悪魔ぁ!
呪ってみろよ!
呪ってみろよおおおおお!!
44街に、少女の絶叫が響き渡る。
「悪魔あああああああ!!
呪ってみろよ!!
そうやって、呪って、みんな殺してみろよ!!」
彼女を止めるものはなく、彼女を理解する者もない。
『悪魔』という自分の支えを失ったせつは歩道をふらふらと歩きながらも、訴えるように叫んでいた。
アサヒたちは市庁舎の前に向かっていったようだったが、せつは一旦引くことにした。
(──どのみち、あんな人通りのある場所では悪魔の仲間を消すことは出来ない。まあいいわ)
場から抜けたついでに、ふと見ると、携帯端末に連絡が来ていた。
共にウィークリーマンションで暮らす『親切な友人』だ。
彼によれば、ギョウザさんたちがなにやら動いており、せつのことが伝わったかもしれないらしい。
せつの存在が明るみになることは、悪魔が明るみになるということ。
ギョウザさんや幹部にそれが伝わるということは──
簡単に言えば、せつの排除を意味していた。
これまでずっと悪魔に近付くものは事前にリサーチして、先回りして殺して排除して来た。
せつたちには野望がある。
ゆくゆくは44街全てを乗っ取って、そこの神から何から何までを、恋愛総合化学会にし、果てに王に君臨する。
あの『家系』から母を殺して、父も消した。あとは娘だけだった。それに成り代わる役目をせつがこなし、物心がつかないうちに、洗脳すれば楽勝だと、そう考えて今までずっと──うまく、いっていた。
なのになんでだろう。
平和ボケした街行く人たちが、恋愛サイコー!
と叫ぶのすら、いまは、胸がいたい。
かつての宗教に引き込むときの洗脳手順がまだ息づいていることに、安堵と不安、焦燥感を覚える。
(──作戦は、完璧。
確かに、完璧なのに)
観察屋に頼んで、学会の番組で悪魔特集を流しているし、その合間に、胸キュンキュン体操で街全体に連帯感を出す。
悪魔を笑いもの、または醜い存在として繰り返すように全て大人が手配して、物心がついたときにはみんな立派に悪魔を嫌うように育て上げられ、常識を改めて疑うことはない。この手順は、隣国の、せつの国の兵隊を教育するときにも使う有効なもの。
国くらい簡単に奪える、そのはずだった。
仕上げに、仲間を殺すときは必ず「悪魔の呪いだ」と言う。 そうやって都合の悪い人物を消していた。
いつしか本当に悪魔、はよりリアルな形で44街の上に出来上がっていた。
ほら、完璧じゃないか。
なのに……どうして、こんなに、焦燥感にかられるのだろう?
アサヒは、あいつは人間だと言いきった。人間。何年もかけて、教育してきた44街で、よりによって、観察屋が言いきったのだ。
「あぁ──悪魔、あぁ──」
せつは自身が殺されるとしたら悪魔のせいだ、と既に決めつけていた。辛いことはとりあえず悪魔のせいにしている。でも、もう、わからない。
「ああああああ───ああああああ──ひとりぼっちは、嫌ああああ────アーチは、嫌ああああ」
──孤独は、悪か?
囁く声が聞こえて、慌てて辺りを見渡す。誰もいない。
──孤独は、悪か?
「ひとりぼっちは、嫌……」
振り払えない不気味な声に、思わず耳を塞ぐ。
「呪いは嫌ああああ! 早く殺せえええ!」
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