる。
スキダアアアアアーーーー!!!!
スキダアアアアアーーーー!!!!!
スキダアアアアアーーーー!!!!!
「タイミング悪いわね!」
まさかと思っていたけど、発生、したのか……スキダが。
「一体、どれだけの執念なんだろう。
あの気持ち悪い人は」
ヘリコプターが飛ぶのにかまっていられない。私は家の中に走りながら叫んだ。
「おーい! 早くそとに出て!!」
女の子は、紙から現れたスキダに驚いている。それは朽ちかけた人のような形をした、どろどろした小人で、紙から沸いては歩いて来ている。
枚数ぶん、それから恐らく棚の中からも。
(……小さい、けれど数が多い。
さすがに文章や写真からなら平気だと思ってたけど、スキダってどこからでも来るのね)
どうしよう。
私が近付いたらさらに強大化するかもしれない。だけど、女の子が心配だ。
だけど────────
女の子はポケットから赤いミニカーを取り出す。
「あなたが、おねえちゃんに付いてきたの?」
ミニカーは光りながら少しずつ大きくなり
やがてスキダよりも大きくなった。
「でも私は、あなが好きじゃない。だから、あなたを否定する」
彼女が手を広げた途端、ミニカーはエンジンがかかり、一気に放たれる。
片足でつぶれそうな小さなスキダを次々に轢き殺しながら素早く回転。
「すごい……」
小さなスキダたちはなすすべもなく薙ぎ倒されていく。
「みんな消えろ! 死んじゃえ! すきなものなんか! 好きな相手なんか選べるのは、上級国民だけなんだ!!!
私は! 好きなんて信じない!!」
このままスキダが潰せれば────と思っていると叫び声がした。
スキダアアアアアアアアアアーー!
スキダアアアアアアアアアアーー!!!
そう、小さなスキダは囮だ。
彼女の背後、電話機が形を変えてゆき、みるみる巨大化し、人の形になっていった。
大きな腕で小さな体を持ち上げ、首を掴む。
「ぐっ……は、離、せ……!」
スキダは、彼女の顔を覗き込み、ニヤリと笑うと呪詛のように、スキダ……スキナンダヨ……と呟き始めた。
「だ、め……共感、できないっ……!!」
女の子の目から涙が溢れる。
スキダの腕は、彼女には引き剥がせないらしい。ミニカーが小さくなって行く。
『ワカッテ……スキナンダヨ……』
「いやぁ! いやあぁ!」
離しなさい、とそちらに向かおうとしているとき、頭上でヘリコプターの音がした。庭から油のにおいもする。
「コリゴリ……」
火を、つけられる前に逃げなくちゃ。
だけど、あいつのスキダは、私にも共感出来ない……。
怖くて椅子さんにかかる手に力が入る。
木のざらざらした感覚をなぞると、まるで、心を落ち着かせようとしてくれるみたいだ。そうね、深呼吸、深呼吸。
「あなたって、ロリコンだったの!?」
私は椅子さんとともにスキダに向かって行く。
スキダはすぐに標的を私に変えた。
椅子さんがスキダに触手を伸ばすと、女の子にかかっていた腕が蒸発して柔らかくなる。女の子は慌てて頭を振り、その場から抜けた。
「おねえちゃん……」
「早く逃げて! 私は悪魔だから大丈夫!」
恋愛は強制されるものなら、どうして習わなかったんだろう?
「はいっ、今日の夕飯は春巻きです」
テーブル中央には大皿に詰まれた春巻き、そしてスープ。
「おぉー」
女の子が手を叩く。
ちなみに監察さんはお風呂に入っていた。
「あと、こっちが水餃子で、しゅうまいね」
椅子さんは私の隣に座って……くれたら良かったけれど、乾かす為にベランダ際だ。今日は良い天気だし、あとで一緒に星を見よう。きっときれいに見えるはず。
三人ぶんの箸を揃えると、監察さんより先に食べることにした。女の子は美味しそうに食べるし、私もなんだか嬉しい。
──けれど、ふと彼女の箸が水餃子に向いたまま止まった。
「ママ……」
女の子は少し切なそうに呟く。
「ハクナが狙っているのはうちだけだと思ってた」
私も恋人届けが受理されなかったことを思っていた。確かに、あの様子では何年も経ってしまう。だけど……
……私は悪魔だ。
ただでさえ笑い者なのに、この前のスライムのことで更に恐れられてしまったかもしれない。
──悪魔が届けを受理なんて本当にされるんだろうか?
尚更良い理由を見つけたかもしれない。
考えてから一旦思考を止め女の子に提案する。
(どうなるかはわからないけれど、私は悪魔だよ。
悪魔って、呼ばれて、みんなの中にから最初から居ないんだ……
私はしがらみなんてないんだ。
)
「ママを…………探しに行こ?
ハクナも、きっとなんとかなるよ!
私は悪魔だもん。誰も怖くないよ!」
胸を張って言うと、女の子は少しだけ安心したように笑う。
ちょうどそのとき、びーっ、と音がして隣の部屋の電話機から紙が吐き出される。
席を立ち回り込むと足元に紙が散乱していた。
目についたのはプリンを食べる女の子と、いびつに歪んだ悪魔の絵が貼り付けられた、コラージュ写真。
────かわいいですね?
