昔、ある宗教が起こしたテロの後、そこに居たせつや小林らが身を寄せたのが 恋愛総合化学会。
そこで、当時、まだ彼女たちが幼い頃から既に行われて居たのが、『キムの手』の研究。
同時に、なかなか現れないはずの秘密の宝石も頻繁に出現するようになり、北での取引が進む。
それらは無償で治療が受けられる歯科医や、温泉施設など、富裕層の為の設備の資金になったという。
幼くして両親を逮捕により失ってふさぎ込んだせつに、当時の教祖、会長らは北からの『秘密の宝石』を買い与えた。
彼女は、その場所の中では、お姫様みたいに可愛がられていたという話だ。
……ただ、両親を失ってからのそれがどういう心境からのものなのか、部外者から正確に判断することは難しい。
珍しいものを欲しがるせつのことを励ます為だったのか、いろんな珍しい宝物を彼女に合わせてみたのだろう。
唯一、せつが欲しがった、自分にぴったりだと思い込んだものが、施設に秘密裏に貯めこまれていた、その『秘密の宝石』のひとつ。
その中身が何かも知らずに、刷り込みのようにせつはそれ、を気に入った。
「これ、私にぴったりだと思う! うん……これ、私のために生まれたようなものだよ! こんなにぴったりなもの、ないでしょ!?」
「だが、もちろんその宝石は、クリスタルを秘めた44街に住まう我々のこの身体を、出来る限り濃縮、炭素として物質変換し、生まれ変わらせた姿。
人々の姿、形、存在そのものを物質、素材としての姿に変換、他者が販売取引するということがどういうことなのか、もう君たちも充分に理解しているだろう。
同時に『遺族』は、『それ』を探し続ける」
せつが買い与えられ、所有したのは、『そういうもの』だ。それを知った後も、せつは手放すことが無かった。
だって、返さなくたってみんな死んでいるから。
例え、『敵』が攻めてきても、どちらみち、『取引』の邪魔になるものは、周囲の誰かが、あるいはせつ自身が排除してきただろうけれど。
そう、未成年のときに。ある方法を使ってだ。そのときの事件は、結局無罪だった。
「純度の高いクリスタルと、その辺の宝石とかとの関連性の研究は、僕も続けているのだが……、その頃に、ちょうどあることが明らかになった。スキダを粉にしたもので、ある種の覚せい剤のような快楽が得られるらしいというものでした」
病院近くのカフェに入り、窓際の席に並んで座る。人はそこそこ居たけれど、朝方の、少しずれた時間なのでものすごく混んでいるわけでも無い。窓の外には仕事に向かう人、通学する人が見えていた。
コーヒを頼んでくれるというのでそのまま厚意に甘え、私たちはオージャンさんの更に右横に、それぞれちょこんと詰めて腰掛ける。
一番端の席のアサヒは、すぐ右横に座っているオージャンさんを見ながら、そういえば、と思い出したようにつぶやいた。
「そういえば、確かそんな感じに信者たちが育てたスキダで『脱法ハーブ』を栽培して組織ぐるみで資金を稼いだという噂もあるな。
ラブレターテロの時にも、中にはスキダを粉にして吸引させることが行われていた、という噂もある。まぁ、ほとんどが取り締まられたんだけど……」
「ああいうカルトは、神秘体験が好きだから。え? 僕は、今のところは平気だよ。普通に、恋愛性ショックの治療薬とかを研究しています」
「だいたい何をやるんだ?」
「最初は基本的な薬の仕分けとか、報告書の書き方を学んでたよ。冷たい先生がマウント取ってくるから辛かったけれど、弱音は吐けない。 選んだ以上は自分のものにしないとね」
運ばれてきたコーヒーと小ぶりなケーキに、気を取られながら、もう半分の意識で、アサヒたちの会話に聞き耳を立てる。
女の子も苦笑いした。
カグヤたちも、スキダを狩って売り渡していたからなぁ……
あまり深入りしない方が良いかもしれない。
「ここのグラタン、人気なんだよ。無くなる前に、取りに行こ!」
「え、待ってよ~」
若いOLが入り口付近で楽しげにはしゃぐ。
ケーキを口に運びながら、ぼんやり、考えてみる。
「……グラタン、かぁ」
「ママ、見つかるよね」
女の子が、ちょっとしょんぼりしながら呟く。
私はなるべく力強く答えた。
「きっと見つかるよ」
コーヒーを飲んでいる横で、オージャンさんとアサヒの会話が白熱する。
「ルートだが、まず、取り引きについて考えるべきかと」
「と、言いますと?」
「例えばハクナが売り渡している付きまとい素材だ──
これを継続使用する人たちは免許のような、ある程度の期間が設けてあるらしい。買い取りに移行するので、契約内容が変更になる可能性が出てくる」
「なるほど。最近だとオンライン販売が主流になるなど、各種サービスの有料化が進んでいくと思います。
料金プランも新プラン導入に移行しますから、タイミングがある人は今でしょうね。
詳細はまだはっきり言えないのが、もどかしいですが」
「今回の旅行による、やつらの、付きまとい素材が配布されない『損失』、これに躍起になってくるだろうな」
なんの話なのか、わかるような、わからないようななまま、ケーキを口に運ぶ。フワッと口のなかで溶けていくクリームが美味しい。
「せつのことも……こいつが、旅立つのを知って追いかけて来ないか心配だ。あるいは、来るかもな」
フォークの背で示されて、ん?
