通信
「監督──スタッフ諸君、見えたか? 聞こえたか? 驚いたか?」
無線から聞こえるその声に、
制作会社ビル──あかでみあの内部はいろんな意味で沸き立っていた。
プレハブ小屋だった会社は順調に成果を出し、アパートの一室、そして今や空高く看板を掲げるビルにまで成長している。
それもこれも彼の持ってくる素材、そして、彼のもとに在る徹底した支持者のお陰だった。
彼は幹部という力が届く範囲でならなんでもやった。
本を出すこともあるし、映像を作ることも、音楽を手掛けるときもある。
「何処よりも早く作り、誰よりもこなす」というブラック企業によく見られる鬼の鉄則をもって企画や脚本にも参加している。
『学会が懇意にする制作会社で』幹部という立場を振るえるのはわりかし気分が良い。
「少しへまはしたが、通信は生きているようだよ──私──俺が今居るのは、紛れもなく再現空間の中! そして悲しい少女たちのドラマが展開されているんだ……」
彼──ヨウにとっては他人はただ一様にドラマだった。
トモミ以外の人間は所詮は道具に過ぎない。彼の心はとっくに、在の日に死んだのだから。
当初からロボットに内臓してあった通信をつけていた彼は自分のおかれる状況にも構わず、少女が苦しみ抗う様を記録し続けている。
「俺はこんな素晴らしい素材を撮るために、張り続けたのかもしれない……次に書く仕事も良い本になりそうだ」
一室の中でデスクについていた各スタッフたち(企画会議)は頭上のスピーカーから彼の録音を流され、固唾を飲んだり呆れ返ったり、少女たちに涙したりしながら聞いていたところだった。上から声を流すと頭が痛くなるという者も居るが、まあ我慢して貰おう。
「彼女が洗脳されていたお陰で──いい絵ができそうですね……」
監督、と呼ばれた男が耳に挟んでいたペンを唇の上にのせながら首肯く。ぱっつんとした髪の少しふっくらした女性が、ハンカチで目元を押さえながら紙の束を抱き締める。
「なんだか、心が暖まりましたぁ、うぅ~! 鈴、泣いちゃいそう……」
「…………」
彼女の横に座る若そうな男は黙ってタピオカを飲んでいる。彼の中ではカットのさまざまなパターンが脳内で浮かんで消え、浮かんで消え、を繰り返して忙しかった。次の作品のイメージは怪物と戦う少女の予定で、ヨウの素材提供はアイデアを次々に思い描かせてくれた。
無線越しのヨウの提案をもとに様々に意見が交わされ始めていた時……スピーカーから突如、ハウリング音がけたたましくなり響く。
「──な、なんだ?」
監督まんじという名前──が呼び掛けてもヨウの返事はない。
《すべてを欲し、何もかもを我が物と思い込み、蹂躙の限りをつくした、
傲慢な人類の皆さん》
代わりに、怒りの滲んだ力強い少女の声が響き出した。
《勝手な政治活動、宗教の為、自らの野心の為、
これまで話も関わりもしてこなかった私のことを……どうして、口を出せるのでしょうか。
それこそ、どうして私が認めると思って居るの?
