怪しい取引
空港に着いて、少し休憩。
椅子さんと、荷物を回収し、手元に抱えていたコートを羽織ったり、帽子を身に着ける。
アサヒたちと、とりあえず宿に向かうことになった。
オージャンさんは、調査が何とか――「毎日毎日、事態が思ったように進まない中、急ぎで訪問、急ぎで制作、急ぎで発送、と急かされる仕事の割り込みが多くて連日心が死んでたんだけど、アシスタントがお店代わっくれて少し回復。今日こそは、調査を楽しむよ」
って言って、どこかに行ってしまったのでいよいよ4人での行動だ。
初めて訪れた北国の空港。
広い! 屋根までガラス張りだ。
「いらっしゃい!」的な言語の旗やのぼりがあちこちでひらひら揺れている。
モニターがいっぱいある。朝のニュースで、株価がどうのと撮影されているみたいなやつだ。
ガラスの向こうの空は白く澄んでいて、少し、雪が積もっている。やっぱり気温が違うんだ。
暖かい飛行機の中に居たので、まだそんなに寒さを感じていないけれど、外は冷えるだろうと推測できる。
「あー……とりあえず昼飯だな」
アサヒの言葉で、私たちは頷いた。
パンフレットとかにある空港のレストランはなんだかおいしそうに見えるので楽しみ。
私の横を付いてくる椅子さんは、靴下を身に着けて、背もたれにカバー(コートの代わり)を付けてウキウキしているのでかわいい。
「何があるのかなー!」
「チョン鳥ラーメンにしようよ」
「えぇ……商工会議所が少し待ってくれることになりました、 補助金、もらえるのだろうか。 民間じゃありえない対応で げんなりしたけど、今でも殺意覚えます」
私たちのすぐ後ろのモニター付近で、携帯片手に電話する人が居た。
集団で来ているようだ。
みんな同じような黒い厚手のコートを着た集団。
サングラスをしている。
あ、怪しい。
遠くからガシャ、ガシャ、と特徴的な音が聞こえてきて、やがて、大柄の(180くらいはある)男がその集団に加わった。
「フン、遠いところから、よく来たな」
コートでよく見えていないが……
アサヒの方を見る。アサヒも確信していた。
義手の男――!
「あの集団、たぶん、全員が幹部関係者だ」
小声でささやかれてハッとする。
って、ことは、あそこに居るのが学会の幹部たち。チョン鳥ラーメンで頭がいっぱいだったのに、急に緊張してきた。
道を挟んで遠くからなのであまりわからないけど、変なスパンコールの付いた服と胃を悪くしそうな葉巻の男も居る。
宴会でもするんだろうか。アサヒは複雑そうな顔をしている。
「あれは、ギョウザさん。怖いから目の前で余計なことは言わない方が良いぞ」
「そ、そうなんだ……」
独特なセンスの人だなぁ。
「まぁまぁ、詳しいことは店に着いたら、話しましょうや」
スーツの一人が低い声でニヤニヤ笑い提案している。店で商談?が行われる感じだ。なんのお店なんだろう。
「最近もなかなかに良い子が入ってるんです」
「ほう」
女の子は、話に興味がないのかポケットから出したミニカー(恋人)を掌にのせて温めている。
久しぶりにみた車体に、なんだかなつかしさが込み上げてくる。
「とりあえず、ご飯食べよう……飢えたら元も子もないよ」
彼女は、お店のある方角を見ながら、私とアサヒに空腹をうったえる。
――ご飯は食べましたかぁー? ハハハハ!