となる。
「──もしかして、役場で、妨害をしたのは、本当は、せつなのかな」
そういえば、せつ、はずっと私の代理をしていたんだ。
私が誰かと話したりしないように。
アサヒとオージャンがこちらを向くので、私はついでに薄々、思っていたことを呟く。
「なりすましが、露見するから、せつが指示して私を襲わせたのかもしれない」
アサヒは驚かなかった。
「だろうな。44街は、別に書類だけ突き返せばいいわけだ。
あんな風にクラスターに取り囲ませる必要性がない。せつはお前個人に執着心があった」
せつが、クラスターを操っていた……としたら、空港でまた襲撃に合う可能性もある。
私個人に、執着していて、戸籍屋と繋がりがあるかもしれなくて──
「そっか。戸籍を管理するのも、あの宝石の為──なんだよね、きっと。せつが、気に入っている石も、その管理を常に行って居るものなんだ」
「無常」
唐突にオージャンが呟く。
「とらわれるな。人を、好きになるのも、嫌いになるのも、無常──会長が生きていたら、そう、おっしゃったでしょうね」
ほとんど、研究所に居る私とは接点がなかったですけど、と彼は何かを懐かしむ。無常になれずに居るせつのことを思い出したのかもしれない。
「悲しい、子です。話は以前アサヒから電話で聞きました。同情はしないけれど」
オージャンがそこまで言ったところでせっかく届いたのでアサヒたちもひとまず、ケーキを食べたり、コーヒーを飲んだりした。
やや落ち着いてから、ルートの話が再開される。
出発時刻に合わせて、または、やつらよりやや遅れて空港に向かう。だが、田中逮捕の余波で、監査が入るのは間違いがない。
監査が辿り着く前に、出港などして亡命する、という可能性はそれなりにあるだろう。
「ふふふ……帰れ、鶏肉へ!」
アサヒが会話の途中でおもむろにキリッ、と言い放つ。
「──? ケーキは鶏肉には帰らないよ。卵は肉にすらなってないし」
「その可能性はあり得ますね」
オージャンは、頷いた。
「回収を、早めてくる。出国するとしたら、それが今のベストでしょう。予定日の日付があてになるかどうか……」
アサヒがオージャンの方に頭を近付ける。小声で話す為らしい。
「どうやって計る?」
「アッコと伝があるのは、あなたの方でしょう?」
「──ギョウザさんに、クビにされたんだぞ俺は。奴と仲が良いアッコのことなんか、余計に……いや、一人居たな。近くにアッコと繋がりがありそうな奴が。だが……神出鬼没だ」
「そうじゃない。奴等は、時間がない。おそらく近々ラブレターテロが起こるでしょう」
ラブレター、テロ……
「学校や、人が集まる施設を見張っていればおのずと情報の方からやってくるってことか」
「待って、テロを、どうして……それが、秘密の宝石と、何の関係が」
私が思わず口を挟むと、オージャンがやや寂しそうに答えた。
「思春期ごろから、スキダの発達が顕著になります。その時期に、ラブレターをばら撒くことによって、スキダを誘発しやすくさせ、外部からその純度を計測する。これが、ラブレターテロだったと、我々は見ているのです」
昔。
各地の44街の学校の下駄箱に、宛先不明のラブレターが投げ込まれる事件が相次いだ。
カルト宗教が関わっているという噂もあったが、真相は結局闇の中だった。
「純度が高いほど、質の高い宝石に生まれ変わるとされています。そして、おそらくは、そういう人ほど、拉致に合っている」
誰とも付き合おうとしない私に、アマニがかけてくれた言葉が蘇る。
「ラブレターが、そんなに、恐ろしい計画のためのもの、なんて……」
思春期は、もちろん、感受性が豊かになり、スキダが生まれやすい時期だが、同時にスキダの制御がまだ難しい年ごろでもある。
そのため、『ラブレター』の影響で狂暴化したスキダによって大けがをしたり、命の危機に面した生徒もいる深刻な事件なのだ。
事件後は何日か集会が開かれたり、集団下校になったりした。宗教勧誘の類の噂も、あちこちで出回っては居た気がする。