家族がもし生きていれば、なんの許可もなく、世間的な晒し者、どんなに私が止めてもきっと続くと思う……》
《だからこそ、私、人間よりもずっと、椅子さんのことを信じられる
。
勝手に決め付けて勝手に騒いでる
人間側の、勝手な話なんか聞くもんか。
──私は、あなたたちの敵だ!》
外でも、同様にスピーカーがジャックされているらしく、街のあちこちから反響が返ってくる。
「なんだこれは!?」
「少女ちゃんなのですか!?」
「……タピオカ、きれた、むかつく」
「タピオカさん、静かにして!」
「ちょっ、テレビテレビ」
と一同がテレビのスイッチを入れると、恋人届けの申請についての速報が流れて居た。
一方で、市長舎から帰宅した会長は部屋の中、呆然とテレビを見つめて歯ぎしりをしていた。
『あの男』は用事があるといって先に何処かに行ってしまったが、帰り道をわざわざ同じにする程親しくもないし、今日はさっさと寝てしまう方が良いだろうと彼女は道を歩いて──居たらスピーカーの騒ぎの渋滞の群れに遭遇した。
「接触禁止令の準備を始めてすぐに、このニュース……良くないわ、全く、何をやっているの!」
ギョウザさんがなんと言うか。それを考えて見ると、心臓が縮むような思いがした。あの人に恥をかかせるわけにはいかない。
だけど、確かに恋愛条令に欠陥があるのは事実だ。
でも、そんな少数のものなど学会員たちで押しきればどうにかなる、これまでそのやり方でどうにかなってきていた。
「私たちに、怪物と戦う力など……!」
悪魔を早いところ民の視界から排除して、みんなが幸せになる学会の教えを流した方がずっと有意義だ。
秘密の宝石だって、北国から買いに行けば、それを有権者に配布すれば、もっともっと強く立派な学会に生まれ変われる。ギョウザさんだってその援助を惜しまないのだし、
今ならもっともっと、会を強くできる。信者を増やせる……そしたらあの人は認めてくれるかもしれない。
あの人が、褒めてくれるかもしれない。そんなときに『素材』がニュースになんかなったら……!
「いよいよキチガイ扱いが加速する……!」
会長は再び蒼白の顔を自らの両手で覆った。テレビの文字が涙でにじむ。
『ワシが命をかけてやってきたドライブ!何年間もルーティンを踏んでやっと得た!データ!やっとつかんだ!
場所選択、思案ポイント!!!……すべてなし崩し的にゴチャゴチャ~~なかったコトにぃ… ……また1からのルーティン作り! ドーヨーコレ?』
凛凛しい眉。くるんとカールしながら分けられた前髪。フリルをなぜか盛大にあしらったスーツに、パーティーにでも出掛けそうなスパンコールのネクタイ。
極めつけにどこかの国で食される芋虫みたいな、または巨人の指みたいに異様な太さの葉巻を口にくわえ──ニヤニヤ笑うギョウザさんの顔が怒りに歪むなど……見たくもない。
「市から『接触禁止令』の許可が、うまくいかなかったら、めぐめぐから露呈する可能性がある……」
私が指示した戸籍屋からの個人情報洗い出し、精神障害者への薬物許可などもそこに噛んでいる──!
『私は異常ではありません!常識人です』アピールをしなくてはならない。頑張って正気を保たねば。
観察屋が起こしたことはいわば会長の起こしたこと。
「あぁあぁ……!!」
ふらつく足取りで玄関に引き返すと外へ向かう。あちこちのビルに設置されたモニターから既に様々な種族があの報道を見守って居た。
「ありがとう! 心からハッとさせられた!
群れのオスが全員人間に殺されて…………自分が頑張らなければいけないってずっと頭に張り付いてしまっていた、他人を好きになれる才能があるやつを無理に受け入れようとしてた! 卑怯なやり方や、裏で抱え込むなんかせず堂々と戦えば良いんだな!」
ゴブリンが感涙の表情で拍手を送る一方、人間の少女は悲しみに暮れている。
「ぅあ~~~!
この私だけが、エレンにとっての“女の子”でありたかったのにぃ! 対物性愛なんか認めちゃったら、電柱がライバルなんてぇ!」
悲喜こもごも、という感じを眺めながら会長の心は揺れて居た。
今の、あの演説?は悪魔の子が流したのか。
一体どうやって────
民の一体感を見ているとなんだか悔しかった。他の皆と違って、金で会長に買われた身だからかもしれない。
本当は何も知らなくてすぐに周りを振り回す厄介な女。すぐ勘違いばかりして、嘘ばかりついて、それでも、そんな彼女にも……前会長は優しく接してくれた。
『やめろーーーーーー!?』
『どうしてこんなことをッ!?』
『正気に戻れ市長ーーーッ!』
一部の民たちは納得していないらしく、騒ぎ立てている。消防車が通り過ぎていくのが視界に入る。最近あちこちで爆撃が相次いでいるらしいが、会長は指示していない。しかし、ハクナの連中が関わっている可能性は高いだろう。
最近では信者だった老婆が死亡している。接触禁止令の心配をしていた自分の姿を省みる。
──悪魔が、誰なのかわからない。
「私は……間違ってない! 私は間違ってない私は間違ってない」
良い人を演じる、全力で良い人になるんだ、私はみんなを守ろうとした、何にも知らない会長。みんなを幸せにしようとした何にも知らない会長だ。
しかし接触禁止令にも関わるのに、急にあんな速報を入れ、条例を通すとは、上役はどんな考えがあるのだろう?
