「ハクナは名前通りの、脅迫、恐喝専門部隊。チンピラというより、恋愛総合化学会の専門部所」
兵器
《いい加減にしろ。
お前が、自分の力だというから! それならこの場所がお前のものか見せてみろ、と命・令してるんだ!
従え、拒否権はないと言っているんだが、わからないのか?》
あぁ、なんだ、これは、命令だったのか。
ドアにかけようてした手が、ぴたりと止まる。
──やめた。こんなこと。
見せてみる必要が感じられなくて、もっと先に、やるべきことがある気がした。
「あなた。本当は私のこと、嫌いなんじゃないの?」
《何を言ってる、わからない、君が好きだ》
「ふうん──」
ロボットじゃなくて私が好きなら、ロボットがスキダによる巨大化でこうなったわけでは無さそうだ。
つまりあの女の子の車とは違う。
となると、組織的なものだろう。
椅子さんとロボットに何があったかは知らないけど、こんな兵器を用意するなんて、大きな後ろ楯がないと不可能な気がするから。
だけど、兵器を渡すことは、同時に組織的に何かを裏でやっているということを意味する。無料の地方紙にある、44街スーパーシティ条例には主に自由な恋愛や保証のことがうたわれるくらいだったけど────
(裏で観察屋が動くのはわかる。ロボットなんて初めて聞いた……)
さすがに人間一人の暗殺には大袈裟だし不向きだ。
どういうことなんだろう?
「そんなこと言って、私に気を遣わないでいいのに。嫌い、なんでしょう? 私のこと、まるで見えてないもの」
《何を言う、嫌いなわけがあるか、嫌いな相手の力など欲しいとおもうはずがない》
「言葉を変えるね。
嫌いになってくれ、と言ってたんだよ。
しつこいから、邪魔だから、嫌いだと、素直にはっきり言ってって言うと騒がれそうだから、遠回しに聞いただけなのよ」
《────な……っ》
ドアに背を向けて階段を降りる。
部屋のなかは、見なかった。どうせいつか開ける日が来るドアだし。此処は、ロボットの空間で、本物の家自体ではない。
あのドアは自分の記憶、自分の力をもって開けるもので、今は、ここでは、なんとなく、その方が良いという気がしたから。
……外からまた、轟音。
さすがに気になって一旦振り向いて踊場の奥、窓際まで向かう。外では巨大な人型の影と、ロボットが対峙していた。
「なんだろ、あれ…………」
う……うぅ………………うぅうぅうぅ…………
風のような、唸るような声が響く。
人型の影が発しているらしい。
──ダ!
「え?」
唸ったかとおもえば、影は即座に頭を抱えて叫ぶ。
────キライダアアアアアッ!!
キライダ……モウヤダアアアア!!!
キライダー! キライダアアアアアッ!!キライダ!!
「何を、したの!?」
《私は、知らない!! まさかもうこちらに来るなんて》
轟音。影の怪物がロボットに何かを打ち込もうとする音のようだ。
触手?
「キライダ…………」
ロボットは近接用の武器しか所持して居ないらしいが、短剣はあまり当たって居ない。
指にはめたられ髪飾りからも触手が伸びて絡み付いてきていたから、あれはたぶんその辺りから生まれたのだろう。
《早く、早く力を手に入れなくては──!》
あせる声が聞こえる。理由はよくわからないけど、力を手に入れる、なんて理由は戦うためらしい。
私を羨む前に自分で孤独になってみたことはあるんだろうか。
まあいいか。あらためて、階段がわに背を向け一階に降りる私。
クラスターが睨み付けているが、とりあえず無視して廊下に向かう。
「面白くなっていたのに!」
「期待はずれだ!」
「謝れ!」
「謝れ!」
「面白くないだろうが!」
クラスターも、だんだん凶暴化しているらしい。
「降りたら面白くないだろうが! 聞いているのか!」
どこに居たって笑える場所なんて期待してはいけないしどこに居たって、逃げる場所なんて期待してはいけない。
「────うん」
「心霊写真を撮りたいんだこっちは! 聞いているのか!」
「────うん」
だからこそ、私は期待を裏切ることにした。クラスターは私を見張ることしか言われていない。その私が見張りがいがないので怒って当然だろう。
「──あのさ、巻き込まれたいなら、勝手に事件を起こせばいいんだよ。
孤独になりたいなら、なればいい。
他人なんか使わずに出来ることだよ。
一見凡人には珍しいかもしれないけど、こんなの別に大したことじゃないのよ。
私が、見せてやる意味が感じられない。
たかが人が死んで、たかが心が破壊されて、たかがそれだけの話なんだから。何事も結局、やらなかった人が勝手に言うだけ──いたたたたたたたたたたた!!」
両腕に力が入る。
見ると、クラスターが腕を強く握りしめている。どこか虚ろな顔をしていた。
「ま、待って聞いて、私───心が無くなったことがあるけど、それだけだった。
心なんか動かなくても、身体は動かせるんだから……今だってそう、心なんかろくに動かない状態じゃなきゃそもそもこんなところに入れるわけないじゃない」
液体の海を足でぱしゃぱしゃと跳ねさせると、クラスターは怯えたように私の影にかくれた。死のにおいがする。油の、ぎっとりした重たいにおいがする。少し乾いてきた液体の、錆び付いたにおいもある。
