巨大なロボットと戦っているクリスタルを見て『あれは、椅子さんだ』と私は直感的にそう思った。
そうとしか考えることが出来なかった。
「殺すなら、私を殺せばいいでしょ! 私だって悪魔よ! ロボットさんの敵でしかないんだから!」
聞こえるかどうかはわからないけれど叫びながら、見えている方角を目指す。
「えと……たしか、こっちの方だったよね?」
坂道を下るにつれて普通なら、椅子さんたちの位置が周りの景色に溶け込んでしまうのだが、さすがに巨大なロボットなだけあって、見失うことはなかった。
だけど、どうして椅子さんを攻撃してきているんだろう? ロボットに椅子さんから絡んだ様子は今までなかったのに。
私が知らないうちに何か、あったのだろうか。
──でも、こんなの、一方的だ。
椅子さんは黙ったまま、市庁舎の近くにあるビルの真上に君臨するように浮いていた。ロボットも同じく、集まってくるクリスタルをものともせずに堂々と佇んでいる。
「椅子さんをいじめないでっ!」
椅子さんの近くに行こうと走る。
椅子さんは上空からちらっとこちらを見て『危ないよ』とだけ言った。
木でいると素材的に摩擦に負けやすいらしくて体をあの光で覆っているようだが、確かに椅子さんだった。
「どうしてこんなことするの!?」
『ハハッ、期待を裏切る者の末路が此方ですか──』
ロボットの口のスピーカー部分から、誰かの声が投げられた。
期待? なんのことだろう。
『処分されたくないなら今のうちに、逃げた方がいい』
「私は、期待なんか知らない! でも、私逃げない。私だってあなたの敵だから!」
『いいから、早く退いてください、次こそは数を減らして我々がもっとうまく使うつもりですから』
「うまく使うって何!?」
ロボットは腕から短剣らしきものを取り出して構える。
──あら、銃器の許可は降りていない?
椅子さんが質問すると、ロボットはそちらに向かって切りつけた。
『……家具風情が』
椅子さんはそれをかわして静かに浮いている。……不思議な光景だ。
──使うことばかり。
そんなに、あの子たちを素材に使わなければ、自分では何も出来ないのか。
名誉毀損だなんてよく言えたものだ。
椅子さんの近くに行きたいが、浮いているため届かない。
「ねぇ、何が起きて──」
振り向いて、誰かに話し掛けようとして気付く。アサヒは着替えとかを取りに向かっている。女の子も一緒に行ったらしいので、ここには私だけ。
強い風が吹いて、私の体勢が思わずくずれる。
ロボットが一歩、歩いたのだ。
『うまく使う、使ってみせる──!』
えと……使う、って私たちのこと!?
──迫害や事故、爆撃にあった家をどうコメディにするかしか考えないのか。
『迫害? 爆撃? それにあえば、経験から魔の者に勝てるのなら、安いじゃないか! 私だって虐待に合いたい! 私だって強くなる力がほしい! 虐待にあった子が、目の前で私を飛び越えていくのなら、私も虐待を受けて力を手にしたい。悔しいじゃないか!
力がほしい! 簡単に敵をキャッチ出来るような、虐待にあった子の力、経験が!
簡単に!』
何を言っているのか、よくわからなかった。虐待にあった子が、耐え抜くことが、目の前でそれを乗り越えて先に行くことがそんなに不愉快だなんて……
それが出来るなら虐待を受けてみたいなんて。簡単に、なんていうけど、きっと並大抵の努力じゃないはずだ、それすら、簡単に行ったようにしか想像が出来ない……いや、想像力が、備わっていないのか。
このロボットには他人の努力も、他人の痛みも認識し理解することが出来ないんだ。
ただ、力が欲しい。
力を得るためなら、何だっていい。
傷付いていても、爆撃にあっても、迫害からどうにか抜け出そうとしても、何も、感じない。ちょうどいい力でさえあるのなら
。
走り出したロボットが椅子さんに向かって飛び上がる。同時に椅子さんが唸る。そして強い光に包まれて輝きだした。
────ガタッ!!!