何にしても上役の決定には誰も逆らえない。歯向かえば永久追放は確定だ。なるべく悪魔の子は孤立させて置きたかったのだが……
「せ、接触禁止令だって、ギョウザさんたちがやらせて居るだけだもの、ねぇ……? よ、よし! 理由はわからないけれど、44街が許可したなら仕方がない! あんな演説を聞くと好きな相手を人間からしか選べないなんてやっぱり可哀想なのね、知らなかった、あぁ……知らなかった……あんな子が、敵だなんて言っちゃうなんて、戦う必要はないのよ~、みんな味方よ~、と……」
会長は電柱の影に隠れながら、こそこそと独り言を呟く。
「そ、そうだわ、学会のみなさんが間違った誤解をしないようにアニメを作らせましょう。
みんなの想いを守る主人公、だとか
──ああ、そうだ、宿敵に負けて相手を認めて自分以外が相手を叩くのは許さない!みたいなのも萌えるわね……はぁはぁ……平和な感じでね、私は間違っていた……でも敵なんか居ないのよー、と言っておけば、私の評価も上がるし、あとはどうにでもなる。裏で黙って工作は続けていけば……」
上役の決定を白紙に戻す、有力な勢力は、1つだけ!!!
支持率、民意を味方にすることだ。
今の会長には国民からの擁護、しか助かる道はない。
ラストチャンスになるかもしれない…………迫害主犯の存在を表沙汰にし、自分は巻き沿いを喰らった被害者だ、と公表を急ぐ、これしかない!!
……ちょうどそのタイミングで会長の携帯電話が鳴った。
「あら……?まんじ先生からだわ」
まんじ監督、は会長とは知り合いで時々会って飲み交わす仲だった。どうかしたのだろうか?
『ねー、会長ちょっと聞いてくれます?』
「あら、また何かありましたか?」
「昨日さ映画の帰りのエレベータで、
前に乗っていた老夫婦のオヤジが 新たに乗ってきた女性2人に対して
『このエレベーター、4人までなんで 1人おりて』と言って降りさせてたんですけど、 みんな映画見た帰りで気分いいのに、そんなケチなこと言わなくていいじゃないかと 」
「監督ったら、相変わらずですね、真面目な方なのよ。4人までならそれが正しいですし」
「……そうなんだけど、満員とかきっつきつでもないしさ 4人が5人になっても変わんねーじゃねえか じゃあお前が降りろよ そんなに4人で乗りたいなら お前が次のエレベーター待ってろよ、バカだな キチ○イだなと」
「あ、そうだ監督! 次にやるアニメ……もう具体的に進んでます? 」
人から叩かれるなんて何でもない。
本当に今更なんてこともない。
ただただ、なんて素晴らしいのだろう。
本来あり得ないことがあり得る、という
倒錯的な、目眩がするような感性に、よくわからない快楽にも似た感覚さえあった。
ただ叩くよりも素晴らしく、皮肉が聞いていて、何よりも貶めてあげられる。
完全犯罪のような、閉じ込められた空間と外からの摩擦を表した力のかかりかたの図が美しいみたいに。
あぁ!本来ならおかしい勝負を強引に勝ち抜こうとして負けた、という体で、
あれを公に晒しあげておけるなんて思いもよらなかった。
このまま、私がいくら叩かれても、 いかにも権力で勝ちました、という感じが滲んで……実に良い構図だ。
例え私が勝っても、権力を振りかざしました、という図が出来るならそれは成功みたいなものだ。
そのあとも、怨みがあると言えば、永遠的に貶め、無視することが可能だ。
早く、
死なないかな?
