「ズバリ!私は、彼女らをアゲーないと、これからの変わらない日常は無い」


 部屋に戻り、夕飯のチヂミを作りながら、せつは一人考える。
悪魔の子の嘘が露見してしまったことで、学会を始め、あちこちが今騒ぎになっている。
うまくいくと思っていた。
けど、甘かった。
一番の悪因は、自分が人を信じられない人間性だったから。

お金だけが信じられた。
 わかってる。彼女に非はなかった。
(こんな偏見的かつ私欲にまみれた猜疑心。結局無駄骨で、必要なかったな)
彼女を証明する人が居なくなるようにと、ずっと関係者を殺してきたけど、それも、とうとう終わりになってきたし。
あんな放送が流れてしまえば、単に隠蔽するのも難しくなってきた。
学会からの勧めもありいろんな人を雇って彼女の声真似をさせたけれど、あんまり効果は出ていない。

 後ろに置いてあるテーブルには、ヨウからの「駄目だった。あの力は奪うことが出来ない」というメールが来ているのが見える。
――なんだ、彼でも駄目だったか。
地位を、どうにかして、地位を取り戻さなくては。

相手に責任を擦り付け、陥れて消す。
だからわたしは、正義!わたしこそ英雄。そうやって生きてきた。
 本気をだしていいならそのまま挑んで来たらいい。
けれど、そろそろ、本気で邪魔だから、どいてもらいたかった。
せつの邪魔の仕方は、少し肩があたりましたぐらいの軽いヤツではなく、何年以上もの時間を奪う。
罪のない人、一般庶民も何人も殺してきている。
今回も、そのつもりでいた。

でも、作戦1,2,と失敗。恋愛条例を利用するのも、ヨウを後押しするのも失敗に終わった。

「この前も言った、あの高~~~い地位を使って私をアゲーできるシステム………実は、まだ、他にもある」

 あの日。
私が警戒し、過剰反応し、暴走した一番の理由。
それは、あとから、迫害が荒立てられたらヤバイ!ということ。
だから、自分では表に出ずに、役場に奇襲を仕掛けさせた。
彼女の本当の地位が必要だった。
 カルト宗教家の娘である私は、普段からそのような扱いをされることが多く、バイトをしても身分をごまかさないとクビになったことも多い。
北に住む親戚からの資金と、学会の援助でどうにか生きていけているけれど、本格的に自活するには何かもう一押しの力が必要。
(でも、結局うまく成り済ますことが出来なかったな……)
消しきれず、どころか事態が悪化してしまうだけ。
 ――あの日、ヘリが墜落しなければ、彼女が心変わりを起こさなければ。
いや、もとを辿ると、学会の政策、自分たちの迫害そのものが、ツケとなったのか。


 今回の迫害の件。
せつの生き死にのターニングポイントは、この場面。
《彼女》だ!と、気づいた時に、きちんと対処してさえいれば、私も彼女も被害最小限で、問題は小さなうちに解決していただろう。
監視やら、悪口やら、嫌がらせ行為、これ1つでも止めて!もう、これからやりません!すいませんでした!!!と………ここでスッキリ!迫害行為から足を洗うようにしていれば……
 けれど、これは出来なかっただろう。
これだけ念入りに、彼女を調べ上げ、欲望が膨れ上がるままに周囲を殺してきた自分が、そんな小さなことで、止まったとは思えない。
悪事は癖になる。一度その境界を踏み越えてしまうと、あとはずるずると深みにはまってしまう。
出来あがったチヂミを皿に寄せながら、せつは何か策がないかと考える。




「乱発に、飛ばし過ぎよねぇ……あの頃とは違うんだから………もっと、規則性を持たせないとねぇ~」
ハクナによる、民の不当な監視の疑いは、まだ晴れていない。
ハクナ部隊でも辞退者が続出し、自分に火の粉が降りかかる前に逃げ出すものもいた。
けれど、脱北者や、生活が困窮しているものなど、個々の事情で残ったものも少なくない。
北国は、勝手に国を出るものに容赦をしない国として有名だったので、北に戻れば殺されてしまう。
彼らを受け入れてもいるのがこういった学会の部隊だった。

「プラス条件を自然に合わせないとならないだろう。今月後半から気温は戻る、寒くなる予報だろうし」
 ヘリの点検をしながら、パイロットたちは観察屋の観察業務について、身近な同僚と話し合う。
「川の増水関連はどうだろう。冬だから、あまり関係付けられないか?」
気温が戻る、と人の流れはどうなるのか?……減少の傾向を辿るのか?変わらないか??
怪物出現の予防に役立つアプローチ…この方向性が、環境的に自然なんじゃないか……

 めでたく飛行理由が合格し、監視をやってない!と証明できたなら、彼女の精神病ということに今からでもできないだろうか。










「特別機を何回も飛ばしたでしょう?燃費計算した人によるとあれスゲースゲースゲー問題になってるみたいだよ。なんだか、調査したら迫害時にいつもの6倍燃料使ってたとかで」
「えっ、そうなの。そんなにあの家を観察するのに使っているのか。これは、逮捕を免れないぞ」
一人なら、なんとかなったかもしれないが、前例があった。
一人だけじゃない、というのが、既に逮捕を期待する声があがる理由だった。
過去にも、女性が自殺している。
「俺の職場はなくなるが……社会的地位を亡くすより、今からここを抜ける方法を練るべきかもしれない」
「俺もそろそろ限界。だけど、北には戻りたくないよ。命からがら逃げてきて、娘と嫁さんがいるんだ」
「北の国は、そんなにつらいのか?」
「うーん、合う人には合うんだろう、でも、こうやって何気なく集まって、気軽に酒を飲んだり、ネットを見たりできない。王様の許可がない娯楽はいけないんだ。だから、この幸せを知ってしまった俺は、北に戻れない」


様々な事情でハクナに入った人が居る。
悩むもの。

「やめたとして、次、どうしようかなぁ」

「どうせ、厳しかったからな。悪天候フライトは命懸けだし」



どうにか縋り付こうと策を立てるもの。

「いいコト教えてあげるだよー。飛びモンも今日だけ!!の予定にするから不自然が際立つ!
何日間かの調査やら、テスト飛行、やらセットにすれば??自然なんじゃない?」


「セットでアップすれば怪しまれないんじゃない?
……放送だって偶然で片付けられる……あとは腕次第!」


逮捕を前に、時をまつもの。

「そろそろ逮捕だな。上役すべてを敵にまわしたから、より重い罪状で逮捕状が手配されたはずだ。
隔離は避けられないだろう」
「罪をハクナにかぶせてくるとは思わなかった」
「部下も使い捨てだし」


いきなり、保身のためだけに信心深くなるもの。

「今からでも、改心する、償う、なら…何かしら、のご加護、ご慈悲、に触れさせていただく……許し、を得る道は、あるかと思う……空より大きいご加護!…海より深いご慈悲!をお持ちの神様だもん……救いの道は、用意してくださるでしょう」