スキダの呪い
──恋は、宇宙が与えた呪いなのかもしれないね。
椅子さんはゆっくりと私に語りかける。
「恋という嫌なものを、あえて引き受けてまで私をのこした……か」
どうして、恋なんてあるんだろう。
どうして、スキダなんてあるんだろう。
どうして、私なんて居るんだろう。
──繁栄は、永久に続く呪いだよ。
何年も存在するものはそうやって力を持つ。
人の身体は生命を注ぐ命の箱のように、人の想いは誰かの手に渡り、誰かを変え、ずっと続く呪いだ。
人が人を好きになる限りは、だけれど。
「だったら、もしその箱が──」
箱が。本当は、人間という器に閉じ込めて
おくべき、呪いがもしも──
誰かが、それを、その蓋を、その中身を……
足元が揺れた。思わずよろけそうになる。
ロボットの目?が、光り、こちらをセンサーで捉えている。
「──お、おはよう」
挨拶していると椅子さんが触手で私を庇うように下がらせる。
「う、わっ!」
口? から吐かれたレーザー光線が
避けたすぐあとに地面を焼いていった。ロボットさんがこちらを見て居る。
「オマエハ、オレダアアアアアア!」
自我を見失い、自分と私を混同する。
誰から見てもすでに手の施し用が無いくらいに『病状』が悪化してしまった、悲しい存在がそこには居た。
「違う! 私は、勝手に許して貰おうとなんてしない! それだけのことをしたなら、それだけのことを抱える。
あなたみたいに逃げたりしない!」
戦闘体勢。椅子さんを抱えて、構える。
「私は、悪魔なんだから」
誰も傷付かないハッピーエンドは存在しないし、なにかを悪にしないハッピーエンドは存在しない。幸せ自体がなくなってしまうから。不幸がなくなってしまうから。
ハッピーにな終演というのは、突き落とす誰かを選ぶ、犠牲の視野にすら入らない誰かを選ぶことしかあり得ない。
だから、生れたときからの罪も、これからの罪も、誰も悪くないというのなら、私が生れたこと全てを悪くして、力に変えるのだ。
「生まれて──ごめんね」
ロボットさんはよくみると背中から新たに線が飛び出していたり、コンピューターと何割か融合しているみたいだった。
背後に回ろうとすると、ファンからの排気が燃えるように熱い。
話しかけようと近付いたが、無理そうだ。
「ジャマヲ、スルナアアアアア!」
両腕が強く振り下ろされる。飛び退いて翻ると、腰を捻る反動で椅子さんを振り下した。一、二、三、と椅子さんをぶつけるが固くてびくともしない。
目からレーザーを放たれる。
熱い光が地面を焦がしていった。
「う、わぁ」
椅子さんがふわっと浮遊して角度を逸らしてくれなかったら危なかった。着地。
足元のアスファルトは、煙があがっており、黒い線の傷痕を残している。
「私が、居なきゃ良かったね……」
告白、する気にすらならない。なんだか、ただ、悲しい。
町中で戦うと、思い出す。
──椅子に心なんかあったらな、みんな、あんな態度とらないんだよ!!
スライムが、騒いでいたこと……
──物と! 人の!区別もつかないのか!!