────────ガタッ!!!!
────クラスターを発動。
『ハハッ。この近辺はあのお方のクラスターが固めているんだから、他のクラスターが入る隙なんてないのだ!』
確かに、クラスターが集まってくる。気が付くと街のあちこちから、クラスターが現れていた。
「えっ!」
そして、気が付くと、私の両脇に光輝く人型が立っていて、両腕を掴もうとしていた。思わず立ち上がる私の体を両方から引っ張る。
『いいか、そいつは迫害にあった人間のサンプル素材だ! なかなか手に入らんから殺すなよ!』
ロボットが、迫害にあった人間のサンプル素材、の力を殺さないよう指示を出す。
「離して! 私は、素材になるために迫害にあったんじゃない!!その力は、私のものよ!! 迫害されてまで手にした、私のためのものなのよ!」
『そうか、ならば、わかったぞ!
クラスターを発動!
お前に見せよう、だから迫害のちからの本領を見せてみろ!
クラスター効果──再現──事件現場!
』
無意識に瞑っていた目を開けたとき、現れたのはいつもと変わらぬ町だった。ただし、それはある一軒の新しい家が建っていることなどを覗いてだ。
(ここは……)
玄関先に育てられている小さな花やミニトマトを眺めながら、その家、を見上げる。ちょうど、ドアから自分を幼くしたような女の子が出てきた。
「人と、人が、いまーす」
両手で人形をふたつ手にして庭で遊んでいるみたいだ。
「うわーー」
どしん、と片方が庭に投げ出されると女の子は無邪気に笑った。
「地面にくっついたな! お前、土や草のことが好きなんだろう!」
片方の人形に、庭に投げ出された方をゆびさして言わせると、もう片方
も動かす。
「おかしい。くっついたくらいで、恋人なら、接着剤には何人の愛人がいるんですか!」
「なにも触るんじゃない!」
「いいえ、何を触ったとしても、それが恋だなんておかしすぎます。朝おきて、あなたに会うまでにさまざまなものが手に触れました、口にも触れました、だからなんだというのです? それが人に何か、批難する理由になりますか」
「なるさ! それはうわきだ。
これから、家にあるコップを壊してこよう」
人形は人の形を模していることがわかるくらいで、ほとんどピクトグラムのように表情がなく、人によっては不気味にも映るかもしれない。けれどその子は気に入っている様子だった。
「あなたは、何を触っても良いのよ」
女の子は独り言のように呟いて、人形を膝の上に置き、自分自身をぎゅっと抱きしめると、ぼーっと座り込む。
「あの人が口にする食べ物だって、触れて体内に入っていく。私はとがめたことがない」
家の中から誰かの呼ぶ声がして彼女は家の中に戻っていく。
異様な光景をしばらくじっと見守っていたが、同じくしばらく静かにしていたロボットが腕を伸ばして手をグー、パー、と開いたり閉じたりしながら嬉しそうに言った。
『正しく着いたようだな!』
場所を確認して頷いたロボットの目からレーザー光線が放たれる。視界に見えていた空間が宇宙のように大きく広がり始めた。
『懐かしいだろう? ここにあるものは、お前に映る現場を我々の記録技術によって
一部だけ再現したものだ』
レーザー光線を放たれると、家や街がどんどん透明に変わっては消えていく。建物の中に人が居る様子が映り、それが次第に溶けてなくなる。此処、は偽物で、生き物じゃないことは知っていてもなんだか良心が痛んだ。なんのために、こんなことを。
『この場所の発想はなかったって感じですな。なんだか凄い気が満ちているような気がする!
