椅子こん!





──人の子よ。

「……!」

──人の子よ。もうじき、時が来る。そのとき、そこの者は変わる……しかし怯えていては、いけないよ。

「椅子さん?」 

 椅子さんの声だ。
私はちょっと嬉しくなりながらも
カグヤの家を見つめる。
椅子さん……椅子さん、椅子さん。
だけど、なんて言ったの?
振り向くと、女の子がアサヒを見ていた。
「アサヒ?」

「──っ」
 アサヒは頭を抑えながら、何かを耐えているみたいだった。

「アサヒ…………」

少ししてアサヒは無言のまま体勢を戻した。
あれ? なんだろう?
アサヒの目付きが、違う。
何だか──

「えっと、大丈夫?」
女の子が聞くと、アサヒは無言のまま頷いた。いつもなら、何かしら喋りそうなのに。

「アサヒ、だよね?」

 なんだか違う人みたいで、ちょっと怖くて、私は思わず確認した。
アサヒは何も言わず、ニッコリと笑う。
「ねぇ──ねぇ、アサヒ!? アサヒ……あなたは、アサヒだよね?」

なんだか不安で、肩を掴んで話しかける。

「──ew.」

「あ……アサヒ……」

「y^estaeweme」

──違う。
アサヒじゃない。

「……ウフフフ。ウフフフフフ」

「────あ……の……っ」

あの子だ。

「──普通に、コクってやるのも良かったのだが。
この者には、なにやら。少し、通ずるものがあってな」

アサヒの姿で、あの子は笑っていた。

「ウフフフ。姫。会いたかったよ、姫」

姫──?

「どうして、この者が、姫と対話することが出来るのか──ウフフフ。
姫、驚いておるな。姫の前に以て、
『孤独』を差し出す者は久しくおらぬから、少し気分が良い」

 アサヒはクスクスと笑いながら、身体を確かめるようにさする。
 アサヒのことだろうか?
彼の孤独を、私はほとんどは知らない。マカロニさんが誘拐されたことすらほとんど断片を聞いたに過ぎない。
「私はいつでも──孤独を差し出せる者を、見ている……」










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 ♥️8623株式会社 めぐみ友昭 、代表木村








「コリゴリが途切れる間際に遺した通信、
そしてカグヤの家の観察によると、
あの椅子がなにやら鍵を握っているかもしれません」
「しかし椅子を使うには、彼女の力を奪う必要があります」
「しかし、あの椅子に、我々がそのまま向かっても太刀打ち出来ないでしょうし……彼女を殺害するわけにもいかない」



 ハクナが選挙の票などのツテをつかってこっそり政府や街と結んだ契約がある。
  それは、魔の者が現れたときの戦力として武器や兵器を学会の予算を注ぎ込み購入する、その補助。
 代わりに、44街をしっかり守ることを約束していた。

「……が。しかし、あのロボット。しくじったようだな。我々が、甘かったかもしれん」


8番テーブルでは、取引以外に、学会の活動報告も行われた。ギョウザや、黒猫たちがそれぞれの立場から私見を述べる。
 ――この時点で、学会はもちろん、悪魔の子の観察を諦めていたわけではなかった。
むしろあちこちに潜み、様々な場所から四六時中付きまとっている。
のだが、『あの放送』後、おかしな動きをするのは難しくなってはいた。
 44街の圧力の空気を和ませるべく、せつに、なりきってもらい放送を流しているけれど、何人かが信じるか信じないかというくらいで、実質的にはそんなに効果を為していない。今や役場にも監査が入っている。
苦肉の策として、ちょっとした嫌がらせをするので精一杯だったので、空港に至っても、チケットを取るらしいというのは知られているものの、直接なにか嫌がらせをすることは憚られた。機内で目立てば、国際的にも信用を失いかねない。


「会長や、田中の暴走も、随分、目立ってしまった……」

 今ではネット等、彼の権力が完全には行き届かない場が増えていた為、ギョウザの統制も虚しく、謎の兵器によって通行止めが引き起こされた話題は瞬く間に44街中に広まっていった。テレビも結果的に、それに従わざるを得なくなりだしているために、結局、全てを封じるどころか、『あの兵器』がそこそこ大きな話題として取り上げられた。

「ヨウも、監視付きになってしまったか……」

 それらは、兵器に税金が導入されている、国民を私益に利用しているという噂に繋がる。
 その兵器を使って、44街の民をいじめていた――なんと最悪な噂だろうか。

時期選挙にも響くかもしれず、むしろ学会との関わりを避けるものも出てきた。もはや、内部の統率も取れていない。
 此処に集まる幹部のようにしぶとく生きようとする者たちにとって今は、早く取引を行い、売れるものを出来るだけ売って監査までになるべく証拠を手元に残らなくしておくことこそが今優先される事項だ。
 その一方で、何年にも渡って他人を自殺に追い込む仕事をしてきた岡崎老人など、監査そのものに耐え切れない一部の者は、自ら命を絶った。
「これだけ監査が入れば、時期にもう、この学会も終わりだろう。だが、あの『椅子』のことも諦めきれない。あれこそが」