ビームがすぐ足元の地面に跳ねる。
二回、三回、かわして、ロボットさんに近付くために、もう一度浮遊する。
避ける為に動くだけでも、心拍数があがって苦しい。
「生まれて来なきゃ、良かった、あなたが私に、持ってはいけない希望を抱くこともなかった。選んではいけない希望を観ることもなかった」
ロボットさんは、なにも答えなかった。
「いいじゃない、そんなことに、執着したって、力を求めたって、何の意味もない。
わかってよ」
「トモミ…………トモミ……」
ロボットさんが指にはめた光のわっかがこちらに放たれる。ぐにゃぐにゃ歪みながら、勢いをつけて向かって軌道が読みづらい。 どうかわすか考える間もなくビームが両目から放たれる。
「なかなか、近付け、ないな……」
右のを避けると左にかすりそうになり、バランスを崩しそうなところで光の輪が頭上に飛んでくる。
「う、わぁあ!」
一旦後ろに全力で下がって、距離を取る。
ロボットさんに近づくはずが、距離を取ったので再び遠い。
「あれじゃ、軌道が読みづらいよ。トモミ、の電源を落とせばいいのかな……」
見たところトモミと融合している。布で囲まれた範囲とはいえ、やや遠いところから様子を伺いながら、椅子さんと作戦会議。
「いい加減にしてください!」
再び近付く作戦を練っていると、突如ロボットさんの近くから知らない声が聞こえ、椅子さんと顔を見合わせる。
「なんだと!? こっちもいい加減にしてほしいんだ!」
「そっちがやったことなのに、そっちはいい加減にしないんですか」
「あぁ、そうだ、だいたいそっちが悪いん
だ!」
椅子さんが私をじっ、と見る。
「言ってない、言ってない」
「なんで私につきまとうんですか!」
「そんなの、お前が俺だからだ!」
「意味がわかりません、あなたと私は似ていない!」
「こっちこそ、似てるとか言われたら迷惑なんですけどね」
椅子さんが、じっ、と私を見る。
「言ってない、言ってない」
なんだあの言い合い。
おそらく中にいるであろう、ヨウさん一人の姿しかわからないが……
「もしかして、トモミさん? トモミさんと話しているの?」
椅子さんが、怪訝そうにする。
──ガタッ。
椅子さん曰く、恐らく、全部自分の妄想ということにしてしまえば過去に実際に私と戦いになったことまでもを自分の妄想にして誤魔化せると思っているのではないか、だった。そんな感じもする。
「えぇ、ヒキョー!」
男らしい女らしいという言葉には偏見や語弊を含む場合も多くあまり使わないのだけど、あえて言うなら見下げ果てた男だな……と他人事のように眺める。
「ちょっとぉ! 私、こっちなんですけど! なに自分の世界に逃げてんの?
言い争いすらまともに出来ないの?
ふざけないで!」
──言い争ってるうちに行こう。
椅子さんがぐいぐい、と触手で私の腕を引く。ああ、なんかムカついてくる。
「私は此処なんだけど!! あなたの頭のなかじゃなくて!」
ばっ、と振り向き目を向けたロボットさんが、両目からビームを放つのを避け、助走をつけて椅子さんを構える。
地面が、また焦げている。
生々しい煙が鼻腔をくすぐった。
「早く目を、覚まして……!」
また、ビームが放たれ、飛び上がって避け、そのうち、段々慣れてきた。
このまま、走っていけば、このまま、距離を詰めれば……
そう思ったときだった。
今度は光の輪が複数現れて、降ってくる。
「無理……!」
慌てて避けたけれどいくつか避けきれずに、こちらに向かって来たそれを椅子さんが触手を伸ばしてはね除けてくれた。
椅子さんの触手がところどころ傷付いている。
人間の皮膚だったら血が出ているだろう。
「……庇ってくれたんだ、ありがとう」
おかしい、何かが。
──なにか、違和感を覚えた。
でも咄嗟にわからない。
腕が伸びてきて、私たちを払いのけようと動く。
「ジャマヲ、スルナアアアアア!!!」
機械の巨体とはいえ、人のからだに近いと少したじろいでしまいそうだ。
光の輪が再び向かって来る前に、となんとか背後に回り込む。
触手なら私も枝が伸びるはず……
と気付いたが、私の身体でやって大丈夫なやつだろうか?
まあいいや。
「椅子さん、行くよ!」
走って、走って、途中からは椅子さんの背もたれから白く大きな羽が生え、私ごと浮いた。
見つかる前に背後から上空に。
ちょっとの間私が視界から見えなくなると、彼の『一人での戦い』が始まる。
見ている側には彼が何をしているかわからないが、彼は自分自身と向き合って、こうやって私とは話さずに一人で対立を繰り広げているのだ。
一方で、身体は無意識下にこちらに攻撃を続けてくる。ややこしい。今もぶつぶつ言っていて気持ちが悪い。
視界のセンサーは360°あるわけでは無いらしいな、と思いつつロボットさんを見下ろした。
トモミとロボットさんを繋いでいる部分から、微かに魚型のクリスタルが見える。
「あった!」
そして、スキダのに手を翳す。
学校でやってる人も居たからなんとなくわかる。
「告白! 告白! 告白!」
ポケットに入れていたナイフが手のなかで光り出す。少し折れたそれを構えて、
魚の目に向かって振り下ろした。
ドキドキと、ときめいているのがわかる。
「告白っ、告白、告白っ────!!」
なかなか、ヒビが入らない。
ふわっと足元で風が起こる。
スキダに似た小さな何か、椅子さんと同じように輝く何かがあちこちから沸きだして紙飛行機になるとロボットさんに向かっていく。
紙飛行機はやがてぴたりとその身体中に貼り付いた。逃げ回る機体の体力を少しずつ奪うのだろう。紙から触手が伸び、ロボットさんの頭に溶けていた。
「ト…………モ……ミ……トモミ……」
「目を覚まして!