でもその頃はまだ、そんなに、恋愛総合化学会の実態がよく知られていなかったから、どこか、冗談みたいな、面白がられていただけだった。
「そのころから、奴らにも目をつけられていたんだ」
アサヒが淡々と零す。
「でも、私、みんなが狂暴化するだけで――スキダは発現していなかったよ。純度なんか測れなかったはず」
「わからない。でも、何かしら、あったということだろう。それから、お前も」
女の子が、平然と頷く。口いっぱいにケーキをほおばる姿がかわいらしい。
飲み込んでから彼女は答えた。
「そう、だと思う。ママも、わかんないけどずっと目を付けられてきて、それで、何かのタイミングで、攫われた」
「いかに、心身を制御できるか、ということでもありますし。ノハナさんになかなかスキダが発現しなかったのは、そもそも、周りの子よりも精神年齢が高かったのでしょうね」
「そう、なのかな……」
神様ではなく、悪魔の子として接触禁止を図っていたのも、せつが絡んでいるとすると……
「とりあえず、次の採取日は近づいているはずだ。万本屋北香がそれと関係があるのかはわからないけど」
オージャンが、少し、複雑そうに目を反らす。
誘拐されたらしい、というのは聞いたけれど、私もよく知らない話だった。
「お前たちがあの空間にいる間、彼女と会った。
それで、成り変わりやスパイ専門の組織が、44街にも潜んでいて、そのバイトに万本屋は応募したことがあるという話をしてくれた。
彼女とその話をしてすぐ、黒塗りの車がやってきた」
最初から、スパイとすり替え目的の募集までしていて……万本屋のように、その成り変わる代役予定の者には、悪魔の子だとかの情報を事前に渡して、見た目だけでなく、ある程度演技力を学ばせているくらいだから、結構な力を入れているようだ。
「成り変わりのあと、邪魔になる本人を抹殺すれば口封じになる……だから、誘拐とクロに関係があり、それを、知られたくないからというのが、一番ありそうな線だと思う。……ただでさえ、万本屋は裏切り者だ」
「じゃあ、それは保留ということにして、他に、誰に目を付けているかですね」
オージャンが言い、私はコーヒーを飲み干して呟く。
「口封じで行けば、私も危ないんだけど、利用価値からすると、そう易々とは殺さないと思う」
ケーキを食べ終えた女の子が、不安そうにおろおろする。私はそっと手を握った。
彼女が狙われる可能性もある。だが、一度に一家を滅ぼすような真似をするのだろうか。
スキダは個人差はあるが、大体思春期くらいに一番大きな結晶になる。彼女はまだ育成中というのも考えられる。
オージャンが唐突に頭を抱えてうつむいた。
アサヒが大丈夫かと尋ねると、少し取り乱しながらも、苦笑した。
「過去の、ラブレターテロ……、殺すとか、テロとか聞くと、どうしても、思い出してしまって……。
その時に、薬でも、被験者が副作用で亡くなっていまして、ね。
劣悪な管理と間違った製法を、通してしまった。僕たちの、罪です」
「殺人事件って、聞いたが……」
アサヒが口を挟む。
「えぇ、恋愛性ショックの治療薬の、副作用で、スキダを抑制するはずが、覚せい剤のようなものに、なってしまった結果、暴力的な衝動が抑えきれなくなり」
当時は恋愛に本当は感情以前に対外的な認識能力が必要ではないかという議題で、異常性癖と並べて議論されていた。
しかしぱったりと議論が止んで、会がのさばるようになった。
恋愛は感情や相手の存在を認識して把握してイメージを作り、そこから好嫌の判断もしている。
普通は正常にそれがこなされるんだけど、恋愛性ショックがある人は、
恋愛のことを考えようとると好嫌を判断する部分に伝達物質が過剰分泌されて、呼吸困難になったり、気を失しなったり、
「闘争本能が刺激されて、近所の女性を殺しています。部位が近いですからね。裁判が長く続きました。脳の伝達ミスなのか、責任能力の問題なのか」
