■□■□
あのとき。
「悪魔、は……私だけのもの……私だけの、私にふさわしい! きっと誰より優秀、誰よりも素晴らしいわ……だからこそ、私が、成り代わるんだ」
『私』の野望を破壊しようとしていた、あいつらが、許せない。
「さっきから、なに叫んでるの。重い女。
平等に好意を享受すること、恋愛総合化システムの意味しているもの、それに、あなたは相応しくない」
「万本屋北香……!?」
近くに停車した車の窓から顔を覗かせた人物は、せつもよく知る親しい友人だった。過去、小さいときからよくトオイと呼んで慕い、世話をしてくれていた。
けれど──それでも。
「前からちょっと疑問に思っていたの。44街の資料を調べても、学会が元々信仰していたのは悪魔じゃない、神様だった。悪魔、なんて話が出始めたのはつい最近のこと。あなたが悪魔を呼ぶのと関係ある?」
万本屋は引き下がらなかった。
依然としてせつから目を逸らさない。
「え、ちょっとなにいってるかわかんない。いや、うちも、大変だから。悪魔が居るなら私──もういいかなって」
「スポンサー関係の番組が、悪魔を揶揄する内容ばかりなのも、あなたたちが流れてきてから、そうじゃない?」
自分を世話をしていたトオイから、そんな話が出るなんて思わなかった。
思わなかったな。
でも、だって、欲しいんだもの。
「なかなか取れないなぁ。月」
北に送られたという万本屋北香のことは
、忘れてしまうか。せつは諦めない。
「次の作戦は、対物性愛の人権団体を作るっていうのも良いな」
そしてあの故郷の人たちみたいに、新しい皮をかぶるんだ。新しい私になるんだ。
そして、貧しい生活から抜け出してみせる。悪魔もきっとそのうち、なんとか仲間に──