これで、これを浴びていれば私も凄い存在になれる……!』
はしゃいでいるロボットの脇から、むくりと透明の存在が起き上がると、一度破壊した周囲の、あの家の近くだけが修復され始めた。
先ほど焼き払われた『透明な存在』の、いくつかが雪のように舞い降り、ロボットの周囲に集まってくる。私のところにも降り注いだ。ひんやりして心地いい。
『さあ、透明化させた迫害の力を浴びるときだ!!』
ロボットに降り注いだ透明な何かがやがて意思を持つかのように金色に輝くと機体に溶け込んだ。せっかく再現したのに空間のみを残して建造物や人間を取り払う必要があるのだろうかと思っていたが消えたばかりの概念体だけを吸収するためか。
確かに一瞬でそれをするには人力では到底難しい。
透明になった雪は、ロボットの身体を禍禍しくパーツごとに変化させていく。ロボットの身体がより固そうに艶と光沢を帯び、継ぎ目が細く引き締まると同時に、固い素材感のある羽が生えていた。
『美しい……! 迫害は、いじめは、痛みは、美しい……! 他人のを纏うとよりいっそう輝くな!』
私は目で椅子さんを探す。
そういえばどうして、椅子さんはこの人と戦っているんだろう?
あと、このロボットはそもそも何なんだろう? 椅子さんのように、ロボットが好きな誰かの、恋人だろうか。
「──椅子さーん」
『どうした? お前の、空間だ!
戦いやすいように此処に合わせたんだから、さっそくお前の力を見せてみろ!
使われたくなきゃ、その迫害の素材にどれだけ価値があるか、証明して見せてくれ!』
価値?
迫害の力?
使われたくなきゃ素材にどれだけ力があるか証明?
何を言われてるかわからない台詞が並ぶ。
そもそも使われたくなきゃっておかしくない?
「私は、こんなところで戦っている場合じゃないの! あなたに証明して何になる?」
『負けるのが怖いのか!』
ロボットは短剣を構えて腕を振り下ろすそぶりを見せる。
人と人とが仲良く張り合ったり、喧嘩したり、好きになったり、そんなのをわざわざやるなんていかにも他人を好きになる才能がある人がやることで、私は好みじゃなかった。
絡まれて、彼と何か関係があるように思われるのはごめんだ。
「あなたこそ、自分より若い人と同じ空間で張り合ったりしてみっともないと思わないの?」
走りだそうとして、身体がぐっと両端から押される。そうだった、このロボットのクラスターだ。
『────思わないね!』
嬉しそうな声とともに、ロボットは少しずつこちらに迫ってくる。
『さぁ、戦え~~! 迫害の証明だ~!
じゃないと、《使われる》ぞ~~!!!』
「いやあああああああああああ!!」
短剣を持っていない片方の手には、血塗れの物体──首から上の無い誰かの死体がつまみ上げられて不安定に指先で揺れていた。
『ふうん、この落ちていた死体は、強さに関係があるのか』
ロボットは透明な家から、次々と引っ張りだして身に付けていく。透明な死体を食べ、庭に転がった髪飾りを指輪のように指にはめている。あれ、ロボットって死体を食べるんだっけ。
一体化していくのを眺めたまま、私はクラスターのせいで動けない。
もがく指先に、どこかから飛来した紙飛行機が当たる。
「椅子……さん……」
椅子さんのクラスターだ。
だけど、椅子さんは何処に居るんだろう。
『さぁ、その強さで、これらのパーツになった存在を、すべて私と分離させてみろ!』
透明になった家の中では、揉み合いが起きている。血の気が引くような光景。
ヒントがあの中にある。
答えが。
『それが出来なければ』────!