ずっといたら気がおかしくなりそうだ。
外からロボットが叫ぶ。
《────ああああああああ限界だ! お前ごと、透明化して力を身に付けてやる!!!》
二階は一旦置いておいて死体の場所くらいは拝んで行こうと一階の『あの場所』辺りに向かっていると、外から声がした。
背後に光が見える。横目で確かめるに、レーザー光線がさっきまで居た二階を透明にしているらしい。
階段に反射する光がキラキラと輝いて、まるで光の雪のようだ。
ちょっと、きれいかも……
「う、わぁ!」
見とれていると、髪飾りのようなわっかのような光が、壁をすり抜けて乱射される。
「────」
クラスターは、味方である彼女?らも含めて狙われることに驚いているようだったが、同時に重々しい空気を身に纏っていた。表情は虚ろなままだ。
「大丈夫? 私についてきたから大変だね」
クラスターたちは黙ったまま私を二階につれて行こうとしている。そりゃまだ完全に透明化してないけれど、渦中に行かなくても。
「あ、あのね。一瞬だけ、心が動くより先に身体が動くようにすると良いよ。余計なことを考えなきゃ大抵のことには傷付かないんだから、そしたら大体苦しむ前に行動が終わって────」
腕を振り解こうとしていると、クラスターが何か、しゃべった。
「──え?」
「う──頭が。……スキダ……スキダアアアアアアアア!!!!!」
クラスターがスキダの影響に当てられて、正気との境をさ迷っている……
虚ろなまま、私を捕まえようとより体を近付けてくる。
「ここにも、やっぱりあれは、居るんだ……!」
咄嗟に足払いをして転ばせた隙にリビングの方に走った。
もしかしたら。でも、どうしよう、あのロボットにとりあえず報告────
「キライダアアアアアアアアアア────!!────キライダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
外で叫び声がした。耳を塞ぐ。
「うるさい! どうしてみんな、他人を好きになったり嫌いになったりするの!? それさえ無ければ、争いは起こらないのに!
心を持ちすぎだよ! 持たなきゃそんなことに惑わされないのに……」
走ってすぐに着いたリビングや辺り一体の有り様はひどかった。
強盗でも入ったのだろうか。
机のあらゆる引き出しが引き出され、絨毯がぐしゃぐしゃな状態で敷かれ、ローテーブルにグラスや水、置いてあった花の置物が散乱している。
そして無数の紙が散らばっている。
「市の情報誌……お買い物クーポン券……保険のお知らせ……うわっ!」
窓からわっかが飛んで来て、私を狙う。
やっぱりあれは、あの髪飾りだろうか。
薄暗い部屋のなか、デスクの小さな明かりだけをつけて周囲のものを確認する。
「悪魔セールを開催します……悪魔割引が適用できます…………新医療保険:devilは、もしものときのあなたの命綱に……
なにこれ、全部悪魔絡みだ」
新医療保険:devil♪
医療保険devil♪
悪魔に乗っ取られた!?
そんなとき、あなたを保証する♪
そういえば小さな頃に、ラジオからそんな曲が軽快なリズムで流れてきていたような。
──悪魔なのよ。
「お、かぁさ……」
また心臓が暴れ、動悸が激しくなる。
小さな頃に意味もわからずに歌っていた。
不安になり手にしている紙飛行機を見──てみると、なんだか黒ずんでいた。
「嘘……何か汚れることしちゃったかな」
──────
椅子さんのクラスターがこうなるなんて、椅子さんが、来られないことと、関係があるんだろうか。
「つかさっきの何? ホラーゲームで座りこんじゃいけないでしょ!」
「え?」
一瞬ぼんやりしていると、すぐに、クラスターが追い付いてきた。
しまった……
彼女たちは、外から飛んでくるわっかを手にするとそれを改めて私に投げつけてくる。そのときは驚いて咄嗟に顔を腕で覆うことしか出来なかったが、はずれたようで、壁にぶつかって消えていく。
「──なぜ私を拘束するの?」
じきに、次の攻撃が来るだろうと警戒しながらも、一応聞いておく。
クラスターはとても冷静だった。
「逃げるな、お前がやると思って実行したんだ──ス──スキダ…………スキダアアアアアアアア……なんだ、これは……スキが、溢れて…………」
脅されたら私が従う、そしてロボットに力が渡ると思っていたのに無視されたり座られたりで傷付いて居るらしい。
(……しかし、流暢な言語だなぁ)
クラスターがやけに、人間味を帯びてしまっているのは初めて見た。
これはこの空間の影響だろうか。
彼女たちは、私を面白がれないことや、ホラーゲームなのに座った、ことを口々に批難しながら迫ってくる。心霊現場に、ホラーゲーム。
彼女たちにとって他人のことは楽しいイベントに過ぎない。
「う、うわあああ!
スキダアアアアアアアアアアアアアッイクナアアアアアアッ!! スキダアアアアアアアア」
「──やっぱり、こうなるか……」
ちょっとは違うことを期待したのに。
アサヒが言うには、私に近付くと、スキダに侵食される速度が急激に速まるという。
この空間が私の精神の再現ともなれば怪物化から逃れるすべは無さそうだった。
202103/1917:02



