7.いいとこ取りはダメ!婚約者は返して貰うんだから!!
恋愛をしないと処刑なんて誰が決めたの!?
威嚇のためだろう。
観察さん、のヘリコプターは真っ先にこちらを攻撃はせずに近くのスーパーの駐車場に二、三、発の何かが打ち落とされた。轟音。
一瞬何が起きたか誰にもわからなかった。
伏せていた体を起こすと、目の前では煙が上がり、激しく燃え盛る。
ぱちぱちと火の粉が跳ねて躍りながら屋根やアスファルトにそれが舞っている辺りの様はどこか危なげながらも儚い危険な美しさを供えていた。火だ。火が、燃えている。目の前で、火事だ……
あとで観察屋の本部に連絡を取らなくては。
あ、そうだ!そうだ!
大丈夫か?
慌ててスキダに捕まる少女のもとに駆け寄ると少女は目を回していたが、一応生きているようだった。スキダは少し負傷しているらしい触手はわずかに破片が刺さっていた。
そういえばやけに静かだと気付き、振りかえると、ギャラリーはほとんど居なくなっている。さわぎで逃げたのだろう。
少女に腕を伸ばし、スキダの触手にさわる。ビイイインと鋭い音がした気がしたときには腕は痺れながら弾かれていた。
「いってぇ!」
「さき、にげて…………」
背中越しに、未だに燃える駐車場が見える。
ヘリコプターは旋回しながらこちらへと戻ってきた。
彼女はもう一度、にげてと言った。俺だって腕に蚯蚓脹れが出来て痛いがそれどころではない。
──まったく。椅子と付き合うためだけで、どうしてこんな目にあっているのだろう。
スライムがぽよんぽよん跳ねながら、慌てた。
「だって、でも、諦めたくない!」
触手は、意思に反応してさらに強く彼女を締め付ける。
「嫌だ、だって、スライムが先に好きになったんだよ。そんなのって、ないよ……どうして椅子なのだったらスライムでもいいはず!諦められない、嫌なら決闘して、スキダのなかのひとと戦えば、スキダは無くなる。なかのひと同士が決闘に突き合えば、恋愛はしなくていい!」
彼女は悩ましげだった。
「スキダを出せたことも、告白も無い。それにスキダはただのクリスタルだと聞いていた。それなのに……これが、スライムの力なの」
彼女が腕が動かせない中、後ろでは消火活動が始まった。
少女の目に涙が伝う。
「私、スライムのこと、そんなふうには見られない……ごめん
なさい」
スライムは発狂した。
「カエシテエエエエエ!カエシテエエエエエン!カエシテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!カエシテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!」
けど、戦うって、いったって……スライムの力を得たスキダとどうやって。
ザシュッ!!
頬に風を感じた。なにかが風を切る音がした。
一瞬、肝が冷えた。
「……な、なん……」
いま、何か。まさか
────内心冷や汗をかきながら目の前をもう一度確認。
椅子が地面に着地し、牽制するようにスライムと少女の間に佇んでいた。
「椅子さん!!!」
椅子は、目がどこかわからないがスライムをじっと見据えている気がする。
「椅子さん、来てくれたんだ…… 」
スライムは叫んだ。
スキダが彼女のもう片方の腕に向かう。
「え? 椅子さん、いいの?」
椅子が彼女に何か話したらしい。彼女は黙って恋人を抱えあげた。
スキダの触手が椅子に絡むと同時に、彼女の身体も光った。
「私、椅子と付き合うんだからっ!!!」
椅子が金色に輝いて硬くなる。
彼女は腕を振り下ろした。
ザシュッ!!
彼女の片方の腕にしがみついているスキダは、破片が刺さっているのもあり、より痛みを感じたらしい。グアアア、と魚の口から低く唸ると少し触手を緩める。そこに腰を捻ってもう一度椅子を振り下ろした。
「いや!いや! 人間や周りと付き合うなんて、習わなかった! 習わなかったの!! 自分で好きになったのはこの椅子だけなんだから……!!」
顎から汗が伝う。スライムは、諦める気はないらしい。
俺は上を見張っていた。まだ観察屋は観察している様子だ。
「離して、嫌あ! 私っ、やっと椅子さんと知り合えたんだから!」
「対物性愛は認められない!!!!皆を見ただろう? 話したが最後、引いて、人間をすすめてくるか、叩いて嘲笑うしかないんだ!!! あれが、皆の、この町の総意なのさ!!賭けてもいい!!