通行人の誰かがすれ違いざまにちょうどそんなセリフを吐く。
「そうだね。そうしよっか。途中で倒れたらなんにもなんないもんね」
私もアサヒも賛成だ。
そういえば、噂によると、飛行機にご飯時に乗っていると機内食ってやつがあるらしい。それも食べてみたかったな。とちょっと思った。
早めのお昼は、ちょうどそれらしきお店があったので、チョン鳥ラーメンを食べた。
(そういえば、荷物だけど、アサヒが空港からすぐの宿を予約していたらしいので、先に重そうな荷物だけは送ってもらったりしている)
それから、外に出ても、今のところは、せつも、学会の人らしいのも来ていなかった。
……のかもしれないし、ただ単に、目立っていないだけかもしれない。
結構ボリュームあったな、とか、チョン鳥ってあんな味なんだ、とか考えている私の横で、女の子は、こっち、と空港の奥、北東を指さした。
「なに? トイレとか?」
「それは向こうだ」
アサヒが彼女と逆にある方角を指す。彼女はさっさと北東に向かって歩き始めた。
椅子さんもついていこうとする。(もしかして……)
私は、彼女の掌が僅かに輝いているのと、頭上のスキダが、やけに不安定に揺れて、何かを見つめているのを感じた。
やっぱり彼女の『車さん』が、ずっと幹部たちを追いかけてくれていたのか。
食事に集中しやすいようにしてくれながら、監視もしてくれるなんて、さすが、グラタンさんの娘だ。
「…………こっち」
彼女がいうように、北東、北西、まっすぐ北、東、東、北南、と曲がっていくと、辺りがだんだんと薄暗い景色に変わり始めた。
というか、右回りに、地下へと階段を下りて行っている。しかもこれ、たぶん、正規ルートじゃない。
取引をする人たちは普段から人目につかないように、こうやって様々な道を用意しているのだろう。
「へぇ、空港にこんな裏道があったんだな」
アサヒがなるほど、と感嘆の声を上げる。
しばらく降りていくと、やがて外につながる道になった。冷える寒空の下、治安が悪そうな、にぎやかな繁華街が姿を現す。
あちこちで酔っ払いが潰れているし、女の人がやたらと客引きしているし、籠を持った無精ひげの男性が何かを言いながらやたらと通行人に絡んでいる。
「子どもには刺激が強いかな」
アサヒが呟く。
ふふふ。しかし私は、椅子さんと合体しているので、大人なのです。
……とはいえ、物騒なのに変わりはないだろう。私たちは言いつけを守って、アサヒの後ろをついていった。
女の子の指す方向には飲み屋街があって、更に奥に行くにつれて、異様な空気の一角が表れてくる。
案内するかのように女性の写真がずらりと並んだ、大きなお店。
看板は、普通にお酒を飲むところらしい名前だけれど、居酒屋とかとは規模が違う。
映画館とかデパートにあるような頑丈な分厚いドアがあって、カーペットが敷かれていて、あちこちに電飾が付けられたお店だ。
「な、なんか、怖そう」
「この先……この先に、続いてるよ」
女の子はそう言うけれど、ここ絶対未成年入れない……
「どうしましょう……」
私はアサヒを見る。
アサヒは、うーん……とうなった。
「眼鏡に連絡して、宿に送ってもらうようにしてみるか……あぁ、だけど、知らない土地で一人って、数秒でも、駄目だな……!」
「コッソリ入る?」
私はこっそり呟く。だって、置いていけないよ。
「いや、店はわかったんだし、見つかると目立つし、とりあえず宿に」
アサヒはそう言って戻ることを提案する。トントン、と誰かがアサヒの肩を叩く。
「やっほー」
いつの間にか背後にダッフルコート姿のオージャンが居たみたいだ。ネオン街に紛れる姿は、なんというか、間違った観光の人って感じで私たちくらい浮いている。
「この辺は、スキダの調査にちょうどいいんです。なんたって欲望の街。スキダは欲望の結晶ですからね」
「何か成果はあったか」
アサヒが聞くと、彼は眼鏡をくいっと押し上げて答えた。