2021/14:336/7
「監督──スタッフ諸君、見えたか? 聞こえたか? 驚いたか?」
無線から聞こえるその声に、
制作会社ビル──あかでみあの内部はいろんな意味で沸き立っていた。
プレハブ小屋だった会社は順調に成果を出し、アパートの一室、そして今や空高く看板を掲げるビルにまで成長している。
それもこれも彼の持ってくる素材、そして、彼のもとに在る徹底した支持者のお陰だった。
彼は幹部という力が届く範囲でならなんでもやった。
本を出すこともあるし、映像を作ることも、音楽を手掛けるときもある。
「何処よりも早く作り、誰よりもこなす」というブラック企業によく見られる鬼の鉄則をもって企画や脚本にも参加している。
『学会が懇意にする制作会社で』幹部という立場を振るえるのはわりかし気分が良い。
「少しへまはしたが、通信は生きているようだよ──私──俺が今居るのは、紛れもなく再現空間の中! そして悲しい少女たちのドラマが展開されているんだ……」
彼──ヨウにとっては他人はただ一様にドラマだった。
トモミ以外の人間は所詮は道具に過ぎない。彼の心はとっくに、在の日に死んだのだから。
当初からロボットに内臓してあった通信をつけていた彼は自分のおかれる状況にも構わず、少女が苦しみ抗う様を記録し続けている。
「俺はこんな素晴らしい素材を撮るために、張り続けたのかもしれない……次に書く仕事も良い本になりそうだ」
一室の中でデスクについていた各スタッフたち(企画会議)は頭上のスピーカーから彼の録音を流され、固唾を飲んだり呆れ返ったり、少女たちに涙したりしながら聞いていたところだった。上から声を流すと頭が痛くなるという者も居るが、まあ我慢して貰おう。
「彼女が洗脳されていたお陰で──いい絵ができそうですね……」
監督、と呼ばれた男が耳に挟んでいたペンを唇の上にのせながら首肯く。ぱっつんとした髪の少しふっくらした女性が、ハンカチで目元を押さえながら紙の束を抱き締める。
「なんだか、心が暖まりましたぁ、うぅ~! 鈴、泣いちゃいそう……」
「…………」
彼女の横に座る若そうな男は黙ってタピオカを飲んでいる。彼の中ではカットのさまざまなパターンが脳内で浮かんで消え、浮かんで消え、を繰り返して忙しかった。次の作品のイメージは怪物と戦う少女の予定で、ヨウの素材提供はアイデアを次々に思い描かせてくれた。
無線越しのヨウの提案をもとに様々に意見が交わされ始めていた時……スピーカーから突如、ハウリング音がけたたましくなり響く。
「──な、なんだ?」
監督まんじという名前──が呼び掛けてもヨウの返事はない。
《すべてを欲し、何もかもを我が物と思い込み、蹂躙の限りをつくした、
傲慢な人類の皆さん》
代わりに、怒りの滲んだ力強い少女の声が響き出した。
《勝手な政治活動、宗教の為、自らの野心の為、
これまで話も関わりもしてこなかった私のことを……どうして、口を出せるのでしょうか。
それこそ、どうして私が認めると思って居るの?