伝達のなんらかの変化によるものか、殺意によるものかは、今でも議論が続き、答えの明確には定まらない議題のひとつである。
現時点では、加害者の生育環境や動機が罪悪の度合いの判断に重要になってくる。
「結局、どうなったんだ」
アサヒが呟くと、オージャンは結局、普通に殺人事件とされた、と答えた。
上層部は薬には触れないようにしたらしい。
かつて、町でとあるカルト宗教が起こした殺人事件のときにも、洗脳されていた、と答えた加害者が居たが、結果的には死刑となっている。
「ラブレターテロや、何かのイベントのたびに、恋愛性ショックの人は今もたまに見つかるんです。
今回も、不安だな。この症状は、スキダの純度と関係しているとも言われていますからね」
そういえば、グラタンさんもそうだった。テロに合う側はたまったものではないのだ。
恋愛性ショックは、今でも懐疑的な意見が聞かれる症状。
だけど、確かにそれに苦悩する人たちは存在している。
学会にとって、都合のよくない存在のひとつなので手荒な真似を使ってでも、回収を進めるだろう。
「ズバリ!私は、彼女らをアゲーないと、これからの変わらない日常は無い」
部屋に戻り、夕飯のチヂミを作りながら、せつは一人考える。
悪魔の子の嘘が露見してしまったことで、学会を始め、あちこちが今騒ぎになっている。
うまくいくと思っていた。
けど、甘かった。
一番の悪因は、自分が人を信じられない人間性だったから。
お金だけが信じられた。
わかってる。彼女に非はなかった。
(こんな偏見的かつ私欲にまみれた猜疑心。結局無駄骨で、必要なかったな)
彼女を証明する人が居なくなるようにと、ずっと関係者を殺してきたけど、それも、とうとう終わりになってきたし。
あんな放送が流れてしまえば、単に隠蔽するのも難しくなってきた。
学会からの勧めもありいろんな人を雇って彼女の声真似をさせたけれど、あんまり効果は出ていない。
後ろに置いてあるテーブルには、ヨウからの「駄目だった。あの力は奪うことが出来ない」というメールが来ているのが見える。
――なんだ、彼でも駄目だったか。
地位を、どうにかして、地位を取り戻さなくては。
相手に責任を擦り付け、陥れて消す。
だからわたしは、正義!わたしこそ英雄。そうやって生きてきた。
本気をだしていいならそのまま挑んで来たらいい。
けれど、そろそろ、本気で邪魔だから、どいてもらいたかった。
せつの邪魔の仕方は、少し肩があたりましたぐらいの軽いヤツではなく、何年以上もの時間を奪う。
罪のない人、一般庶民も何人も殺してきている。今回も、そのつもりでいた。
でも、作戦1,2,と失敗。恋愛条例を利用するのも、ヨウを後押しするのも失敗に終わった。
「この前も言った、あの高~~~い地位を使って私をアゲーできるシステム………実は、まだ、他にもある」
あの日。
私が警戒し、過剰反応し、暴走した一番の理由。
それは、あとから、迫害が荒立てられたらヤバイ!ということ。
だから、自分では表に出ずに、役場に奇襲を仕掛けさせた。
彼女の本当の地位が必要だった。
カルト宗教家の娘である私は、普段からそのような扱いをされることが多く、バイトをしても身分をごまかさないとクビになったことも多い。
北に住む親戚からの資金と、学会の援助でどうにか生きていけているけれど、本格的に自活するには何かもう一押しの力が必要。
(でも、結局うまく成り済ますことが出来なかったな……)
消しきれず、どころか事態が悪化してしまうだけ。
――あの日、ヘリが墜落しなければ、彼女が心変わりを起こさなければ。
いや、もとを辿ると、学会の政策、自分たちの迫害そのものが、ツケとなったのか。
今回の迫害の件。せつの生き死にのターニングポイントは、この場面。
《彼女》だ!と、気づいた時に、きちんと対処してさえいれば、私も彼女も被害最小限で、問題は小さなうちに解決していただろう。