もう居ない死んだ人に身内や親しい人が話しかけちゃいけない。
その世界に憧れてはいけない。本当に、あったとしても、それはいけないことなんだよ」
「トモミ…………ト、モミ……サア……早く……カエロ……」
「今は、わからないかもしれない、でも……繋いではいけない、私、あの場所を観た。私とあなたが望むはずのものがある、あの場所は──」
私の心に、土足で入り込んでまで欲しがったその記憶は、貴方のものじゃないのに。それでも、こだわって、こだわって、こだわって、許されようとして、所有しようとした。
「貴方のこと、呼んでいないのに、どうしてそこまでして──奪いたかったの?
早くそこから出てきて!」
『それしか無いから。好きと嫌いの円環からも外れた自分には、こうやって身体を張るしかないから、かなハァ』
コリゴリの言葉が脳裏に過る。彼も、その一人なんだろうか。こうやって他人から奪わないと何にもないからなのだろうか。
「間違ってるよ……」
ぽつりと呟く。すぐ目の前にロボットさんが騒いでいる。
「どうして愛してるなんて、信じてる? どうして愛してるなんて信じてる?
俺は、俺が好きなだけなのか?」
「ウワアアアアアアアアやめろ! 俺にこんな辛い気持ちを植え付けるな!! この気持ちを取ったら何もないんだ!」
このまま、彼を────
そう思ったときだった。
どくん、と胸が奇妙に高鳴った。
「ぁ──あ…………」
私……なんだか変だ。身体が、おかしい。
手が震える。
「なんで……」
身体が、動かない。怖い。痛い。
痛、い……?
「早く、早く……動かなきゃ」
上級国民にだけ特別に与えられた感情なんて、もちろん私に理解出来るわけがない。
だけど、なんでだろう。
そう、私────
「私、椅子が好きなの」
コンピューターが好きになるなんて、悪いことじゃないと思う。
もし、彼が、周りに否定されて道を違わなかったら、わかりあえたのだろうか。
「人間よりずっと」
──恋は、宇宙が与えた呪いなのかもしれないね。
椅子さんはゆっくりと私に語りかける。
「恋という嫌なものを、あえて引き受けてまで私をのこした……か」
どうして、恋なんてあるんだろう。
どうして、スキダなんてあるんだろう。
どうして、私なんて居るんだろう。
──繁栄は、永久に続く呪いだよ。
何年も存在するものはそうやって力を持つ。
人の身体は生命を注ぐ命の箱のように、人の想いは誰かの手に渡り、誰かを変え、ずっと続く呪いだ。
人が人を好きになる限りは、だけれど。
「だったら、もしその箱が──」
箱が。本当は、人間という器に閉じ込めて
おくべき、呪いがもしも──
誰かが、それを、その蓋を、その中身を……
足元が揺れた。思わずよろけそうになる。
ロボットの目?が、光り、こちらをセンサーで捉えている。
「──お、おはよう」
挨拶していると椅子さんが触手で私を庇うように下がらせる。
「う、わっ!」
口? から吐かれたレーザー光線が
避けたすぐあとに地面を焼いていった。ロボットさんがこちらを見て居る。
「オマエハ、オレダアアアアアア!」
自我を見失い、自分と私を混同する。
誰から見てもすでに手の施し用が無いくらいに『病状』が悪化してしまった、悲しい存在がそこには居た。
「違う! 私は、勝手に許して貰おうとなんてしない! それだけのことをしたなら、それだけのことを抱える。
あなたみたいに逃げたりしない!」
戦闘体勢。椅子さんを抱えて、構える。
「私は、悪魔なんだから」
誰も傷付かないハッピーエンドは存在しないし、なにかを悪にしないハッピーエンドは存在しない。幸せ自体がなくなってしまうから。不幸がなくなってしまうから。
ハッピーにな終演というのは、突き落とす誰かを選ぶ、犠牲の視野にすら入らない誰かを選ぶことしかあり得ない。
だから、生れたときからの罪も、これからの罪も、誰も悪くないというのなら、私が生れたこと全てを悪くして、力に変えるのだ。
「生まれて──ごめんね」
ロボットさんはよくみると背中から新たに線が飛び出していたり、コンピューターと何割か融合しているみたいだった。
背後に回ろうとすると、ファンからの排気が燃えるように熱い。
話しかけようと近付いたが、無理そうだ。
「ジャマヲ、スルナアアアアア!」
両腕が強く振り下ろされる。飛び退いて翻ると、腰を捻る反動で椅子さんを振り下した。一、二、三、と椅子さんをぶつけるが固くてびくともしない。
目からレーザーを放たれる。
熱い光が地面を焦がしていった。
「う、わぁ」
椅子さんがふわっと浮遊して角度を逸らしてくれなかったら危なかった。着地。
足元のアスファルトは、煙があがっており、黒い線の傷痕を残している。
「私が、居なきゃ良かったね……」
告白、する気にすらならない。なんだか、ただ、悲しい。
町中で戦うと、思い出す。
──椅子に心なんかあったらな、みんな、あんな態度とらないんだよ!!
