「──恋愛総合化学会は、恋愛を研究する機関の中枢。
内部にいれば、44街がやろうとしている恋愛、という宗教の秘密を暴けると思ったの。あなたたちの、やっている、スキダ狩り──それに利用している粉、あれが恋を引き起こすのならそれがあんな違法な形で知られたら…………」
私は大人びた口調で諭す。
塀の向こうの公民館では、今日も「話を聞く」、という建前のめぐめぐの取り調べが続いている。
カグヤという子は、祖母が倒れたので病院に付き添うらしく、今この場にいるのは彼女だけだ。
「けどっ、スキダを狩れば、告白が始まらない。告白が始まらないなら、恋愛は始まらないんだ、他に方法があるっていうのか?」
着ていたスーツの裾が、強風に煽られる。
冷たい風が全身に吹き付け、薄いシャツを通して肌に染みた。
「……恋愛が、始まらないと総合化出来ない。総合化して、恋愛というシステムを平等に享受しさえすれば、やがてこんな苦しい世界はなくなる! 蔑んだ目を向けられ、犬を殺さなくていいんだ!」
彼女は、くっ、と唇を噛み締めた。
恋愛がシステムとして機能すれば少子化対策にもなるし、人を好きになれない才能に苦しむ人も居なくなる。望まない見合いなんて単語は消え、みんなシステムを平等に享受した幸福を得るかもしれない。
私はただ、恋愛なんてありもしない幻想を、より科学的に解明するかもしれない、その瞬間を見届ける場に立ち会いたい。
「でも──このまま突き合う人たちを、見てろっていうの!?
告白を見てろっていうの!?
めぐめぐだって、観察してまで恋愛をさせたいってこと? 恋愛総合化学会はそれで得た幸せでいいのか、万本屋は、それで!!」