監視やら、悪口やら、嫌がらせ行為、これ1つでも止めて!もう、これからやりません!すいませんでした!!!と………ここでスッキリ!迫害行為から足を洗うようにしていれば……
けれど、これは出来なかっただろう。
これだけ念入りに、彼女を調べ上げ、欲望が膨れ上がるままに周囲を殺してきた自分が、そんな小さなことで、止まったとは思えない。
悪事は癖になる。一度その境界を踏み越えてしまうと、あとはずるずると深みにはまってしまう。
出来あがったチヂミを皿に寄せながら、せつは何か策がないかと考える。
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「乱発に、飛ばし過ぎよねぇ……あの頃とは違うんだから………もっと、規則性を持たせないとねぇ~」
ハクナによる、民の不当な監視の疑いは、まだ晴れていない。
ハクナ部隊でも辞退者が続出し、自分に火の粉が降りかかる前に逃げ出すものもいた。
けれど、脱北者や、生活が困窮しているものなど、個々の事情で残ったものも少なくない。
北国は、勝手に国を出るものに容赦をしない国として有名だったので、北に戻れば殺されてしまう。
彼らを受け入れてもいるのがこういった学会の部隊だった。
「プラス条件を自然に合わせないとならないだろう。今月後半から気温は戻る、寒くなる予報だろうし」
ヘリの点検をしながら、パイロットたちは観察屋の観察業務について、身近な同僚と話し合う。
「川の増水関連はどうだろう。冬だから、あまり関係付けられないか?」
気温が戻る、と人の流れはどうなるのか?……減少の傾向を辿るのか?変わらないか??
怪物出現の予防に役立つアプローチ…この方向性が、環境的に自然なんじゃないか……
めでたく飛行理由が合格し、監視をやってない!と証明できたなら、彼女の精神病ということに今からでもできないだろうか。
「特別機を何回も飛ばしたでしょう?燃費計算した人によるとあれスゲースゲースゲー問題になってるみたいだよ。なんだか、調査したら迫害時にいつもの6倍燃料使ってたとかで」
「えっ、そうなの。そんなにあの家を観察するのに使っているのか。これは、逮捕を免れないぞ」
一人なら、なんとかなったかもしれないが、前例があった。
一人だけじゃない、というのが、既に逮捕を期待する声があがる理由だった。
過去にも、女性が自殺している。
「俺の職場はなくなるが……社会的地位を亡くすより、今からここを抜ける方法を練るべきかもしれない」
「俺もそろそろ限界。だけど、北には戻りたくないよ。命からがら逃げてきて、娘と嫁さんがいるんだ」
「北の国は、そんなにつらいのか?」
「うーん、合う人には合うんだろう、でも、こうやって何気なく集まって、気軽に酒を飲んだり、ネットを見たりできない。王様の許可がない娯楽はいけないんだ。だから、この幸せを知ってしまった俺は、北に戻れない」
様々な事情でハクナに入った人が居る。
悩むもの。
「やめたとして、次、どうしようかなぁ」
「どうせ、厳しかったからな。悪天候フライトは命懸けだし」
どうにか縋り付こうと策を立てるもの。
「いいコト教えてあげるだよー。飛びモンも今日だけ!!の予定にするから不自然が際立つ!
何日間かの調査やら、テスト飛行、やらセットにすれば??自然なんじゃない?」
「セットでアップすれば怪しまれないんじゃない?
……放送だって偶然で片付けられる……あとは腕次第!」
逮捕を前に、時をまつもの。
「そろそろ逮捕だな。上役すべてを敵にまわしたから、より重い罪状で逮捕状が手配されたはずだ。
隔離は避けられないだろう」
「罪をハクナにかぶせてくるとは思わなかった」
「部下も使い捨てだし」
いきなり、保身のためだけに信心深くなるもの。
「今からでも、改心する、償う、なら…何かしら、のご加護、ご慈悲、に触れさせていただく……許し、を得る道は、あるかと思う……空より大きいご加護!…海より深いご慈悲!をお持ちの神様だもん……救いの道は、用意してくださるでしょう」