スライムが、騒いでいたこと……
──物と! 人の!区別もつかないのか!!
ビームがすぐ足元の地面に跳ねる。
二回、三回、かわして、ロボットさんに近付くために、もう一度浮遊する。
避ける為に動くだけでも、心拍数があがって苦しい。
「生まれて来なきゃ、良かった、あなたが私に、持ってはいけない希望を抱くこともなかった。選んではいけない希望を観ることもなかった」
ロボットさんは、なにも答えなかった。
「いいじゃない、そんなことに、執着したって、力を求めたって、何の意味もない。
わかってよ」
「トモミ…………トモミ……」
ロボットさんが指にはめた光のわっかがこちらに放たれる。ぐにゃぐにゃ歪みながら、勢いをつけて向かって軌道が読みづらい。 どうかわすか考える間もなくビームが両目から放たれる。
「なかなか、近付け、ないな……」
右のを避けると左にかすりそうになり、バランスを崩しそうなところで光の輪が頭上に飛んでくる。
「う、わぁあ!」
一旦後ろに全力で下がって、距離を取る。
ロボットさんに近づくはずが、距離を取ったので再び遠い。
「あれじゃ、軌道が読みづらいよ。トモミ、の電源を落とせばいいのかな……」
見たところトモミと融合している。布で囲まれた範囲とはいえ、やや遠いところから様子を伺いながら、椅子さんと作戦会議。
「いい加減にしてください!」
再び近付く作戦を練っていると、突如ロボットさんの近くから知らない声が聞こえ、椅子さんと顔を見合わせる。
「なんだと!? こっちもいい加減にしてほしいんだ!」
「そっちがやったことなのに、そっちはいい加減にしないんですか」
「あぁ、そうだ、だいたいそっちが悪いん
だ!」
椅子さんが私をじっ、と見る。
「言ってない、言ってない」
「なんで私につきまとうんですか!」
「そんなの、お前が俺だからだ!」
「意味がわかりません、あなたと私は似ていない!」
「こっちこそ、似てるとか言われたら迷惑なんですけどね」
椅子さんが、じっ、と私を見る。
「言ってない、言ってない」
なんだあの言い合い。
おそらく中にいるであろう、ヨウさん一人の姿しかわからないが……
「もしかして、トモミさん? トモミさんと話しているの?」
椅子さんが、怪訝そうにする。
──ガタッ。
椅子さん曰く、恐らく、全部自分の妄想ということにしてしまえば過去に実際に私と戦いになったことまでもを自分の妄想にして誤魔化せると思っているのではないか、だった。そんな感じもする。
「えぇ、ヒキョー!」
男らしい女らしいという言葉には偏見や語弊を含む場合も多くあまり使わないのだけど、あえて言うなら見下げ果てた男だな……と他人事のように眺める。
「ちょっとぉ! 私、こっちなんですけど! なに自分の世界に逃げてんの?
言い争いすらまともに出来ないの?