家族がもし生きていれば、なんの許可もなく、世間的な晒し者、どんなに私が止めてもきっと続くと思う……》
《だからこそ、私、人間よりもずっと、椅子さんのことを信じられる
。
勝手に決め付けて勝手に騒いでる
人間側の、勝手な話なんか聞くもんか。
──私は、あなたたちの敵だ!》
外でも、同様にスピーカーがジャックされているらしく、街のあちこちから反響が返ってくる。
「なんだこれは!?」
「少女ちゃんなのですか!?」
「……タピオカ、きれた、むかつく」
「タピオカさん、静かにして!」
「ちょっ、テレビテレビ」
と一同がテレビのスイッチを入れると、恋人届けの申請についての速報が流れて居た。
一方で、市長舎から帰宅した会長は部屋の中、呆然とテレビを見つめて歯ぎしりをしていた。
『あの男』は用事があるといって先に何処かに行ってしまったが、帰り道をわざわざ同じにする程親しくもないし、今日はさっさと寝てしまう方が良いだろうと彼女は道を歩いて──居たらスピーカーの騒ぎの渋滞の群れに遭遇した。
「接触禁止令の準備を始めてすぐに、このニュース……良くないわ、全く、何をやっているの!」
ギョウザさんがなんと言うか。それを考えて見ると、心臓が縮むような思いがした。あの人に恥をかかせるわけにはいかない。
だけど、確かに恋愛条令に欠陥があるのは事実だ。
でも、そんな少数のものなど学会員たちで押しきればどうにかなる、これまでそのやり方でどうにかなってきていた。
「私たちに、怪物と戦う力など……!」
悪魔を早いところ民の視界から排除して、みんなが幸せになる学会の教えを流した方がずっと有意義だ。
秘密の宝石だって、北国から買いに行けば、それを有権者に配布すれば、もっともっと強く立派な学会に生まれ変われる。ギョウザさんだってその援助を惜しまないのだし、
今ならもっともっと、会を強くできる。信者を増やせる……そしたらあの人は認めてくれるかもしれない。
あの人が、褒めてくれるかもしれない。そんなときに『素材』がニュースになんかなったら……!
「いよいよキチガイ扱いが加速する……!」
会長は再び蒼白の顔を自らの両手で覆った。テレビの文字が涙でにじむ。
『ワシが命をかけてやってきたドライブ!何年間もルーティンを踏んでやっと得た!データ!やっとつかんだ!
場所選択、思案ポイント!!!……すべてなし崩し的にゴチャゴチャ~~なかったコトにぃ… ……また1からのルーティン作り! ドーヨーコレ?』
凛凛しい眉。くるんとカールしながら分けられた前髪。フリルをなぜか盛大にあしらったスーツに、パーティーにでも出掛けそうなスパンコールのネクタイ。
極めつけにどこかの国で食される芋虫みたいな、または巨人の指みたいに異様な太さの葉巻を口にくわえ──ニヤニヤ笑うギョウザさんの顔が怒りに歪むなど……見たくもない。
「市から『接触禁止令』の許可が、うまくいかなかったら、めぐめぐから露呈する可能性がある……」
私が指示した戸籍屋からの個人情報洗い出し、精神障害者への薬物許可などもそこに噛んでいる──!
『私は異常ではありません!常識人です』アピールをしなくてはならない。頑張って正気を保たねば。
観察屋が起こしたことはいわば会長の起こしたこと。
「あぁあぁ……!!」
ふらつく足取りで玄関に引き返すと外へ向かう。あちこちのビルに設置されたモニターから既に様々な種族があの報道を見守って居た。
「ありがとう! 心からハッとさせられた!
群れのオスが全員人間に殺されて…………自分が頑張らなければいけないってずっと頭に張り付いてしまっていた、他人を好きになれる才能があるやつを無理に受け入れようとしてた! 卑怯なやり方や、裏で抱え込むなんかせず堂々と戦えば良いんだな!」
ゴブリンが感涙の表情で拍手を送る一方、人間の少女は悲しみに暮れている。
「ぅあ~~~!
この私だけが、エレンにとっての“女の子”でありたかったのにぃ! 対物性愛なんか認めちゃったら、電柱がライバルなんてぇ!」
悲喜こもごも、という感じを眺めながら会長の心は揺れて居た。
今の、あの演説?は悪魔の子が流したのか。
一体どうやって────
民の一体感を見ているとなんだか悔しかった。他の皆と違って、金で会長に買われた身だからかもしれない。
本当は何も知らなくてすぐに周りを振り回す厄介な女。すぐ勘違いばかりして、嘘ばかりついて、それでも、そんな彼女にも……前会長は優しく接してくれた。
『やめろーーーーーー!?』
『どうしてこんなことをッ!?』
『正気に戻れ市長ーーーッ!』
一部の民たちは納得していないらしく、騒ぎ立てている。消防車が通り過ぎていくのが視界に入る。最近あちこちで爆撃が相次いでいるらしいが、会長は指示していない。しかし、ハクナの連中が関わっている可能性は高いだろう。
最近では信者だった老婆が死亡している。接触禁止令の心配をしていた自分の姿を省みる。
──悪魔が、誰なのかわからない。
「私は……間違ってない! 私は間違ってない私は間違ってない」
良い人を演じる、全力で良い人になるんだ、私はみんなを守ろうとした、何にも知らない会長。みんなを幸せにしようとした何にも知らない会長だ。
しかし接触禁止令にも関わるのに、急にあんな速報を入れ、条例を通すとは、上役はどんな考えがあるのだろう?