「やはり、こういった風俗的な店――そこでも、スキダが正常に大きくなることが出来ない現象、怪物化が起きていました。
44街は、過去の制作――今とは逆の、リア充禁止政策が行われていた時に減ってますからね、そういう店自体が」
「と、いうことは――」
私が思わずつぶやくと、オージャンが頷いた。
「怪物化そのものは、接触禁止令が肥大化させた力という可能性があります。スキダを持っていても44街がそれを禁じていることによって行き場の無いスキダは、本人たちを飲み込んでしまう……その仮説が出てきました」
つまり――私は……
「スキダの発育を異常に早める、というこいつの体質と、44街の政策が、悪魔を生み出していた可能性もあるんだな」
アサヒは、納得したようだった。
オージャンは頷く。
「まだ、仮設ですがね……少なくとも、通常ならそこそこの怪物になるものを、『より過激な怪物』に促進している可能性は高いかと。このあたりの店を回って得たデータをもとに……」
解説を続けているオージャンさんだったが、私たちは今の状況をざっくりと話した。
「……そうか」
オージャンさんは、一旦話すのをやめて私たちの話を聞いてくれた。
「たぶん、この辺りの店で働く女の何割かが嫁品評会に出され、何割かが他の目的で売られる。僕も、他の仲間たちと情報がないか回ってみます」
「なぁ、眼鏡」
「なんだ、アサヒ」
「『あの店』に今……幹部と、元、幹部が集まっているのかもしれない」
アサヒは店、を視線で指示す。
「元幹部、か……」
「もしくは『そういう裏組織』の一員って感じ。そっちが本業っぽい。昔、雑誌で見たことがある。学会が海外にも支部を広げようとしていたことがあって……44街の情報を流すのと交換条件で、学会は『そういうところ』にも関わっていたのではないか、と」
「招待するときに、幹部にした感じかな。よくあるな、その流れ」
……つまり、悪い人ってことだ。
う、うん……あまり踏み入ってもまずそうな話題だ。
アサヒは、その後、女の子をオージャンさんに任せるように頼んだ。
「あと」
私は、ちらっと、背後を見る。
もちろん、ずっと居たのだけど、どうモノローグに入れたらいいのかわからなかった、椅子さん。
「椅子が、店内を歩いてたら、さすがに、見つかったとき目立っちゃう……」
嫉妬してしまうかもしれない。私も寂しい。椅子さんと一緒に居たい……
だけど、椅子さんが見せしめみたいに投げたりバラバラにされたり、燃やされたら、私はその方が耐えられない。
ぎゅうう、と抱きしめる。
「椅子さん……」
――わかっている、この子を守るよ。
「椅子さん……ありがとう」
椅子さんが続いて、じっ、とアサヒを見つめる。アサヒはきょとんとしていた。……まぁいいか。
「ママの手がかり、見つけてくるね!」
ぐっ、とこぶしを握り締める私に、彼女と、オージャンは、「頑張ってくださいね」「待ってる!」と言った。
ということで、アサヒと二人、店を伺うことに。
「したのは良いんですけど……」
私は項垂れる。
アサヒはもともと不審者だから良いとして、私は普通の観光客にしか見えない。
ちょっと、落ち着かないなぁ。
「不審者言うな」
サングラスもあるぜ、とアサヒがサングラスを見せてくる。それってもしや観察屋の一式装備だったりするのか。
「スパイ活動するんだったら、こんなおしゃれしなくて良かったのに……」
ちょっと涙目。
「でも、結構似合ってるぜ」
「今言われてもなぁ……よしっ、気合を入れて、がんばろー」
「切り替え速えー」
店の前、を遠巻きに眺めながら、どこから入るかとか、どんな感じで行くかとか考える。
ここって予約制じゃないよね?
「ここって、サイコは来てるか?」
うーん……うーん……どうしよう。
「あぁ……まぁ、そんな感じだ。とはいえ極秘で偵察してくるだけだからな」
とりあえず、アサヒにお客さんになってもらって……
いや、私はどうするの?