(2021/3/13/13:30)
「私たちには話す機会も与えられないのか!」
カフェの席のひとつで、市庁舎から追い出された金髪の少女が嘆いたとき、万本屋北香は横で提案をしていた。
「迷惑をかけてしまったので私個人の選択でやった、すべての責任を負いますから発表の段取りをしてほしいと、嘘の相談をもちかけるのはどう?」
確かに、そうしたら高い可能性で時間を作ってくれるかもしれない。
「会えばこっちのものよ。
自分の学会での功績アピールに話しをすり替える、とかしてさ」
そうとしか考えることが出来なかった。
「殺すなら、私を殺せばいいでしょ! 私だって悪魔よ! ロボットさんの敵でしかないんだから!」
聞こえるかどうかはわからないけれど叫びながら、見えている方角を目指す。
「えと……たしか、こっちの方だったよね?」
坂道を下るにつれて普通なら、椅子さんたちの位置が周りの景色に溶け込んでしまうのだが、さすがに巨大なロボットなだけあって、見失うことはなかった。
だけど、どうして椅子さんを攻撃してきているんだろう? ロボットに椅子さんから絡んだ様子は今までなかったのに。
私が知らないうちに何か、あったのだろうか。
──でも、こんなの、一方的だ。
椅子さんは黙ったまま、市庁舎の近くにあるビルの真上に君臨するように浮いていた。ロボットも同じく、集まってくるクリスタルをものともせずに堂々と佇んでいる。
「椅子さんをいじめないでっ!」
椅子さんの近くに行こうと走る。
椅子さんは上空からちらっとこちらを見て『危ないよ』とだけ言った。
木でいると素材的に摩擦に負けやすいらしくて体をあの光で覆っているようだが、確かに椅子さんだった。
「どうしてこんなことするの!?」
『ハハッ、期待を裏切る者の末路が此方ですか──』
ロボットの口のスピーカー部分から、誰かの声が投げられた。
期待? なんのことだろう。
『処分されたくないなら今のうちに、逃げた方がいい』
「私は、期待なんか知らない! でも、私逃げない。私だってあなたの敵だから!」
『いいから、早く退いてください、次こそは数を減らして我々がもっとうまく使うつもりですから』
「うまく使うって何!?」
ロボットは腕から短剣らしきものを取り出して構える。
──あら、銃器の許可は降りていない?
椅子さんが質問すると、ロボットはそちらに向かって切りつけた。
『……家具風情が』
椅子さんはそれをかわして静かに浮いている。……不思議な光景だ。
──使うことばかり。
そんなに、あの子たちを素材に使わなければ、自分では何も出来ないのか。
名誉毀損だなんてよく言えたものだ。
椅子さんの近くに行きたいが、浮いているため届かない。
「ねぇ、何が起きて──」
振り向いて、誰かに話し掛けようとして気付く。アサヒは着替えとかを取りに向かっている。女の子も一緒に行ったらしいので、ここには私だけ。
強い風が吹いて、私の体勢が思わずくずれる。
ロボットが一歩、歩いたのだ。
『うまく使う、使ってみせる──!』
えと……使う、って私たちのこと!?
──迫害や事故、爆撃にあった家をどうコメディにするかしか考えないのか。
『迫害? 爆撃? それにあえば、経験から魔の者に勝てるのなら、安いじゃないか! 私だって虐待に合いたい! 私だって強くなる力がほしい! 虐待にあった子が、目の前で私を飛び越えていくのなら、私も虐待を受けて力を手にしたい。悔しいじゃないか!
力がほしい! 簡単に敵をキャッチ出来るような、虐待にあった子の力、経験が!
簡単に!』
何を言っているのか、よくわからなかった。虐待にあった子が、耐え抜くことが、目の前でそれを乗り越えて先に行くことがそんなに不愉快だなんて……
それが出来るなら虐待を受けてみたいなんて。簡単に、なんていうけど、きっと並大抵の努力じゃないはずだ、それすら、簡単に行ったようにしか想像が出来ない……いや、想像力が、備わっていないのか。
このロボットには他人の努力も、他人の痛みも認識し理解することが出来ないんだ。
ただ、力が欲しい。
力を得るためなら、何だっていい。
傷付いていても、爆撃にあっても、迫害からどうにか抜け出そうとしても、何も、感じない。ちょうどいい力でさえあるのなら
。
走り出したロボットが椅子さんに向かって飛び上がる。同時に椅子さんが唸る。そして強い光に包まれて輝きだした。
────ガタッ!!!
