めぐめぐ、みずち、万本屋北香は、アサヒを連れて車に乗り込んだ。
ひとまず、落ち着くところに向かおうという判断で、万本屋の提案で車を走らせる。
町中は不気味な程にあちこちに、恋愛ドラマや恋愛を後押しするような看板が目立ち、いかにも恋愛ムードが演出されていて、ただ立っているだけでも気分が悪くなりそうだったからだ。
恋愛に反対してはいけないような、恋は良いことでしかないというような押し付けがましい雰囲気に感じる息苦しさ。良さげに誇張する意味は、やはり、民を洗脳するためなのだろう。
始終アサヒはなにか取り乱したままだったが、やがて電池が切れたかのように眠ってしまった。
後部座席で寝息を立てている。
「万本屋さん、その……本当に良いんですか?」
寝ているアサヒの隣、心配そうに座るめぐめぐが聞く。運転手の万本屋は、なにが~?と言った。
「元々、私たちを、取り締まりに来たんじゃ……」
万本屋は、あぁ、と何か納得する感じで呟く。
「良いんだ。私もアサヒと同じ。
真実を知ってしまった。知ってからじゃ戻れない。じきにどうせクビになり消されるだろう」
「真実──?」
めぐめぐが不思議そうにする中、みずちが言う。
「ここに来る前、少しめぐめぐのことも含めて、万本屋と話をした。
この街には、恋愛総合化を進めようとする一方で、悪魔が居る。
恋愛を総合的なシステムにするにも、接触禁止令を出されるやつが存在する……大衆の裏で、誰かがそのために犠牲になっているってことを」
それは学生のときの彼女たちの苦しみと同じだった。恋愛で盛り上がるクラスの中で、輪に入れない人を置き去りにする。
万本屋北香が悔しそうに言った。
「結局それって、変わらない。幸せになるやつとならないやつが決まっているなんて、システムは皆の
為じゃない、ただ単に、学会の為なんだって」
クラスで浮くやつは浮き、馴染むやつは馴染むように、平等に恋愛が享受される世界は訪れず、目立つ者がさらに目立つ、目立たない者はそのまま。万本屋北香が理想としていた本来の意味の恋愛総合化は訪れない。それに気付いたとき、ふっと目が覚めた。
めぐめぐも頷いた。
「……街を、洗脳された人たちだけにする、そういう意味だったのかもね」
市庁舎に連れていかれたのは、きっと44街全体に意義があるようなもののためなはずだ。なにがなんでも接触禁止令を出すつもりでいる。何故だかそんな確信めいた予感がする。
「あぁ! ムカつく。なんで、あるかどうかもわからない、目に見えもしないものの為に、民が喜んだり悲しんだりしなくちゃならないんだ……」
みずちは街を睨んだ。
見せてみろ、目の前に、あるってんなら証拠を出してみろ。
みずちはいつもそう思っている。
証拠も無いくせに、44街は、皆の心をふわふわした「恋愛」なんてぶざけたもので奪ったのだ。
そうして格差が生まれた。
恋愛を否定すると私たちはどうやって生まれたのか、と聞かれることがある。恋愛が全ての人間の誕生理由ならある特定分野の犯罪は激減していただろう。
この世には愛し合い、幸せな両親から生まれた存在しか居ないことになる。感情と、愛と、恋は、別物だ。
別物でなくては、ならない。
だからこそ、44街の今の様相は、あるかどうかもわからない恋の為に作られた薄っぺらい偽物のようだ。
とりあえずいつものカフェに入るか、と車が道を曲がろうとしたときだった。
背後で爆発音がした。