えっと……もう少し目立たない服も持ってきたらよかったな。
「見てもらいたい品があるんだが、此処に集まるって噂を聞きつけて」
あー--。なんか、なんか、落ち着かないな。どうしよう。
「畏まりました。では、お二方、あまり荒立てないように、どうぞ」
入口前に居た黒服の人が、こっちに話しかけてきて、目を丸くする。
「え?」
「なにボサっとしているんだ。話は付けた。中に入るぞ」
アサヒが私の腕を引っ張る。
「な、何を言ったの……?」
――彼は、何も答えず、店に入る前に、あのサングラスを装着。(やっぱつけるんだ)そして私を導きながら中に向かった。
空港に着いて、少し休憩。
椅子さんと、荷物を回収し、手元に抱えていたコートを羽織ったり、帽子を身に着ける。
アサヒたちと、とりあえず宿に向かうことになった。
オージャンさんは、調査が何とか――「毎日毎日、事態が思ったように進まない中、急ぎで訪問、急ぎで制作、急ぎで発送、と急かされる仕事の割り込みが多くて連日心が死んでたんだけど、アシスタントがお店代わっくれて少し回復。今日こそは、調査を楽しむよ」
って言って、どこかに行ってしまったのでいよいよ4人での行動だ。
初めて訪れた北国の空港。
広い! 屋根までガラス張りだ。
「いらっしゃい!」的な言語の旗やのぼりがあちこちでひらひら揺れている。
モニターがいっぱいある。朝のニュースで、株価がどうのと撮影されているみたいなやつだ。
ガラスの向こうの空は白く澄んでいて、少し、雪が積もっている。やっぱり気温が違うんだ。
暖かい飛行機の中に居たので、まだそんなに寒さを感じていないけれど、外は冷えるだろうと推測できる。
「あー……とりあえず昼飯だな」
アサヒの言葉で、私たちは頷いた。
パンフレットとかにある空港のレストランはなんだかおいしそうに見えるので楽しみ。
私の横を付いてくる椅子さんは、靴下を身に着けて、背もたれにカバー(コートの代わり)を付けてウキウキしているのでかわいい。
「何があるのかなー!」
「チョン鳥ラーメンにしようよ」
「えぇ……商工会議所が少し待ってくれることになりました、 補助金、もらえるのだろうか。 民間じゃありえない対応で げんなりしたけど、今でも殺意覚えます」
私たちのすぐ後ろのモニター付近で、携帯片手に電話する人が居た。
集団で来ているようだ。
みんな同じような黒い厚手のコートを着た集団。
サングラスをしている。
あ、怪しい。
遠くからガシャ、ガシャ、と特徴的な音が聞こえてきて、やがて、大柄の(180くらいはある)男がその集団に加わった。
「フン、遠いところから、よく来たな」
コートでよく見えていないが……
アサヒの方を見る。アサヒも確信していた。
義手の男――!
「あの集団、たぶん、全員が幹部関係者だ」
小声でささやかれてハッとする。
って、ことは、あそこに居るのが学会の幹部たち。チョン鳥ラーメンで頭がいっぱいだったのに、急に緊張してきた。
道を挟んで遠くからなのであまりわからないけど、変なスパンコールの付いた服と胃を悪くしそうな葉巻の男も居る。
宴会でもするんだろうか。アサヒは複雑そうな顔をしている。
「あれは、ギョウザさん。怖いから目の前で余計なことは言わない方が良いぞ」
「そ、そうなんだ……」
独特なセンスの人だなぁ。
「まぁまぁ、詳しいことは店に着いたら、話しましょうや」
スーツの一人が低い声でニヤニヤ笑い提案している。店で商談?が行われる感じだ。なんのお店なんだろう。
「最近もなかなかに良い子が入ってるんです」
「ほう」
女の子は、話に興味がないのかポケットから出したミニカー(恋人)を掌にのせて温めている。
久しぶりにみた車体に、なんだかなつかしさが込み上げてくる。
「とりあえず、ご飯食べよう……飢えたら元も子もないよ」
彼女は、お店のある方角を見ながら、私とアサヒに空腹をうったえる。
――ご飯は食べましたかぁー? ハハハハ!
