「迫害をやってきた部下を主犯として処罰を謳い、自分は無罪アピールしている。それならば、被害者宅は無事!何もない!一番平穏な場所にならないと不自然じゃないでしょうか?」
しばらくの世論はハクナに対する批判ばかりになっていたのだが、あの火災の最中、火災による被害の少なかった市長舎付近で中継された放送により、ヨウ、そして、学会長の、迫害や火災、爆撃への関与に疑惑が生まれた。
あの急な火災は学会への疑惑関与から視線を反らし、すべての責任をハクナに押し付けるべく行われたのではないか。
大本にあるのはそもそも学会だった。
田中市長が話したことによると、不当な出国制限や生活での迫害を通す建前としての書類を通す手続きを会長を通じて頼まれていた、という話だ。これは、謎の放送によって椅子さんのことを語った少女との関連性も疑われるのに時間がかからなかった。
そして、その放送からややあって、あちこちの家が燃えた。
あまりにタイミングが良すぎる。
朝のニュースでも、学会のシンボルマークの緑のTシャツを着た男がインタビューに溌溂と答える。
「いやぁ、我々としても、残念っすね」
背後に映るビルは、ほとんど炭になっていた。
「俺、しばらく無職になりましたもん……」
はははは、と乾いた笑いを浮かべる彼はそこそこ熱心な信者らしい。
画面が切り替わり、家が燃えたという女性が、墓前に手を合わせる映像が映る。
「ああいう人たちってなんで、いきなり燃やすんですか? 他に、他に無かったんでしょうか。本当に、迫害している人から目を反らすために行ったとしたら、なんで、そんなことで……」
どうにか情報をごまかせば迫害されて悔しかった、という犯人の人物像を描けたかもしれない。
だが、こうも露骨に、大量にとなると、とてもただの素人の気まぐれな犯行ではないことは明白である。
思い切りの良さ、破壊の手段によっては、ある意味、その場所に何も未練や愛着が無いということにも捉えられる。
子どもじみた迫害を続けて行きたいがために、ためらわずに他の場所でも被害を出していること以上に、学会が疑われないことが大事なのだとしたら、それはもうテロ行為だ。そしてそのテロ活動は、かつてもある組織の関与で行われた――
ネットでは、会長が怪しいという声が溢れていたが、田中市長の暴露で更に火が付いた状態となった。
エキストラにも、学会の関係者がいかにもな一般人のように映っていること、国籍が不明なことなどに飛び火もしており、いまや迫害を誤魔化すために起こしてきたあらゆる手段が仇となり、この学会自体を潰そうという運動まで始まろうとしている。
届いた『聞き取りメール』に不快感からのため息をつきながらも、会長は仕事部屋の椅子から立ち上がった。
どちらみち奉仕活動は行われる。
もしも自分が捕まった場合は、誰かに頼まなくては……
そう思っていた時、目の前のテレビに映るニュースに『田中市長、不正献金等の容疑で逮捕』の文字が表示された。
「市……長?」
速報。田中市長逮捕。
「し、市長が! 田中さん逮捕おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
さぁっと血の気が引いていく。会長は案外学会や自分の身以外にそこにまで興味がないため、それによる芋づるにまで細かく手が回っていたわけではない。慌ててネットのニュース速報を見ると、『会長との繋がり疑惑が浮上』とある。最近ちょっと多くなったなと思っていた聞き取りメールどころではない差し迫る危機にようやく気が付いた。
だけど、まずは、落ち着こう。
「待って、待って私、知ってるでしょう?上層部がどんな不正をしているか。上役の選挙不正行為……漏れてます!このままでは、国中に噂が広まりますよって揺さぶってみるのは?上役は、自分の粗隠しに必死になるから!!!……監視に隙、出るんじゃない? 」
幸い、ここの上役達は今までの対応を見ている限りでは、何か1つ立て込むと必ず抜けが出る癖がある。