────────ガタッ!!!!
────クラスターを発動。
『ハハッ。この近辺はあのお方のクラスターが固めているんだから、他のクラスターが入る隙なんてないのだ!』
確かに、クラスターが集まってくる。気が付くと街のあちこちから、クラスターが現れていた。
「えっ!」
そして、気が付くと、私の両脇に光輝く人型が立っていて、両腕を掴もうとしていた。思わず立ち上がる私の体を両方から引っ張る。
『いいか、そいつは迫害にあった人間のサンプル素材だ! なかなか手に入らんから殺すなよ!』
ロボットが、迫害にあった人間のサンプル素材、の力を殺さないよう指示を出す。
「離して! 私は、素材になるために迫害にあったんじゃない!!その力は、私のものよ!! 迫害されてまで手にした、私のためのものなのよ!」
『そうか、ならば、わかったぞ!
クラスターを発動!
お前に見せよう、だから迫害のちからの本領を見せてみろ!
クラスター効果──再現──事件現場!
』
無意識に瞑っていた目を開けたとき、現れたのはいつもと変わらぬ町だった。ただし、それはある一軒の新しい家が建っていることなどを覗いてだ。
(ここは……)
玄関先に育てられている小さな花やミニトマトを眺めながら、その家、を見上げる。ちょうど、ドアから自分を幼くしたような女の子が出てきた。
「人と、人が、いまーす」
両手で人形をふたつ手にして庭で遊んでいるみたいだ。
「うわーー」
どしん、と片方が庭に投げ出されると女の子は無邪気に笑った。
「地面にくっついたな! お前、土や草のことが好きなんだろう!」
片方の人形に、庭に投げ出された方をゆびさして言わせると、もう片方
も動かす。
「おかしい。くっついたくらいで、恋人なら、接着剤には何人の愛人がいるんですか!」
「なにも触るんじゃない!」
「いいえ、何を触ったとしても、それが恋だなんておかしすぎます。朝おきて、あなたに会うまでにさまざまなものが手に触れました、口にも触れました、だからなんだというのです? それが人に何か、批難する理由になりますか」
「なるさ! それはうわきだ。
これから、家にあるコップを壊してこよう」
人形は人の形を模していることがわかるくらいで、ほとんどピクトグラムのように表情がなく、人によっては不気味にも映るかもしれない。けれどその子は気に入っている様子だった。
「あなたは、何を触っても良いのよ」
女の子は独り言のように呟いて、人形を膝の上に置き、自分自身をぎゅっと抱きしめると、ぼーっと座り込む。
「あの人が口にする食べ物だって、触れて体内に入っていく。私はとがめたことがない」
家の中から誰かの呼ぶ声がして彼女は家の中に戻っていく。
異様な光景をしばらくじっと見守っていたが、同じくしばらく静かにしていたロボットが腕を伸ばして手をグー、パー、と開いたり閉じたりしながら嬉しそうに言った。
『正しく着いたようだな!』
場所を確認して頷いたロボットの目からレーザー光線が放たれる。視界に見えていた空間が宇宙のように大きく広がり始めた。
『懐かしいだろう? ここにあるものは、お前に映る現場を我々の記録技術によって
一部だけ再現したものだ』
レーザー光線を放たれると、家や街がどんどん透明に変わっては消えていく。建物の中に人が居る様子が映り、それが次第に溶けてなくなる。此処、は偽物で、生き物じゃないことは知っていてもなんだか良心が痛んだ。なんのために、こんなことを。
『この場所の発想はなかったって感じですな。なんだか凄い気が満ちているような気がする!