通行人の誰かがすれ違いざまにちょうどそんなセリフを吐く。
「そうだね。そうしよっか。途中で倒れたらなんにもなんないもんね」
私もアサヒも賛成だ。
そういえば、噂によると、飛行機にご飯時に乗っていると機内食ってやつがあるらしい。それも食べてみたかったな。とちょっと思った。
早めのお昼は、ちょうどそれらしきお店があったので、チョン鳥ラーメンを食べた。
(そういえば、荷物だけど、アサヒが空港からすぐの宿を予約していたらしいので、先に重そうな荷物だけは送ってもらったりしている)
それから、外に出ても、今のところは、せつも、学会の人らしいのも来ていなかった。
……のかもしれないし、ただ単に、目立っていないだけかもしれない。
結構ボリュームあったな、とか、チョン鳥ってあんな味なんだ、とか考えている私の横で、女の子は、こっち、と空港の奥、北東を指さした。
「なに? トイレとか?」
「それは向こうだ」
アサヒが彼女と逆にある方角を指す。彼女はさっさと北東に向かって歩き始めた。
椅子さんもついていこうとする。(もしかして……)
私は、彼女の掌が僅かに輝いているのと、頭上のスキダが、やけに不安定に揺れて、何かを見つめているのを感じた。
やっぱり彼女の『車さん』が、ずっと幹部たちを追いかけてくれていたのか。
食事に集中しやすいようにしてくれながら、監視もしてくれるなんて、さすが、グラタンさんの娘だ。
「…………こっち」
彼女がいうように、北東、北西、まっすぐ北、東、東、北南、と曲がっていくと、辺りがだんだんと薄暗い景色に変わり始めた。
というか、右回りに、地下へと階段を下りて行っている。しかもこれ、たぶん、正規ルートじゃない。
取引をする人たちは普段から人目につかないように、こうやって様々な道を用意しているのだろう。
「へぇ、空港にこんな裏道があったんだな」
アサヒがなるほど、と感嘆の声を上げる。
しばらく降りていくと、やがて外につながる道になった。冷える寒空の下、治安が悪そうな、にぎやかな繁華街が姿を現す。
あちこちで酔っ払いが潰れているし、女の人がやたらと客引きしているし、籠を持った無精ひげの男性が何かを言いながらやたらと通行人に絡んでいる。
「子どもには刺激が強いかな」
アサヒが呟く。
ふふふ。しかし私は、椅子さんと合体しているので、大人なのです。
……とはいえ、物騒なのに変わりはないだろう。私たちは言いつけを守って、アサヒの後ろをついていった。
女の子の指す方向には飲み屋街があって、更に奥に行くにつれて、異様な空気の一角が表れてくる。
案内するかのように女性の写真がずらりと並んだ、大きなお店。
看板は、普通にお酒を飲むところらしい名前だけれど、居酒屋とかとは規模が違う。
映画館とかデパートにあるような頑丈な分厚いドアがあって、カーペットが敷かれていて、あちこちに電飾が付けられたお店だ。
「な、なんか、怖そう」
「この先……この先に、続いてるよ」
女の子はそう言うけれど、ここ絶対未成年入れない……
「どうしましょう……」
私はアサヒを見る。
アサヒは、うーん……とうなった。
「眼鏡に連絡して、宿に送ってもらうようにしてみるか……あぁ、だけど、知らない土地で一人って、数秒でも、駄目だな……!」
「コッソリ入る?」
私はこっそり呟く。だって、置いていけないよ。
「いや、店はわかったんだし、見つかると目立つし、とりあえず宿に」
アサヒはそう言って戻ることを提案する。トントン、と誰かがアサヒの肩を叩く。
「やっほー」
いつの間にか背後にダッフルコート姿のオージャンが居たみたいだ。ネオン街に紛れる姿は、なんというか、間違った観光の人って感じで私たちくらい浮いている。
「この辺は、スキダの調査にちょうどいいんです。なんたって欲望の街。スキダは欲望の結晶ですからね」
「何か成果はあったか」
アサヒが聞くと、彼は眼鏡をくいっと押し上げて答えた。
「やはり、こういった風俗的な店――そこでも、スキダが正常に大きくなることが出来ない現象、怪物化が起きていました。
44街は、過去の制作――今とは逆の、リア充禁止政策が行われていた時に減ってますからね、そういう店自体が」
「と、いうことは――」
私が思わずつぶやくと、オージャンが頷いた。