小さくメモが書かれ、連続で来たあとで、また「愛してる」「別れないからな」
「やりなおそう」「愛してる」「愛してる」
紙が連続で吐き出される。
それから、エラー音がした。
「カミヲ、イレテ、クダサイ、カミヲ、イレテ、クダサイ、カミヲ、イレテクダサイ」
「うわっ! もう紙が……」
女の子は私の方まで向かって来て少し不安そうだった。
「悪魔だからね、仕方ないよ」
私はそう言って返すのが精一杯だ。
うん、まずは監察さんにお願いしてみよう。
それから────それから────
そのとき、外で大きな音がした。
床や壁がわずかに揺れる。
「え?」
ベランダの椅子さんを抱えて窓を開けると
サングラスをかけたやや顎の突き出た長髪の男が立っていた。
「────やぁやぁ! 失礼! 我が名はコリゴリ! 此処に、アサヒは来ていないかハァ?」
「アサヒって、誰ですか?」
「監察屋だよ────といっても、不祥事を起こして先日クビになってるんだけどホォ」
もしかして────そう思いかけたとき、
監察さんがコリゴリの背後からやってきた。
「俺なら此処だ」
「おーんや、アサヒィ!!? 」
「俺に用事か? それともその家になにか用事か?」
「同・じ・こ・と・よホォ! あれで!」
見上げると、彼の背後のビルの屋上にはヘリコプターが止まっている。
「証・拠・隠・滅」
その言葉を合図にヘリコプターはいきなり浮き上がり、こちらに向かって飛び始めた。
私があわてて外に出たときだった。家の背後からも何か悲鳴が上がる。
スキダアアアアアーーーー!!!!
スキダアアアアアーーーー!!!!!
スキダアアアアアーーーー!!!!!
「タイミング悪いわね!」
まさかと思っていたけど、発生、したのか……スキダが。
「一体、どれだけの執念なんだろう。
あの気持ち悪い人は」
ヘリコプターが飛ぶのにかまっていられない。私は家の中に走りながら叫んだ。
「おーい! 早くそとに出て!!」
女の子は、紙から現れたスキダに驚いている。それは朽ちかけた人のような形をした、どろどろした小人で、紙から沸いては歩いて来ている。
枚数ぶん、それから恐らく棚の中からも。
(……小さい、けれど数が多い。
さすがに文章や写真からなら平気だと思ってたけど、スキダってどこからでも来るのね)
どうしよう。
私が近付いたらさらに強大化するかもしれない。だけど、女の子が心配だ。
だけど────────
女の子はポケットから赤いミニカーを取り出す。
「あなたが、おねえちゃんに付いてきたの?」
ミニカーは光りながら少しずつ大きくなり
やがてスキダよりも大きくなった。
「でも私は、あなが好きじゃない。だから、あなたを否定する」
彼女が手を広げた途端、ミニカーはエンジンがかかり、一気に放たれる。
片足でつぶれそうな小さなスキダを次々に轢き殺しながら素早く回転。
「すごい……」
小さなスキダたちはなすすべもなく薙ぎ倒されていく。
「みんな消えろ! 死んじゃえ! すきなものなんか! 好きな相手なんか選べるのは、上級国民だけなんだ!!!
私は! 好きなんて信じない!!」
このままスキダが潰せれば────と思っていると叫び声がした。
スキダアアアアアアアアアアーー!
スキダアアアアアアアアアアーー!!!
そう、小さなスキダは囮だ。
彼女の背後、電話機が形を変えてゆき、みるみる巨大化し、人の形になっていった。
大きな腕で小さな体を持ち上げ、首を掴む。
「ぐっ……は、離、せ……!」
スキダは、彼女の顔を覗き込み、ニヤリと笑うと呪詛のように、スキダ……スキナンダヨ……と呟き始めた。
「だ、め……共感、できないっ……!!」
女の子の目から涙が溢れる。
スキダの腕は、彼女には引き剥がせないらしい。ミニカーが小さくなって行く。
『ワカッテ……スキナンダヨ……』
「いやぁ! いやあぁ!」
離しなさい、とそちらに向かおうとしているとき、頭上でヘリコプターの音がした。庭から油のにおいもする。
「コリゴリ……」
火を、つけられる前に逃げなくちゃ。
だけど、あいつのスキダは、私にも共感出来ない……。
怖くて椅子さんにかかる手に力が入る。
木のざらざらした感覚をなぞると、まるで、心を落ち着かせようとしてくれるみたいだ。そうね、深呼吸、深呼吸。
「あなたって、ロリコンだったの!?」
私は椅子さんとともにスキダに向かって行く。
スキダはすぐに標的を私に変えた。
椅子さんがスキダに触手を伸ばすと、女の子にかかっていた腕が蒸発して柔らかくなる。女の子は慌てて頭を振り、その場から抜けた。
「おねえちゃん……」
「早く逃げて! 私は悪魔だから大丈夫!」