ネットワーク上で、物と恋愛や結婚した人は実質皆から、笑われているんだよ。見ものとして、ギャグとして消費される話題でしかない。ほとんどがにわか。ほとんどが本気じゃなく、単なる目立ちたがりしか居ないのさ!みんな普通のやつらだ。みんな、君みたいなのはもう何処にもいない!試してみるといいよ、例えば対物性愛の本を書いてネットにアップしてみればいい、きっと顰蹙を買うはずさ」
「周りなんて、関係ない!」
彼女は強く言い放った。
さっきまで、不安そうにぐるぐる回っていた瞳は、いつの間にかキラキラと輝いている。
「私は、どんなに笑われても、どんなにバカにされても、椅子のこと嫌いにならない」
放置されて強くなると放置されてきた彼女が唯一、遠ざけれずに関われたのが物や人外だった。悔しいが思い入れは、どんな人間より彼らの方が上だ。
ずっと会話をし、ずっと関係を築いてきたところに割って入ることはきっと出来ない。
(ん? いま、悔しいって……)
彼女の身体はそのまま浮き上がった。そして椅子を構えると、魚の頭に振り下ろす。魚はギャアアアアと大きな声を上げて彼女を睨んだ。頭にわずかに亀裂が入る。
(スキダが、椅子と融合しているのか……)
一旦着地した彼女を目掛けて、今度は魚の図体が降りかかる。恋愛至上主義が産み出した化け物……
「スキダ! スキダッ! スキダッ!」
間一髪でかわすと、椅子をもう一度振り下ろす。
スキダは勢いよく尻尾を叩きつけた。
「きゃっ!」
彼女のからだがゴロゴロ転がり、椅子が放り出される。
片腕は変色していて、多少ましになったが触手が切れないでいるぶん、扱いにくそうだった。彼女は唸りながら、椅子に手を伸ばす。
肘から血が流れる。
「血が、どきどきしてる……くるしい……」
ヘリコプターに乗った何者かが、地上を見下ろしていた。
「興味深いな。スキダはただのクリスタルだが……ときどき、不思議な現象を引き起こすらしい」
「どうしますか?」
無線相手が訪ねてくる。
「さあて…………どうだろう。強制恋愛はうちのマニフェストだからね」
その者はサングラス越しに、にやりと笑った。
「楽しくなってきたな」
恋愛をしないと処刑なんて誰が決めたの!?
威嚇のためだろう。
観察さん、のヘリコプターは真っ先にこちらを攻撃はせずに近くのスーパーの駐車場に二、三、発の何かが打ち落とされた。轟音。
一瞬何が起きたか誰にもわからなかった。
伏せていた体を起こすと、目の前では煙が上がり、激しく燃え盛る。
ぱちぱちと火の粉が跳ねて躍りながら屋根やアスファルトにそれが舞っている辺りの様はどこか危なげながらも儚い危険な美しさを供えていた。火だ。火が、燃えている。目の前で、火事だ……
あとで観察屋の本部に連絡を取らなくては。
あ、そうだ!そうだ!
大丈夫か?
慌ててスキダに捕まる少女のもとに駆け寄ると少女は目を回していたが、一応生きているようだった。スキダは少し負傷しているらしい触手はわずかに破片が刺さっていた。
そういえばやけに静かだと気付き、振りかえると、ギャラリーはほとんど居なくなっている。さわぎで逃げたのだろう。
少女に腕を伸ばし、スキダの触手にさわる。ビイイインと鋭い音がした気がしたときには腕は痺れながら弾かれていた。
「いってぇ!」
「さき、にげて…………」
背中越しに、未だに燃える駐車場が見える。
ヘリコプターは旋回しながらこちらへと戻ってきた。
彼女はもう一度、にげてと言った。俺だって腕に蚯蚓脹れが出来て痛いがそれどころではない。
──まったく。椅子と付き合うためだけで、どうしてこんな目にあっているのだろう。
スライムがぽよんぽよん跳ねながら、慌てた。
「だって、でも、諦めたくない!」
触手は、意思に反応してさらに強く彼女を締め付ける。
「嫌だ、だって、スライムが先に好きになったんだよ。そんなのって、ないよ……どうして椅子なのだったらスライムでもいいはず!諦められない、嫌なら決闘して、スキダのなかのひとと戦えば、スキダは無くなる。なかのひと同士が決闘に突き合えば、恋愛はしなくていい!」
彼女は悩ましげだった。
「スキダを出せたことも、告白も無い。それにスキダはただのクリスタルだと聞いていた。それなのに……これが、スライムの力なの」
彼女が腕が動かせない中、後ろでは消火活動が始まった。
少女の目に涙が伝う。
「私、スライムのこと、そんなふうには見られない……ごめん
なさい」
スライムは発狂した。
「カエシテエエエエエ!カエシテエエエエエン!カエシテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!カエシテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!」
けど、戦うって、いったって……スライムの力を得たスキダとどうやって。
ザシュッ!!