「怪物化そのものは、接触禁止令が肥大化させた力という可能性があります。スキダを持っていても44街がそれを禁じていることによって行き場の無いスキダは、本人たちを飲み込んでしまう……その仮説が出てきました」
つまり――私は……
「スキダの発育を異常に早める、というこいつの体質と、44街の政策が、悪魔を生み出していた可能性もあるんだな」
アサヒは、納得したようだった。
オージャンは頷く。
「まだ、仮設ですがね……少なくとも、通常ならそこそこの怪物になるものを、『より過激な怪物』に促進している可能性は高いかと。このあたりの店を回って得たデータをもとに……」
解説を続けているオージャンさんだったが、私たちは今の状況をざっくりと話した。
「……そうか」
オージャンさんは、一旦話すのをやめて私たちの話を聞いてくれた。
「たぶん、この辺りの店で働く女の何割かが嫁品評会に出され、何割かが他の目的で売られる。僕も、他の仲間たちと情報がないか回ってみます」
「なぁ、眼鏡」
「なんだ、アサヒ」
「『あの店』に今……幹部と、元、幹部が集まっているのかもしれない」
アサヒは店、を視線で指示す。
「元幹部、か……」
「もしくは『そういう裏組織』の一員って感じ。そっちが本業っぽい。昔、雑誌で見たことがある。学会が海外にも支部を広げようとしていたことがあって……44街の情報を流すのと交換条件で、学会は『そういうところ』にも関わっていたのではないか、と」
「招待するときに、幹部にした感じかな。よくあるな、その流れ」
……つまり、悪い人ってことだ。
う、うん……あまり踏み入ってもまずそうな話題だ。
アサヒは、その後、女の子をオージャンさんに任せるように頼んだ。
「あと」
私は、ちらっと、背後を見る。
もちろん、ずっと居たのだけど、どうモノローグに入れたらいいのかわからなかった、椅子さん。
「椅子が、店内を歩いてたら、さすがに、見つかったとき目立っちゃう……」
嫉妬してしまうかもしれない。私も寂しい。椅子さんと一緒に居たい……
だけど、椅子さんが見せしめみたいに投げたりバラバラにされたり、燃やされたら、私はその方が耐えられない。
ぎゅうう、と抱きしめる。
「椅子さん……」
――わかっている、この子を守るよ。
「椅子さん……ありがとう」
椅子さんが続いて、じっ、とアサヒを見つめる。アサヒはきょとんとしていた。……まぁいいか。
「ママの手がかり、見つけてくるね!」
ぐっ、とこぶしを握り締める私に、彼女と、オージャンは、「頑張ってくださいね」「待ってる!」と言った。
ということで、アサヒと二人、店を伺うことに。
「したのは良いんですけど……」
私は項垂れる。
アサヒはもともと不審者だから良いとして、私は普通の観光客にしか見えない。
ちょっと、落ち着かないなぁ。
「不審者言うな」
サングラスもあるぜ、とアサヒがサングラスを見せてくる。それってもしや観察屋の一式装備だったりするのか。
「スパイ活動するんだったら、こんなおしゃれしなくて良かったのに……」
ちょっと涙目。
「でも、結構似合ってるぜ」
「今言われてもなぁ……よしっ、気合を入れて、がんばろー」
「切り替え速えー」
店の前、を遠巻きに眺めながら、どこから入るかとか、どんな感じで行くかとか考える。
ここって予約制じゃないよね?
「ここって、サイコは来てるか?」
うーん……うーん……どうしよう。
「あぁ……まぁ、そんな感じだ。とはいえ極秘で偵察してくるだけだからな」
とりあえず、アサヒにお客さんになってもらって……
いや、私はどうするの?
えっと……もう少し目立たない服も持ってきたらよかったな。
「見てもらいたい品があるんだが、此処に集まるって噂を聞きつけて」
あー--。なんか、なんか、落ち着かないな。どうしよう。
「畏まりました。では、お二方、あまり荒立てないように、どうぞ」
入口前に居た黒服の人が、こっちに話しかけてきて、目を丸くする。
「え?」
「なにボサっとしているんだ。話は付けた。中に入るぞ」
アサヒが私の腕を引っ張る。
「な、何を言ったの……?」
――彼は、何も答えず、店に入る前に、あのサングラスを装着。(やっぱつけるんだ)そして私を導きながら中に向かった。