ギョウザさんたちだってそうだ。彼らの支援に感謝はあるものの、何かあれば尻尾を切られるのはこちらだろう。だが、付け入る隙さえ作ってしまえばいいのではないか。まわりは犠牲にしても、自分だけ、は助かりたい心理が異常に、強く出る人達は、どうせ悪事に手を付けてる可能性が高い。このピンチ、逆に考えると他に犠牲が出ても構わない自分は絶対助かりたいというこの、犯罪心理を利用しない手はないんじゃないか。自分の出世、保身にかけるエネルギーも異常なはず。
実際に上層部の対応スピードはかなり違う。
迫害を支援したハクナたちだけが悪いんであって自分たちには関係ない、処罰発表はまだ出すなと他人事でやっていた時とえらい差だ。
学会が倒産すれば、加害者、迫害共犯になるだけじゃなく殺人共犯で実刑となるかもしれない今、あまりに素早く聞き取りのメールが回ってきた。
発表に使えるツールはすべて使い切るぐらいの大きな影響力がなくては世界、民意から理解をいただく起死回生の道は遠い。
「銀行勤め経験者でしょう?………計算は得意分野になるんじゃない? そうよ、頑張って会長。フレーーッ!」
ニュースに、墓前に手を合わせる人たちが映る。
ドキン、と会長の心に刃が刺さった。
「もし、会長が、殺人犯になれば……国民は100%会長を敵視する……学会のまわりで、事故にあう人がでたり、亡くなったりすれば……上役はあなたを必ず!疑う。わたしの意思決定は、わたしにでしかできない…いくら周りが警告しても、自分が止める決断をしないと、誰も会長のコトを守れないからね」
弱り目に祟り目が加速。犠牲者に謝罪しない。もっと怨みを買う。祟り目倍速の悪循環。
『君の命日の日にちが鮮明になっている。 本当に利益がでてたのか?事実の有無を調査されているぞ』
端末をデスクに放り、会長は深呼吸した。
「モンスターばばあ本当の顔は、天使ちゃんなの。や・さ・し・い・のっ! ねっ、良い情報集めはした? 裁判では、良い経歴はプラスのポイントに繋がるよ」
フタがはずれ、あとから噴出してくるだろう余罪。中でも一番やばいのは、学会の代表が、救済の裏で行ってきた迫害行為だ。
こうなると、今からでも、上司と、口裏合わせといたほうがいいんじゃないか。
例えば、この情報は、私の元上司から聞いたモンですというのを証明できれば私と元上司は、面識はあるとなり、知っててもおかしくない。
「どーでしょこのネタ!!!…………情報元を明確にしちゃえば監視してません!の証拠になりません?」
殺人をやってない、を訴えるにはやっぱり、《監視行為はやっていない》、というのを証明できないと、身の潔白は、手にできないだろう。
「さ!す!が!に!殺人の計画があった、そんな事実!……あったら…………誰も、あなたをかばいませんよ~~~~!」
とはいえ、昨日なんか、あの大樹を伐採した際の震災時の6倍はヘリを飛ばしていた。
100%の確率で、あの子をつけ回してると思われているはずだ。既に彼女の書類が処理されなかったのは、勘違いによる偶然の事故として、迫害もその勘違いでテロか何かを疑われたことにして……とはならないかもしれない。
「うわーん、田中さぁん。こぇええええ~~~よぉおお~~~~~~! チビっちゃうよ」
信者たちに口利きには金銭のやり取りがなかった、純粋にわたくし達部下を想って、苦言をしてくれた、迫害行為とは、全く違う!善意からしていただいた行為なのですと、コメントを拡散してもらうのも大事では?
私の元上司だけの意見より……他に『会長は部下想い』なんて意見はあったほうが、信憑性は高まるかもしれない。
会長は走馬灯のごとく思考を走らせる。
「吐かせる、も……手では?」
どこまでも自分に甘い会長である。
「田中さんたちと金銭のやり取りがなかった!を証明できれば? 『部下を想ってやったコト』とできる。必然的に、上層部からの、責任追求は、私の元上司へ移行。あなたは、《無罪放免》を獲得できるでしょう!!!!! イッエエエエエエーーーーーーーーイ!!」
どこまでもポジティブ陽キャの会長である。