ふざけないで!」
──言い争ってるうちに行こう。
椅子さんがぐいぐい、と触手で私の腕を引く。ああ、なんかムカついてくる。
「私は此処なんだけど!! あなたの頭のなかじゃなくて!」
ばっ、と振り向き目を向けたロボットさんが、両目からビームを放つのを避け、助走をつけて椅子さんを構える。
地面が、また焦げている。
生々しい煙が鼻腔をくすぐった。
「早く目を、覚まして……!」
また、ビームが放たれ、飛び上がって避け、そのうち、段々慣れてきた。
このまま、走っていけば、このまま、距離を詰めれば……
そう思ったときだった。
今度は光の輪が複数現れて、降ってくる。
「無理……!」
慌てて避けたけれどいくつか避けきれずに、こちらに向かって来たそれを椅子さんが触手を伸ばしてはね除けてくれた。
椅子さんの触手がところどころ傷付いている。
人間の皮膚だったら血が出ているだろう。
「……庇ってくれたんだ、ありがとう」
おかしい、何かが。
──なにか、違和感を覚えた。
でも咄嗟にわからない。
腕が伸びてきて、私たちを払いのけようと動く。
「ジャマヲ、スルナアアアアア!!!」
機械の巨体とはいえ、人のからだに近いと少したじろいでしまいそうだ。
光の輪が再び向かって来る前に、となんとか背後に回り込む。
触手なら私も枝が伸びるはず……
と気付いたが、私の身体でやって大丈夫なやつだろうか?
まあいいや。
「椅子さん、行くよ!」
走って、走って、途中からは椅子さんの背もたれから白く大きな羽が生え、私ごと浮いた。
見つかる前に背後から上空に。
ちょっとの間私が視界から見えなくなると、彼の『一人での戦い』が始まる。
見ている側には彼が何をしているかわからないが、彼は自分自身と向き合って、こうやって私とは話さずに一人で対立を繰り広げているのだ。
一方で、身体は無意識下にこちらに攻撃を続けてくる。ややこしい。今もぶつぶつ言っていて気持ちが悪い。
視界のセンサーは360°あるわけでは無いらしいな、と思いつつロボットさんを見下ろした。
トモミとロボットさんを繋いでいる部分から、微かに魚型のクリスタルが見える。
「あった!」
そして、スキダのに手を翳す。
学校でやってる人も居たからなんとなくわかる。
「告白! 告白! 告白!」
ポケットに入れていたナイフが手のなかで光り出す。少し折れたそれを構えて、
魚の目に向かって振り下ろした。
ドキドキと、ときめいているのがわかる。
「告白っ、告白、告白っ────!!」
なかなか、ヒビが入らない。
ふわっと足元で風が起こる。
スキダに似た小さな何か、椅子さんと同じように輝く何かがあちこちから沸きだして紙飛行機になるとロボットさんに向かっていく。
紙飛行機はやがてぴたりとその身体中に貼り付いた。逃げ回る機体の体力を少しずつ奪うのだろう。紙から触手が伸び、ロボットさんの頭に溶けていた。
「ト…………モ……ミ……トモミ……」
「目を覚まして!
もう居ない死んだ人に身内や親しい人が話しかけちゃいけない。
その世界に憧れてはいけない。本当に、あったとしても、それはいけないことなんだよ」
「トモミ…………ト、モミ……サア……早く……カエロ……」
「今は、わからないかもしれない、でも……繋いではいけない、私、あの場所を観た。私とあなたが望むはずのものがある、あの場所は──」
私の心に、土足で入り込んでまで欲しがったその記憶は、貴方のものじゃないのに。それでも、こだわって、こだわって、こだわって、許されようとして、所有しようとした。
「貴方のこと、呼んでいないのに、どうしてそこまでして──奪いたかったの?
早くそこから出てきて!」
『それしか無いから。好きと嫌いの円環からも外れた自分には、こうやって身体を張るしかないから、かなハァ』
コリゴリの言葉が脳裏に過る。彼も、その一人なんだろうか。こうやって他人から奪わないと何にもないからなのだろうか。
「間違ってるよ……」
ぽつりと呟く。すぐ目の前にロボットさんが騒いでいる。
「どうして愛してるなんて、信じてる? どうして愛してるなんて信じてる?
俺は、俺が好きなだけなのか?」
「ウワアアアアアアアアやめろ! 俺にこんな辛い気持ちを植え付けるな!! この気持ちを取ったら何もないんだ!」
このまま、彼を────
そう思ったときだった。
どくん、と胸が奇妙に高鳴った。
「ぁ──あ…………」
私……なんだか変だ。身体が、おかしい。
手が震える。
「なんで……」
身体が、動かない。怖い。痛い。
痛、い……?
「早く、早く……動かなきゃ」
上級国民にだけ特別に与えられた感情なんて、もちろん私に理解出来るわけがない。
だけど、なんでだろう。
そう、私────
「私、椅子が好きなの」
コンピューターが好きになるなんて、悪いことじゃないと思う。
もし、彼が、周りに否定されて道を違わなかったら、わかりあえたのだろうか。
「人間よりずっと」