頬に風を感じた。なにかが風を切る音がした。
一瞬、肝が冷えた。
「……な、なん……」
いま、何か。まさか
────内心冷や汗をかきながら目の前をもう一度確認。
椅子が地面に着地し、牽制するようにスライムと少女の間に佇んでいた。
「椅子さん!!!」
椅子は、目がどこかわからないがスライムをじっと見据えている気がする。
「椅子さん、来てくれたんだ…… 」
スライムは叫んだ。
スキダが彼女のもう片方の腕に向かう。
「え? 椅子さん、いいの?」
椅子が彼女に何か話したらしい。彼女は黙って恋人を抱えあげた。
スキダの触手が椅子に絡むと同時に、彼女の身体も光った。
「私、椅子と付き合うんだからっ!!!」
椅子が金色に輝いて硬くなる。
彼女は腕を振り下ろした。
ザシュッ!!
彼女の片方の腕にしがみついているスキダは、破片が刺さっているのもあり、より痛みを感じたらしい。グアアア、と魚の口から低く唸ると少し触手を緩める。そこに腰を捻ってもう一度椅子を振り下ろした。
「いや!いや! 人間や周りと付き合うなんて、習わなかった! 習わなかったの!! 自分で好きになったのはこの椅子だけなんだから……!!」
顎から汗が伝う。スライムは、諦める気はないらしい。
俺は上を見張っていた。まだ観察屋は観察している様子だ。
「離して、嫌あ! 私っ、やっと椅子さんと知り合えたんだから!」
「対物性愛は認められない!!!!皆を見ただろう? 話したが最後、引いて、人間をすすめてくるか、叩いて嘲笑うしかないんだ!!! あれが、皆の、この町の総意なのさ!!賭けてもいい!!
ネットワーク上で、物と恋愛や結婚した人は実質皆から、笑われているんだよ。見ものとして、ギャグとして消費される話題でしかない。ほとんどがにわか。ほとんどが本気じゃなく、単なる目立ちたがりしか居ないのさ!みんな普通のやつらだ。みんな、君みたいなのはもう何処にもいない!試してみるといいよ、例えば対物性愛の本を書いてネットにアップしてみればいい、きっと顰蹙を買うはずさ」
「周りなんて、関係ない!」
彼女は強く言い放った。
さっきまで、不安そうにぐるぐる回っていた瞳は、いつの間にかキラキラと輝いている。
「私は、どんなに笑われても、どんなにバカにされても、椅子のこと嫌いにならない」
放置されて強くなると放置されてきた彼女が唯一、遠ざけれずに関われたのが物や人外だった。悔しいが思い入れは、どんな人間より彼らの方が上だ。
ずっと会話をし、ずっと関係を築いてきたところに割って入ることはきっと出来ない。
(ん? いま、悔しいって……)
彼女の身体はそのまま浮き上がった。そして椅子を構えると、魚の頭に振り下ろす。魚はギャアアアアと大きな声を上げて彼女を睨んだ。頭にわずかに亀裂が入る。
(スキダが、椅子と融合しているのか……)
一旦着地した彼女を目掛けて、今度は魚の図体が降りかかる。恋愛至上主義が産み出した化け物……
「スキダ! スキダッ! スキダッ!」
間一髪でかわすと、椅子をもう一度振り下ろす。
スキダは勢いよく尻尾を叩きつけた。
「きゃっ!」
彼女のからだがゴロゴロ転がり、椅子が放り出される。
片腕は変色していて、多少ましになったが触手が切れないでいるぶん、扱いにくそうだった。彼女は唸りながら、椅子に手を伸ばす。
肘から血が流れる。
「血が、どきどきしてる……くるしい……」
ヘリコプターに乗った何者かが、地上を見下ろしていた。
「興味深いな。スキダはただのクリスタルだが……ときどき、不思議な現象を引き起こすらしい」
「どうしますか?」
無線相手が訪ねてくる。
「さあて…………どうだろう。強制恋愛はうちのマニフェストだからね」
その者はサングラス越しに、にやりと笑った。
「楽しくなってきたな」