何にしても上役の決定には誰も逆らえない。歯向かえば永久追放は確定だ。なるべく悪魔の子は孤立させて置きたかったのだが……
「せ、接触禁止令だって、ギョウザさんたちがやらせて居るだけだもの、ねぇ……? よ、よし! 理由はわからないけれど、44街が許可したなら仕方がない! あんな演説を聞くと好きな相手を人間からしか選べないなんてやっぱり可哀想なのね、知らなかった、あぁ……知らなかった……あんな子が、敵だなんて言っちゃうなんて、戦う必要はないのよ~、みんな味方よ~、と……」
会長は電柱の影に隠れながら、こそこそと独り言を呟く。
「そ、そうだわ、学会のみなさんが間違った誤解をしないようにアニメを作らせましょう。
みんなの想いを守る主人公、だとか
──ああ、そうだ、宿敵に負けて相手を認めて自分以外が相手を叩くのは許さない!みたいなのも萌えるわね……はぁはぁ……平和な感じでね、私は間違っていた……でも敵なんか居ないのよー、と言っておけば、私の評価も上がるし、あとはどうにでもなる。裏で黙って工作は続けていけば……」
上役の決定を白紙に戻す、有力な勢力は、1つだけ!!!
支持率、民意を味方にすることだ。
今の会長には国民からの擁護、しか助かる道はない。
ラストチャンスになるかもしれない…………迫害主犯の存在を表沙汰にし、自分は巻き沿いを喰らった被害者だ、と公表を急ぐ、これしかない!!
……ちょうどそのタイミングで会長の携帯電話が鳴った。
「あら……?まんじ先生からだわ」
まんじ監督、は会長とは知り合いで時々会って飲み交わす仲だった。どうかしたのだろうか?
『ねー、会長ちょっと聞いてくれます?』
「あら、また何かありましたか?」
「昨日さ映画の帰りのエレベータで、
前に乗っていた老夫婦のオヤジが 新たに乗ってきた女性2人に対して
『このエレベーター、4人までなんで 1人おりて』と言って降りさせてたんですけど、 みんな映画見た帰りで気分いいのに、そんなケチなこと言わなくていいじゃないかと 」
「監督ったら、相変わらずですね、真面目な方なのよ。4人までならそれが正しいですし」
「……そうなんだけど、満員とかきっつきつでもないしさ 4人が5人になっても変わんねーじゃねえか じゃあお前が降りろよ そんなに4人で乗りたいなら お前が次のエレベーター待ってろよ、バカだな キチ○イだなと」
「あ、そうだ監督! 次にやるアニメ……もう具体的に進んでます? 」
人から叩かれるなんて何でもない。
本当に今更なんてこともない。
ただただ、なんて素晴らしいのだろう。
本来あり得ないことがあり得る、という
倒錯的な、目眩がするような感性に、よくわからない快楽にも似た感覚さえあった。
ただ叩くよりも素晴らしく、皮肉が聞いていて、何よりも貶めてあげられる。
完全犯罪のような、閉じ込められた空間と外からの摩擦を表した力のかかりかたの図が美しいみたいに。
あぁ!本来ならおかしい勝負を強引に勝ち抜こうとして負けた、という体で、
あれを公に晒しあげておけるなんて思いもよらなかった。
このまま、私がいくら叩かれても、 いかにも権力で勝ちました、という感じが滲んで……実に良い構図だ。
例え私が勝っても、権力を振りかざしました、という図が出来るならそれは成功みたいなものだ。
そのあとも、怨みがあると言えば、永遠的に貶め、無視することが可能だ。
早く、
死なないかな?
2021/14:336/7



