椅子こん!

「呪い道具が見つかれば?殺人容疑で立件されちまうぞ!……尻尾切りコメントを模索している人にとっては、殺人容疑は、うってつけのネタになるからにゃ。こんなにキチっと白黒を線引きできるネタはない」

 ギョウザさんが、各局に指示を出す。
その連絡の一部は、学会長や支部へも回ってきていた。
 迫害の隠ぺい疑惑払拭の訴えが成功すれば、すべて白に持っていけるかもしれない。

 この期に及んでも上層部は必死だった。
学会をよく思わない団体からは失態、迫害容疑、経歴詐称疑惑を、逐一問題提起されている。
囲まれているなかで、唯一の光となるのが迫害の否定だ。

「まずは迫害の訴えを受けて、初期段階のものから調査し、私の元上司・主犯へ注意、指導の対処をしています、隠ぺいなどしていません!を訴えましょう!」

「急げ、まだ、呪い道具をすべて処分していないはずだ!」
幹部が集う一室では人が、四方八方飛んで走ってと忙しく回っている。抜き打ち調査が開始されるかもしれない、という想定で今学会の建物内部は宿舎を含め、どこも慌ただしかった。
次の奉仕活動の準備もあるのに……

 会長室では、会長が悩ましげに外を眺めていた。
「私を、会長へ推薦したパパ。
私を代表へ推薦した上役……この人達は、迫害の訴えを受けて私に話をしにくるでしょうか。
主犯は誰か、判明したのではないの?

「──ですが、会長、指示を出してましたよね? 飛ばしをやったり」

広報が会長の判を貰おうと、部屋に入りながら言う。会長は顔を真っ赤にした。

「いつから!」

「先ほどから居ましたけれど……」

 会長らの、暴走。
それは人間同士以外の書類の受け取り拒否、異常者への調査、接触禁止令継続などに使われている。やがては今話題の迫害ともからめられるだろう。 
 暴走に関しては、推薦者や上層部の責任ではない。暴走に主犯がある。
──とは言っても、彼女は許されると考えている。

あの日、「未成年だから仕方がない」と罪を見逃して貰えたように。

「書類ね、なんのかしら」

取り繕うように机に差し出された書類
に向き合う会長。広報は笑顔で話し始めた。
「これなんですが──次期ボランティアの……」
判子を押しながら、会長は呟く。
「良いわ。ふふふ、私はこれからも人権最優先で行きますからね」


やりとりを続けながらも、会長は頭では別のことを考えていた。
これから上層部は『自分達は知らなかった』という決まり文句を振り撒いていくだろう。会長の『わたくしは主犯でない!』という意見と、重なる。
(便乗させてもらうか……?)
 上層部が共犯の疑いから一線を引くためには……早い対処をしたという話をすること、これは被害者の訴えと合致する。感情を荒立てないことで弁護をしてもらえる可能性が高くなる……か。
そのときちょうど会長に電話が入った。

「はい」

広報を下がらせ、応答する。
学会が後押し当選させた政治関係者からだった。

「しばらく君の処罰発表は出ない可能性がある……選挙期間を逆手にとって利用するしかないでしょう」

選挙期間──そういえば、そろそろそんな時期と聞いた気がする。
  もし、選挙期間中に支持率奪回に成功すれば……私は無罪放免なのではないか。
「確かに、一理ありますね」

フツウの支持率なら、上層部は、内々に謝罪し迫害の件をもみ消してくれる。あわよくば天下り……

「それでいくとして、
個人情報について私から専門知識を披露して、こんな危険性があるのでやることはあり得ない、と観察屋やハクナとの繋がりを否定する方法はどうでしょうか」
 監視をなかったコトに、したくて、したくて、しょうがない。監視=個人情報を無断に収集!となるからだ。
 個人情報には極めて厳しい職種、のトップの現場で働いている経験者が、こんな失態を晒すわけにはいかなかった。
 会長はこの頃弱っている。
当初よりも、震え、夜尿症による失禁、不眠が多くなった。老化により眠るごとに記憶を失っていくような気すらする。

 覚えていられるうちに、まだ完全に呆けていないうちに前会長に、会いたい……
今は居ない前会長のことを思うと涙が溢れる。
 彼女が前会長と居た頃は、よく一緒に寝ていた。おねしょが治らず、毎晩のように会長の床を濡らして苦笑いされた。
(おねしょを感じると優しく起こして、着替えを手伝ってくれたっけ……)



 会長を壁越しにのぞきにきたしおたちが小声で呟く。
「この《被害最小限を最優先》のやり方、ハッキリ言って!嘘の上塗り打法ですよね」
「本来なら上の上の上のおえらいさんもアウト」
「異常なまでに時間をかけすぎだ」

保身を過剰にアピールし、『本当にやってきたコトわかってんのか?』
というのは国民感情を苛立たせるだけで誠意は伝わらない。しかし、会長らはまた、それをやるつもりでいる。
「擦り付ける理由ばかり考えてるから……ツジツマが合わなくなるのよ……」

「上層部も気づくべきだな…これ以上の迫害では既に100%の潔白は訴え、ができなくなる」
ヨウの暴走も、あれからどうなっているのか、学会内部には伝わって来ずわからない。