椅子こん!





偽物の好意




「みんな聞いたか、彼女の力。残念だがどんなに燃え、荒れようと、撮影はやめないぞ? ふふふふ……
むしろ化け物や炎の中の彼女にはとてもそそられたし、意欲がわいてくる、もっと、もっと! 酷くなれ!! トモミの苦しみを思いしれ! そしてお前はトモミになるのだ!!」

私が唱え終えたと同時に、外からロボット越しの声が聞こえてきた。 
わけがわからないが、まるで誰かと通信かなにかで会話しているような感じだ。外でなにかあったんだろうか?
 それにしても、気分が悪い。
彼女は頭の中のトモミの理想を私に重ね合わせて、そしてそんな理想が自分にふさわしいという方程式を完成させている。
 けれど──それはただ、トモミが好きなだけなのだ。トモミというコンピューターと比較してしか自分の基準を決められない呪いにかかって、なんでもトモミに見えてしまっているだけに過ぎなかった。

 現在、理由はわからないがトモミ、に襲いかかられ注意がそれているロボットからのこちらへの攻撃はしばらく止んでいる。私も随分と消耗してしまって、なかなか歩けないので調度良いかもしれない。
 疲れた身体のまま、あの子は無事かな、と片隅で考えながら、同時に、言い様のない怒りがふつふつと沸いてくる。

「よく──わからないけど」 

暴れられる道具でもあれば良かったけれど、私は椅子さん以外で戦ったことがない。目の前の白い子は、立ち尽くすまま、なんとなく淋しそうに私を見ていた。

「私を、トモミにしてもそれは卑怯な摩り替えよ! 彼女の存在をなかったみたいにして、自分が肯定されていたいなんてとんだクズね!」

振り向いて、割れたガラスの向こうの外を見る。微かに、風が入ってくる。少しだけ懐かしいことを思い出した。
(……人形さん、今も、まっていてくれて、嬉しかった。
あんなに辛い毎日だったけど──だから私……)

叫びすぎて、少し、掠れてきた声で、それでも、外に向かって叫ぶ。
そういえば、撮影、されてるのかな。なにかわからないけど、さっきそんなことを言われたような気がする。まさか、あのロボットはそういう機器まで搭載されているのか。

「自分の罪くらい、一生背負いなさいよ!!」

私は、強めに声を振り絞った。
トモミ、が救えなかったということを、彼が何か抱えていることだけはわかる。けれど、私には全く関係のない、彼の自己満足の痛々しい逃避だ。
それを、抱える義理などない。

「あのねぇ、勝手に自分を許すな!!
自分が許した自分の罪でしょう、
抱えられないの!!?
他人に分けてどうするの!?
どうして愚かな自分自身を、認めてあげられないの!?
ちゃんと自分自身を責めなさい!!
それを抱えて、悔い続けることがきっと今のあなたに出来る
本当の贖罪よ!!」

 窓を、開ける。
外の空気に触れたからか淀んでいた部屋の空気は少しマシになっている気がした。

部屋、荒れに荒れた部屋。

奪ったものを、殺したものを、それでも、そうするしかなかったというなら、罪にはその重さぶんの意味がある。
 だから私は、殺したものから逃げる、つもりはない。
そして、人を好きになるとはそういうことだ。いつか誰かを殺すかもしれないと自覚するときめき。
誰かを殺してでも、他人に関わりたいか、と問えば、本当の恋がどこにあるかわかる。

 みんなきっとそうやって来たのだろうなと、今はなんとなくだけど、思っていた。
椅子さんが、私にとって唯一であるように。

 改めて部屋を見渡す。
足元のチラシからいくらかわき出てくる人型が見えるが、雑魚そうだし近寄っては来ない。
根が張っていたような跡は跡形もなく、本当に、幻みたいになくなって居て、ただ強盗があったような部屋に血と油のにおいが充満していた。
これが、いきもののにおい……

「……その、苦しみを、他人に向けたなら……それくらい、ちゃんとしっかりと抱えなさい!!
自分は、にげる、気……もういいなんてことは、一生、無いんだから」

叫びすぎて、疲れて、きた……めまいがする。外に向かうべく窓に手をかける。

「他人に赦されようとするな、甘えるな!!!もういいなんてことは、一生無いんだ!!」