その頃、闇商人の一人、サイコは今日も商売に精を出していた。
「寝る前まで端末を触っている。
5分以内に寝れる
朝目覚めるのが辛い。
仕事や家事がはかどらない。
ソファでうたた寝してしまう。
平日より休日の睡眠時間が長い。
休日明けからしんどい。
そんなあなたに、良いものがあるんですけど、それが、この枕! スーパースリープです!
シンプルな見た目と裏腹に複雑な構造設計をしています」
秘密の宝石、はただ売るだけではなかなか手に取ってもらえない。そのためあらゆる商品を開発し、少しでも組み込んで、社会に浸透させておく必要があった。
「この、ふんわり層が一週間かけて、あなたの頭に馴染んでいき、あなただけの枕になりますよ!」
文字通りの枕仕事だ。あちこちの街、繁華街を回りながら、今は枕を売りつけて日銭を稼いでいる。
実際はただの枕にすぎないのだけれど、それでもそれらしい単語を並べるといかにも良さそうに見える。それが、こういう商売の基本だ。
「この素材、硬そうでしょ? 違うんですよー。程よく柔らかく、反発がある。また、真ん中が一番柔らかくて、左右に行くほど弾力が高まる設計にしているので、どんな寝方にもフィット!」
「反発があると、寝返りしづらそう……」
「横に行くほど変わったらむしろ目が覚めるよね」
「そうそう、それ! 変な弾力とか要らない。やっぱね、座布団が一番ですわ」
街中で、枕を抱えた台車を引きずるサイコの横を、奥様達がひそひそ話しながら通り過ぎる。
ひゅううううう。と冷たい風が吹く。
サイコの心は凍えそうだ。
「えー、仰向け、横向き、うつ伏せなどどのような寝方にもフィットします。本当です。グラデーション構造で寝返りもサポート。また、
1つの枕で2つの高さが選べるんですよ! 日々異なる体調・気分に合わせて、お好きな高さを選択できます」
「そんな、気分で変わる?」
「さぁ……変えたこと、ないなぁ」
「枕変わると寝れないよねー」
ひゅううううう。と冷たい北風が吹く。
サイコの心は凍えそうだ。
誰にも真似できない、
唯一の技術で
1個1個丁寧に
作られています。
有数の軟水が
湧き出る水の中で
生み出される
独特の製法です。
考えていた言葉が、はらりはらりと剥がれ落ちてゆく。水の中で作ったらなんだっていうんだよ、とかそういうのを言われるに違いなかった。
ならば、と台車からごそごそと、なにやらフリップを持ってきてグラフを並べる。
「圧倒的な通気性がありますよ。ほ、他素材と比較しても頭部の温度が低いことが一目瞭然。
他素材と比較して圧倒的に放熱量が高いので、このスーパースリープピローとウレタン素材を比較すると、スーパースリープピローのほうが長時間経っても高い放熱量を維持しています。反面、ウレタン素材は放熱量が時間とともに低下しており、熱がこもってしまっていることがわかります。
90%以上空気でできているから、空気がこもらず頭部の湿度もあがらない
またこのピローは、長時間使っても枕の湿度が上昇せずに下降していってます。頭部の蒸れを防ぎ、深部体温の低下を促しますよっ」
…………。
無反応。奥様方が通り過ぎていく。
難しいなぁ。
「どんな寝方でも?」
よぼよぼしたおじいさんが食いついた。
「お? 興味ありますか? そー---なんです! この素材! どんな寝方にも合わせた柔らかさと反発を持っています。またほとんど空気ですからね」
「そうか……そうか……ワシ、頭に枕乗せて寝るんじゃけど、ほとんど空気で出来ているのなら、重くなさそうじゃな」
なんで枕を頭に乗せるんだよぉぉぉっ!!なんだよこの変態じじいぃぃ!!! という気持ちを堪えて、サイコははははと苦笑いした。
「お手入れも簡単! すこしへたったと感じたら、形状記憶しているため40度~50度の集めのお湯で洗うとふっくら膨らみを戻します。
5cm~10cm枕本体から離れてドライヤーをあてると復元いたします。
それに素材と比較して圧倒的にダニカビの発生率が低いのがわかります。ハウスダスト、アレルギーの方、お子様と一緒に寝ている方にもおススメ! リサイクルも可能で、地球にも優しい! もう、これは買うしかない!」
そうじゃのぉ……
おじいさんが腕を組んで考える。
さぁ!買うのか? 買えっ……! サイコは必死に祈った。



