「おねえちゃんたち、遅いなぁ…………」
恋愛至上主義者と何かあったんだろうか。一人になった部屋で、することもなく窓を見ていた。
そもそもあの観察さんが、味方かなんてわからない。
心配になってきた。
空はすっかり暗くなっていて夜が近付いている。
「おねえちゃん、なんだか普通と違うにおいがした……」
そーっと、庭をのぞく。
この家。たくさんのビルや、たくさんの会社の影になって、まるで忌まれているみたいだ。人工的に強制してつくられた日陰にあって、物干し竿だけは屋上の、高い場所に突き出ている。
(この家で、おねえちゃんは、ずっと……)
何か、何か、掃除くらいならと、近くにあったはたきを手にする。が、後ろにあった棚にぶつかってよろけた。
「う、わっ!」
振り向くと、棚からドサドサと紙が出てくる。
中身は同じ文字が羅列されていた。
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、
────それから、盗撮写真。
パジャマを着て寝ていたり、ぼんやり座っていたり、料理の写真まである。日付がつけてあり、毎日、1日3分ごとに送られているらしい。
「な、に、これ……」
棚の上にあったほこりをかぶった電話が、ピーッと音を立てたと近付いてみると、なにやら紙を送ってくる。
動画サイトでやっているアニメ『さかなキッチン』のキャラクター画像だ。
おねえちゃんが、ハンバーグを作っている身体を切り抜き、顔だけがヒロインのみおちゃんになっていた。雑なコラージュ。
二枚、三枚、と送られてくる。
「えっ…………?」
この家の中、今も、見ているってこと。
────観察さんなのだろうか。
私の頭の中にそんな考えが浮かんでくる。
「おねえちゃん……」
おねえちゃんは、どうして私を助けたのだろう。
それに。なんだろう、これ。
「…………」
棚のなかを少しでも戻そうと、散らばった紙をまとめる。それから、たぶんこのへん、と箱の上に載せたとき、棚にもうひとつ、日記みたいなのを見つけた。
いけない、いけない、と思いながら、だけどどうしても開いてしまう。
月 日
また、人が死んだ。
月 日
また、人が、死んだ。
月 日
また、人が、死んだ。
おかしいと思ってあの人の後をつけた。
悪魔の仲間、って、言って油をかけていた。
月 日
吐くな、吐くなよ?
悪魔の仲間
私と話すと悪魔の仲間だと思ってしまう
らしい。
月 日
悪魔の仲間なんて、間違い。
あの人は、聞く耳を持たない。
また、人が死んだ。
月 日
私が死ぬ人に話しかけていると
噂が立っている。
月 日
また、人が死んだ。
月 日
死は見えない。終わりが見える。
あの人が、悪魔の仲間だと思った人が、死んでいく。
月 日
また、写真。
写真。
月 日
こんな、愛してる、は、悲しい。
月 日
次は誰が死ぬんだろう?