義手の男は、一杯酒を呷ると、ニヤリと笑った。

「俺の手と、キム、本家を繋ぐ唯一の手がかり。それが観察をせずとも、自ら現れてくれようというんだ。
なんとありがたいことだろう。俺は、あいつらに付け入る隙をずっと、ずっと、狙っていた。
戦争のきっかけでもあれば、すぐにでもぐしゃぐしゃに捻りつぶせたものを、皮肉にも、あの悪魔の子としての接触禁止令によって、そもそも、対峙して会話することさえ難しかったもので……それがようやく叶う――! カモがネギを背負って来たとはな」

 カグヤの家も、いつでもおさえられるようにしている。
あのときアッコに電話をかけさせたのも、あいつらが来ているか確実に知るためだった。
 スパイが彼女になりきるためには、あらゆる情報が必須。
機械越しでは伝わらない何もかもを把握しておきたかったので、家から抜け出た彼女が今嬉しそうか、どんなふうにカグヤたちと遊んでいるかなども報告させたのだが――変な椅子を持ってきているというのは本当のことであり、工房に寝かされていること、夕飯のメニュー、カメラには映らない彼女らの様子なども、こと細かく教えてくれた。 もはや録音や録画だけでは足りない。
あんなにも、自分に手が届かない彼女の情報があることが悔しいとは、我ながらにひどい執着心だ。
  
学会員になって、奉仕活動に参加するかもしれないという期待、学会員との間の確執によって、派手にあの家で暴れてくれれば良いという期待もあったものの、それは、上手くいかなかった。が、巡り巡って、今に繋がっているとは、運命は面白い。
「途中から好きになることってぇ、あるよねぇー。フフフ」



 とにかく――あの祖父も、もうそんなに長くはない。どうせ、修理するものが居なくなる、
それに、家から出てきたのがただの椅子の設計図だったとしても、その家具屋の血には意味がある。
「これはチャンスだ。あの椅子、そしてあの娘。俺のものにしてやる。そして、他人を好きになるのがどれだけ偉いのか、教えてやろう」






  昨日はアサヒとオージャン、女の子と私と椅子さんで隣の部屋で泊まった。
朝は買い出したパンとサラダの簡単な朝食、着替えなどを済ませて――いよいよ今日。

「結婚式場」に向かうことになった。
 拉致の事実があったとして、それをもとに、どうしたらいいのかは、明確には答えが出なかった。
女の子も、うーん、と苦笑いするだけ。
北国は雪が降っていてあちこちが真っ白い。街のほとんどが、白一色。
 家々が、大体石やレンガ造りで重厚感があったけれど、安そうな素材の家もちらほら見受けられ、これは貧富や趣味の差かもしれない。
 辺りが薄暗いので、あちこちの壁に電飾などがあり、光がやけに暖かそうに見えた。44街とは違った趣だ。
ときどき川を渡るための石橋があるのだが、これはこれでところどころ凍っていて、慎重に歩くのでかなりハラハラした。
 

「ギョウザさんが内情に絡んでいるのは確実だ。爆撃の件を出したら態度がおかしかったから」
道を歩きながら、アサヒが呟く。
 女の子は、少し、嬉しそうに見えた。ママがとっくに死んでいるかもしれないと何度も考えていたという。
 彼女のママが殺されないでいたのは、彼らにとっての素晴らしい環境で宝石に加工するため。家畜のようにしばらくの間どこかに置かれていたからだろう。不幸中の幸いというものだけれど、市場に出されるという今、その日々もいよいよ終わりを迎えようとしている。
「万本屋のことも、探したけれど、通行人は誰も知らないようでした」
オージャンがそう言うと、アサヒが、俺も探した、と言った。
「あの店の嬢でもないようだし、店員も何か知っているなら、俺に絡めて来そうなものだが、そういうのはなかった」

「早く行こうぜ」
暖かそうな耳当てとコートを身に着けた数人の子どもが歓声を上げながら傍を歩いていく。
「これ、暖かいね!」
「おばさんたち、臨時収入があったんだって」
「雪合戦がいいな」

 彼らはみんなで外で遊ぶらしい。
私も小さいころはよく、外で雪遊びしたっけ。暖かそうな服は、おばさんの臨時収入で買ってもらったのか。いいなぁ。

「こんな寒いのに、子どもたちは元気だな」
思わず、ぽつりと呟く。なんだかちょっと元気が出るような気がした。