これで、これを浴びていれば私も凄い存在になれる……!』
はしゃいでいるロボットの脇から、むくりと透明の存在が起き上がると、一度破壊した周囲の、あの家の近くだけが修復され始めた。
先ほど焼き払われた『透明な存在』の、いくつかが雪のように舞い降り、ロボットの周囲に集まってくる。私のところにも降り注いだ。ひんやりして心地いい。
『さあ、透明化させた迫害の力を浴びるときだ!!』
ロボットに降り注いだ透明な何かがやがて意思を持つかのように金色に輝くと機体に溶け込んだ。せっかく再現したのに空間のみを残して建造物や人間を取り払う必要があるのだろうかと思っていたが消えたばかりの概念体だけを吸収するためか。
確かに一瞬でそれをするには人力では到底難しい。
透明になった雪は、ロボットの身体を禍禍しくパーツごとに変化させていく。ロボットの身体がより固そうに艶と光沢を帯び、継ぎ目が細く引き締まると同時に、固い素材感のある羽が生えていた。
『美しい……! 迫害は、いじめは、痛みは、美しい……! 他人のを纏うとよりいっそう輝くな!』
私は目で椅子さんを探す。
そういえばどうして、椅子さんはこの人と戦っているんだろう?
あと、このロボットはそもそも何なんだろう? 椅子さんのように、ロボットが好きな誰かの、恋人だろうか。
「──椅子さーん」
『どうした? お前の、空間だ!
戦いやすいように此処に合わせたんだから、さっそくお前の力を見せてみろ!
使われたくなきゃ、その迫害の素材にどれだけ価値があるか、証明して見せてくれ!』
価値?
迫害の力?
使われたくなきゃ素材にどれだけ力があるか証明?
何を言われてるかわからない台詞が並ぶ。
そもそも使われたくなきゃっておかしくない?
「私は、こんなところで戦っている場合じゃないの! あなたに証明して何になる?」
『負けるのが怖いのか!』
ロボットは短剣を構えて腕を振り下ろすそぶりを見せる。
人と人とが仲良く張り合ったり、喧嘩したり、好きになったり、そんなのをわざわざやるなんていかにも他人を好きになる才能がある人がやることで、私は好みじゃなかった。
絡まれて、彼と何か関係があるように思われるのはごめんだ。
「あなたこそ、自分より若い人と同じ空間で張り合ったりしてみっともないと思わないの?」
走りだそうとして、身体がぐっと両端から押される。そうだった、このロボットのクラスターだ。
『────思わないね!』
嬉しそうな声とともに、ロボットは少しずつこちらに迫ってくる。
『さぁ、戦え~~! 迫害の証明だ~!
じゃないと、《使われる》ぞ~~!!!』
「いやあああああああああああ!!」
短剣を持っていない片方の手には、血塗れの物体──首から上の無い誰かの死体がつまみ上げられて不安定に指先で揺れていた。
『ふうん、この落ちていた死体は、強さに関係があるのか』
ロボットは透明な家から、次々と引っ張りだして身に付けていく。透明な死体を食べ、庭に転がった髪飾りを指輪のように指にはめている。あれ、ロボットって死体を食べるんだっけ。
一体化していくのを眺めたまま、私はクラスターのせいで動けない。
もがく指先に、どこかから飛来した紙飛行機が当たる。
「椅子……さん……」
椅子さんのクラスターだ。
だけど、椅子さんは何処に居るんだろう。
『さぁ、その強さで、これらのパーツになった存在を、すべて私と分離させてみろ!』
透明になった家の中では、揉み合いが起きている。血の気が引くような光景。
ヒントがあの中にある。
答えが。
『それが出来なければ』────!
(2021/3/13/13:30)
「私たちには話す機会も与えられないのか!」
カフェの席のひとつで、市庁舎から追い出された金髪の少女が嘆いたとき、万本屋北香は横で提案をしていた。
「迷惑をかけてしまったので私個人の選択でやった、すべての責任を負いますから発表の段取りをしてほしいと、嘘の相談をもちかけるのはどう?」
確かに、そうしたら高い可能性で時間を作ってくれるかもしれない。
「会えばこっちのものよ。
自分の学会での功績アピールに話しをすり替える、とかしてさ」



